四月の魚
始めに述べておくと、この物語はある少年と少女のHAPPYな物語。
二人が手と手をランラン♪ルンルン♪恋々♪幸せ取り合う今昔物語。
しかし、happy endではなくhappy start。
終始あべこべ 、ごっちゃまぜ。
今も昔も行ったり来たりな、起承転結なんてない、ごちゃまぜな物語。
四月一日
公然と嘘がつける日。
過去から未来、未来から過去、時間もごちゃまぜになる、あべこべな日。
四月一日、嘘がホントに、ホントが嘘になるあべこべな日。
四月一日、
私は窓を見た。
見えるのは閑散とした孤児院。
庭と呼ぶにはあまりにも無色で、グランドと呼ぶにはあまりにも狭い空間。
そんな、無色で狭い空間に似つかわしくない黒い少年が隅でうずくまっていた。
その少年の顔は暗く荒んで、永久影のように冷たく黒かった。
気持よりも体が動く、私は窓から飛び出していた。
少年は背格好からして小学五年生くらい。
私と同じくらい。
少年の前に立ち影を作る。
少年は驚いたのだろう、黒い肌に浮かぶ白い目をこれでもかと見開き私を見つめる。
目と目が合い見つめあう。
目を奪われる。
そして、私は言い放つ、
「はじめまして」
学校にも通えず孤児院でただ空を眺める少年と、学校に通わせてもらえずただ窓を眺める少女の奇妙な日の珍妙な出会いの日。
四月一日
僕は今日も雲を見つめる。
暗く曇った心で曇天を仰ぐ。
ふと
影が差し一面赤くなる。
目を見開き更に上を見つめる。
そして、目が合い、目を奪われる。
太陽のような真っ赤なワンピースを着た少女がそこにいた。
今日の空には似つかわしくない金色の髪、そして、春にはもうあるはずのない雪のような肌の少女。
そして、僕に語りかける
「はじめまして」と。
僕はあまりの出来事に口を紡ぎ、黙りこむ。
それから少女は、何をするでもなく毎日のように来て、ただ僕の隣に座り一緒に空を眺める。
曇天ではなく青空を見つめる。
春が終わりそうな日、僕は精一杯の勇気を振り絞って、
「はじめまして」と告げた。
それから、僕と少女は快晴の下、毎日陽気に遊んだ。
そんな、楽しい日々、月日は流れまたあの日が来た。
四月一日
一面が黒くなる一年前のあの日と同じように少女は僕の前に立ちふさがった。
黒いワンピースに身を包んで。
そして、僕に投げかける、
「また明日」
その日から彼女の姿は消えた。
明るく曇った少女と、黒く晴れた少年の色々な始まりの終わりの日。
○月○日
○○年の月日が流れる。
三月三十一日
僕は、空を仰いでいた。
今僕は、一人ではない。
小さいながらも、会社を立ち上げ仲間といる。
全てはあの日、あの瞬間があったからだ。
僕の人生が一変した日、彼女と出会うまで僕の心は伽藍堂だった。
あるべき心がなく、持つべき希望がなく、空虚な過去のみしかなかった。
そんな僕に、彼女は輝かしい希望を、光る心を、明るい未来を示してくれた。
灼熱の大地に陽光を燦燦と浴びせかける太陽を見つめ祈り呟く、
「明日は会えますように」
広大な砂漠、一人の人間の一針の願い。
今まで、叶うはずもなかった一心な願い。
一年を振り返る日の最後の願い、年が変わり春が終わりを迎え、新しい年を迎える日。
三月三十一日
私は、パソコンを見つめ窓を眺めていた。
いつものこと、変わることのない時間が止まった空間。
この窓から見える景色は、存在はするけど味気なく、空想の現実。
この景色しか知らず。
それ以外は、知らない私にとってこの景色が唯一の紛れもない現実。
そんな私にとって、彼との日々は幻覚だと疑うくらい心躍り、幻想だと思えるくらい輝かしく、取り返したくても手の届かない高嶺の日々。
本物の花も知らない私の咲きほこる思い出。
そんな日々を思い、今日も願う、
「また彼に会えますように」
小さな窓、一人の人間の大望の願い。
今まで、忘れず願い続けた待望の願い。
この願いが最後になってほしいと願い、月日もわからない空間に縛られ続けるいつもの日。
四月一日
僕は○○年ぶりにあの場所で夜空を見つめる。
私はいつものようにあの場所を窓から見つめる。
私は心が熱くなりあの日のように彼のもとに駆ける。
僕の目の前が白くなる。
目と目が合う。
月明かりに照らされた彼女の目は赤く腫れ泣いていた。
彼が立ち上がる、私は彼を見上げ声をしぼる、
「はじめまして」
僕は、彼女を抱きかかえ噛み締めるように言い返す、
「はじめまして」
それから、どれくらいの時がたっただろう。
彼は私を放し、うつむく。
僕は、時間を確認し彼女に向きかえり始まりの誓いを告げる、
「結婚しよう」
時刻は四月二日になっていた。