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00:始まりは月明かりの下で
暗闇の中、天井近くにある小さな窓からは僅かな月の光が差し込んでくる。
石造りのその部屋はまるで囚人の為の部屋のように中の者が外に出られないよう頑丈な鉄格子で塞がれていた。
そんな部屋に備え付けられたベッドと呼ぶには余りに簡素な台に横になっていた男は体中に感じ鈍い痛みに顔をしかめた。此処に連れて来られる時に殴られた後頭部は見事に腫れて立派なタンコブになっていた。
男は闇に溶けてしまいそうな黒髪をくしゃと掻き揚げ金の瞳を悔しげに細めた。
さて、どうしたものか。
先日より背後に複数の嫌な気を感じ注意はしていたがまさか男でしかも成人している人間を誘拐するなど考えもしなかった。
犯人の検討はつく。
大方サラマンド社絡みだろう。
そんなことを考えつつどうやってこの鉄格子から逃れるかを考える。
何時までもこんな埃っぽい場所に居てやる義理はまったくない。
その時自分がいる独房の直ぐ近くで見回りの者の足音が聞こえた。
これを利用しない手はないな。
男はニヤリと口の端を上げた。