帰還
「おい、フィオナ。下のクソ虫どもどうなってる?」
『今、勇者召喚の儀式が始まったところ。合図したら召喚陣ぶっ
壊してね?気を抜かないでね』
「了解」
宵闇の中、ひとりの大柄な青年が石造りの巨塔の先端に立って
いる。フィオナと呼ばれた女性の姿はここにはない。
「しかし、どこの国もこぞって、違法勇者召喚をやらかしてくれる
もんだ。それも一度に大量召喚だなんて欲張りというか、腐って
やがる...」
『こら、気を抜かない!』
「抜いてねえよ!でも、召喚陣をぶっ壊して回るんじゃダメなのか
よ。正直、待つのがめんどくせえ!」
『一度は、地球への召喚接続までのデータを収集しないと源から対策
取れないのよ!見つけた召喚陣壊しても、他の国が召喚するだけ
よ。この世界で勇者召喚陣が発動できないように対策しないと
イタチごっこかもぐら叩きだわ。ホラ!召喚陣の魔力が高まって
きた!来るわよ、準備して!次元回廊の接続を確認!今よ!』
「了解。ポチっとな」
青年が右手に握っていたスイッチを押すと同時に、青年が立って
いた巨塔の地下から凄まじい振動が発せられた。そして豪奢な石造り
の巨塔は、根本から破壊され、隣に建つ王城本宮殿へと倒れて行く。
しかし、巨塔が本宮殿に接触するときには、その青年の姿は霞のよう
に消え失せていた。王城は、その後、大騒ぎであったが、些細なこと
なので割愛させていただく。