ドつかれて目覚める
「痛ってっっ!」
「さっさと起きろ芋虫!いつまで寝てやがんだ!」
最悪の目覚めだ。でも生きているだけましだと思おう。なんせ僕
たちが乗っていた修学旅行のバスは崖崩れに巻き込まれて崖から転落
したのだから。どんな目覚めであろうと死ぬよりましである。
「やめなさいよ、あんたたち!直樹君、大丈夫?怪我はない?」
そう言って、僕を助け起こそうとする彼女は、野崎千佳。うちの
クラスの学級委員であり、もったいないことに僕の幼馴染であった
りする。容姿端麗、スタイル抜群。文武両道と絵に描いたような
優等生。そのおかげで、さっき僕をドついて叩き起こした尾崎のよう
に男子生徒たちから、僕は日頃から嫌がらせを受けているわけだ。
「ありがとう千佳。僕は大丈夫だけど、ここはどこなの?
僕たち、バスごと崖から落ちたはずだよね?なんで、こんな地下牢
みたいなところにいるの?ん?この床に光っているの何なの?」
「なんだ山本君、知らないのかい?これは魔法陣って言うんだよ!」
眼鏡をかけた賢そうなもうひとりの学級委員、通称委員長の内田が、
自慢げに説明してくる。
「僕たちの乗っていたバスは崖崩れに巻き込まれて崖から転落した。
あの後、救助されここに保護されている可能性もないではないけ
ど、担任の米倉先生を含め、我ら2年F組26名全員無傷でいる
ことなんて有り得ない。そして、この石室に魔法陣だ!これは、
かの有名な異世界勇者召喚だよ。僕たちは異世界に勇者として召喚
されたのさ!」
あの頭脳明晰の優等生の内田君にそんな趣味があったとは知らなか
った。彼の妄想はともかく、ここは一体どこなんだろう?情報を求
め、石室内に視線を廻らせると他のクラスメートの様子が目に入る。
サッカー部とボクシング部のイケメン、春日と照田は、周りに
大多数の女子を侍らせ根拠のない言葉で落ち着かせようとしている。
どうせ俺が守ってみせるとかいってるのだろう。
男子の半分は、うちの学校の2大お嬢様のうちの一人、美倉財閥の
御令嬢、美倉麗子に取り巻いている。気が強い彼女は、いろいろと
吠えているようだ。残りの男子生徒たちは、正面にある不思議な模様
の施された巨大な石扉を開けようと群がっている。
残る最後のひとり、2大お嬢様のひとり、久遠静は、担任の米倉美穂
先生を落ちつけようと話かけている。動の美倉、静の久遠と呼ばれて
はいるが、それは口数だけの話で美倉は運動神経さっぱりで、久遠は
武家の旧家ということもあって武芸を修めているそうだ。
ふと気づくと足元の魔法陣?の光が消えている。そして、
ガチャガチャと激しい足音が聞こえてきたとおもったら、石扉が軋む
音を立てながら開いていった。扉の向こうにいたのは、西洋甲冑を
着こんだ一団とアニメに出てくるような神官服を来た数人であった。
「ようこそおいで下さった異世界の勇者たちよ!」
先頭に立っていた神官服をきた老人が口を開いた。
内田君、狂喜乱舞である。マジですか!