表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳戦争  作者: 影宮閃
3/19

第三章 別件

2016年 ジャパン、陸上自衛隊の情報通信システムがサイバー攻撃を受ける。

      米軍、脳とコンピューターを繋ぐためのインプラントの研究に6,200万ドルの予算を投入。

      米FBI及びCIA、大統領選挙に影響を与えるため、ロシアがサイバー攻撃を実施したとの結論付けで一致。


2020年 北朝鮮、東京五輪の勘隙を狙い、ジャパンに対して大規模サイバー攻撃を敢行。


2025年 米ワシントン大学、脳波によるコンピューターの制御に成功。

      同年、ワシントン大学メインサーバーがサイバー攻撃を受ける。


2029年 米FBI、ワシントン大学に対するサイバー攻撃を行ったとして、中国サイバー部隊十二名の実名と写真を公開。


2033年 中国軍、米NSFに対する大規模サイバー攻撃を開始。NSFの保有する機密情報の三割超が流出。


第三章 別件




十一月11日現地時間(TOKYO)午前7時01分。MCPジャパン支部総括本部刑事部捜査一課。

「どういうことですか!」

 電話がひっきりなしに鳴る忙しい朝。陣は部屋中に響き渡る勢いで机をたたく。

「言った通りだ」

 負けじと柴咲も大きく唸る。

「被疑者の健康状態をかんがみ、早期に送致手続きをとれ――もう決まったんだよ」

「明日の朝でも送致は間に合います。もう一度検事にかけあって――」

「あぁ何度も言った!けどな!このままじゃ公判も維持できん。万が一MP(メンタルパラドックス)でも起きてみろ、人権問題に火が付くだろうが」

「向こうでクラーク部長がもう一度聴取に向かってるころです!こっちもすぐに出ます!あと少しだけ――」

「もう留置は送致の手続きに入ってるんだよ!わざわざこっちで釈るんじゃなくて、検釈(けんしゃく)にして世論の的を買って出てくれてんだ!検察の思いもくみ取ってやるしかないだろう!」

 身振り手振りを交えて訴えてみたが、男を釈放する流れはどうやら変えられないようだ。これが所謂法律の壁と言うやつだ。

 陣は声にならないうめき声をあげ、右手で額を押さえる。

「くそ、キノ!没入(ダイブ)準備急げ!」

「は、はい!」

 出勤したばかりの木下は、持っていたコーヒーを乱暴に置いて走り出す。陣もトレンチコートを羽織り、追いかける。

「班長、行ってきます」

 柴咲は無言でダイブルームの方を指差し、うなずいた。




「――で、どうするんですか」

 サイバー空間内の検察庁庁舎。今回のように特殊な事情でサイバー空間内の身柄しか確保できなかった被疑者は、ここに送られてくる。本来はサイバー空間で逮捕した後、現実世界の身柄を確保、送致する検察庁も現実世界の方となる。今回が異例づくしなのだ。

「検釈にするなら、手続きが終わり次第そのまま出すんだろう。当然任意の取り調べに応じる義務はあるし、説得もするんだろうが……聞くような男じゃない。逃げるにきまってる」

 陣は検察官の取調室めがけて、若干小走りになりながら早口でまくし立てる。

「だから釈放後、後を追う。奴がどのアクセスポイントから帰るのか知らねえが、使えば必ずログが残るんだ。そこから没入(ダイブ)地点を割り出してやる」

「了解っす」

 作戦を話しながら廊下の角を曲がると、アクセスポイントから出てきた男と鉢合わせる。このアクセスポイントは留置場と直通のものだ。男は前後を介護員に挟まれ、手錠をかけられている。

 陣と木下は立ち止まり、こちらへ向かって歩いてくる男をにらみつける。その視線に気が付いたのか、男は陣の目の前で立ち止まる。そして、なめ回すようにジロジロと陣の顔を、陣の顔だけを見てくる。

