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職場がブラックすぎて旅に出ることにした

作者: Ash

 水の都のカフェで――別に大きな凱旋門のある街のカフェでも良かったんだが、そこはそこ。今は水の都のカフェで黒い命の水を片手に午後の日差しを楽しんでした。

 日差しのきついこの時間帯は世界的に有名な広場にいる人影もまばらで、まるでここが我が家のように感じる。――こんな公共の場所としか思えないところを我が家だと思える俺って大物♪

 てな感じで、優雅にセレブ気分のひととき。

 頭をよぎるのはこれまで旅をしてきた場所のこと。

 大陸を分断するように走る雪の残る頂きを上った時のこと。高い標高の薄い空気。雪にまぶしく反射する日差し。そんな雪の中から思いがけず顔を覗かしている緑。

 この大自然を前にして自分が如何に矮小な生き物か思い知らされた。

 雄大な山の姿に、ああ、旅に出て良かったとしみじみと思った。

 旅に出なくてはこの光景とは出会えなかった。

 と、ここで黒い命の水を一口。


 思えば、職場でこれを飲む時は目を覚ましておく為だった。

 なんて勿体ない飲み方をしていたんだろうか。

 煮詰まって飲めた代物ではない時には植木にやったりもしていた。

 それもこれも全部、連続強盗殺人犯が悪い。

 一度、奴らが出れば捕まえるまでは職場に缶詰というブラックな職場の黒い命の水はただの目覚まし用の劇物と成り果て、植木を枯らしていく毒物指定されかねなかった。

 と、ここでもう一口。


 この連続強盗殺人犯ときたら昼夜を問わず、民間人だろうが、女子供だろうが関係なしに殺しまわる凶悪犯でほとほと手を焼く存在だった。

 説得だって耳を貸しやがらねえ。

 さっさと早期解決して欲しいからと俺は現場を駆けずり回らされ、奴らがいた痕跡を見つけてはその後を追い、一応説得してみるが問答無用でこちらに襲い掛かってくるのを返り討ちにしなくちゃなんねえ。

 あ゛ー。思い出しただけでイライラしてくるなー。

 リラックス、リラックス。

 え? それで懲罰食らって、自棄を起こして旅に出たのかって?

 いや、無断欠勤して旅に出ただけだ。

 無断欠勤して旅に出るとは社会人として終わってる?

 こちとら土日休日かんけーなく働かされている、ブラックな職場だぞ。これくらいいいじゃねーか。

 ビークール、ビークール。

 熱くなってもしょうがない。

 熱くなってていいのは黒い命の水と竈だけ。

 黒い命の水をもう一口。


 予期せぬ村祭りも良かったし、このあたりは美味しい食事で満喫できたし、あー、幸せだなー。

 これ、職場でも食いたいなー。

 まったーり。

 まったーり。

 俺が優雅なひとときを楽しんでいると、あたりが騒がしくなってきた。

 人気がなかったってーのに、こいつらどこから現れたん?


「魔王がアルバトロに侵攻した!!」

「なんだって?!」

「あそこには息子が商売で出かけてんのよ! あの子に何かあったら!!」

「アルバトロはもう駄目だ! 相手はあの魔王だぞ!!」

「なんでアルバトロが魔王に!!」


 あ゛?

 魔王がアルバトロに侵攻?

 なんのこっちゃ?

 あ゛ー。

 あれだわ。

 もう、やになるなー。

 おちおち、旅もできねーじゃねーか。

 俺はうるさい連中を力づくで黙らせ、飛行魔法で超・急いでアルバトロに向かった。

 そこには奇妙な光景が広がっていた。

 魔族の扮装をした兵たちがアルバトロの兵たちとやり合っている。

 あれで魔族だと思う奴はいないぞ?

 いたら、ただの馬鹿だろ?

 って、わからねーか。

 俺は魔力を解放して圧力をかけ、兵士たちを動けなくする。

 あ゛ー。困惑してる、困惑してる。

 こんな広範囲に魔法を使える人間、滅多にいないからな。

 魔族の扮装をしているほうの親玉らしき偉そうな奴を探し回り・・・見つけた。

 あ゛ー。ご愁傷さま。


「はーい。皆さん、注目ー!! 魔王はこの通り、やっつけましたー!! まーだこれでもアルバトロに侵攻するなら、俺が相手になってやんよ(棒読み)!」


 静まり返った戦場で圧力を解いてそう言ってやったら、魔族の扮装をした兵たちが蜘蛛の巣を散らしたかのように逃げて行った。

 アルバトロの兵たちは歓声を上げる。

 良かったねー。

 安心した俺は忙しくなるだろう職場に戻ることにした。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




「あっ! 魔王様!」


 配下の一人が俺を見つけて攻撃を仕掛けてくる。


「このクソ忙しい時にどこ行ってやがったんですか!!」

「職場がブラックすぎて旅に出ていた。それくらい、いいだろう? 溜まっている休暇ぐらいあるだろう?」

「ないですよ!! 魔王に休暇なんかある筈ないでしょう?! 魔王は24時間年中無休なんです!! ほら、人間どもが送り込んできた凶悪犯たちを何とかしてくださいよ!! また民間人に犠牲者が出たんですからね!!」

「そっちのこともあるが、魔王の名を騙ってアルバトロを攻めた国があったぞ」

「は? 侵略を我々に押し付けて、自分たちはそれを救ったってことにしたかった国がまた出たんですか?!」

「しょーがねーんじゃね? 人間は寿命が短いから、誰かがやったことがあるなんて思ってもないんだろうけど」

「自国にとって厄介な人物を勇者呼ばわりしてこちらに送り込んでくることは共通しているのに?」

「そこはそういう取り決めでもしてんじゃね? あ゛ー。たりーなー」


 俺の職場はこれからもブラックな予感がする。

 もう、世界征服したほうがいいんじゃね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか魔王さまだとは思いませんでした!(◎_◎;)
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