「どこかで……お会いしたような」

 男はわざとらしくゆっくりと喋り、間をためる。相変わらず気味の悪いぬらぬらとした声だ。

「ああ、お前を捕まえたからな」

 陣はできる限り憎しみを込めて、吐き出すように返す。

「あぁ~」

 男は(手錠で繋がれているため)両手を上げ、そうだそうだと人差し指で天を指す。

「この度はどうもお騒がせしました。アー、失礼。お名前を、知らないもので」

 陣は男に近づき、至近距離でにらみを利かせる。

「武田だ。武田陣。階級は巡査部長。そのうち嫌でも思い出すようにしてやる」

 男は全く意に介さず、わずか数センチ先の陣の目を真正面から見据える。奇妙なほどスマートな顔。おまけにへらへらと口の端をゆがませている。

「あぁなるほど……タケダ……巡査、部長!……ふん、ふあ。ご心配なく――」

 そこまで言って、男はにんまりと笑い――

「――絶対に忘れないさ」

 低く、小さな声で、しかし力強く、陣だけに聞こえるようにヒュウヒュウと告げた。

「おい、ほら」

 前にいた介護員が手錠を引っ張り、男は引きずられるように調べ室に入っていく。

 その間――扉の向こうに消えるまで――男は一瞬たりとも陣から目を離さない。へらへらした笑みを浮かべたまま目をギョロつかせ、首をくりゃりとひねり、陣の顔を凝視していた。

「気味悪い野郎っすね」

 調べ室のドアが閉まるのを待って、木下が毒づく。

「……あぁ」

 陣は男が消えて行った扉をじっと見つめ、そっけなく答える。頭の中で、男の言葉の意味を考えていた。


『絶対に忘れない』……?


 逃げないつもりだろうか。いや、それならば調べに応じない理由がなくなる。

 何も話そうとしない現場付近の男女、謎の注射器、破壊されたデータ……。

 MCPに入って十年。今まで経験したことのない何かが近づいてきている。そんな気がした。


 ピリリリリリリリリ!


 陣の思考は、仕事用の着信音に遮られる。トレンチコートのポケットからMCP支給のスマホを取り出し、耳にあてる。

「はい武田――」

〘武田、緊急事態だ〙

 電話の相手は柴咲。

〘すすきので爆破テロだ〙

「爆破ァ⁉」

 思わず上げた大声に、木下が何事かとこちらを見てくる。陣は受話口を顔から離し、手短に告げる。

「すすきので爆破だ」

 ゲエッという顔をする木下を置いて、通話に戻る。

「班長」

〘お前今検察庁だろう。悪いがすぐこっちまで来てくれ〙

「いや、でもこっちが――」

〘人一人殺したの騒ぎじゃなくなった。今わかってるだけでMP(メンタルパラドックス)が23人、もっと増える。とにかく現場の人数が足りん〙

 陣は思いっきり舌打ちをする。こんな時に限って本部扱いの事件。しかも被害者が多数と来た。いくら殺人犯を追う最中とは言え、放っては置けない。

「わかりました。班長、木下を置いて行きます。男を追わせます」

〘あー。そうだな、木下なら大丈夫だろう〙

「はい」

 再び受話口を離し、木下に指示を飛ばす。

「キノ、俺は向こうの応援に行く。お前はあいつを追え」

「了解っす」

 木下は緊張した顔でうなずく。陣もうなずいて、アクセスポイントに向かって歩きだす。

「無茶はすんなよ!」

 言い忘れた注意を大声で飛ばし、再び通話に戻る。

「OKです」

〘いいか武田、すすきの駅は吹っ飛んじまってる。第三アクセスポイントは使えない〙

「一番近いのはどこですか」

〘あー、ちょっと待てよ……おい!残ってるアクセスポイントはどれだ?……第二?ああ。武田、すすきの第二アクセスポイントに来い〙

 柴咲からの情報を頼りに、左腕の端末に目的地を入力する。すすきの第二アクセスポイント。

「了解です。すぐ行きます」

 目的地の入力を終え、陣は走り出す。柴咲はそれを見越したかのように、警告してくる。

〘あぁ、あと気を付けろ。アクセスポイントのすぐ近くまで崩壊が進んでる。勢い余って飛び込むなよ〙


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