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グランフェル家関係者一同

王国一の狙撃手ですが、射撃が壊滅的な索敵SSSの少年を弟子にしたら最強コンビになりました

作者: 虹色日和
掲載日:2026/06/12

「本当に、あそこに人が5人。いるんですぅ……」

銃を手に立つ男、ルシアンの後ろに隠れるようにして震える小柄な少年、ローレンが小さく呟く。


「本当か?」

「気のせいだろ……」

「本当ですぅ。」

谷の向こうを見つめる兵士たちの表情には困惑と疑念が入り混じっている。


なぜなら、その視線の先には何も見えないからだ。

木々が広がるばかりで、人影どころか動物の姿すら確認できない。


何もない山を見て突然おびえだした少年に、辺境兵たちは顔を見合わせた。


ローレンのことは皆知っている。

この辺境を治める辺境伯領主、ガイウスの息子。


次期辺境伯とは思えないほど人見知りが激しく、兵士を見るだけで怯える。

訓練場にもほとんど姿を見せず、たまに現れたと思えば誰かの後ろへ隠れてしまう。


正直に言えば、頼りない坊ちゃん。

兵士たちの認識はその程度だった。


ただ、辺境伯である父のガイウスだけは、暇さえあれば息子自慢を始めるのだ。


「ローレンはすごい!」

「ものすごい才能を持っている!」

「あれは距離感覚の化け物だ!」


そう何度も聞かされてきたが、正直兵士たちは半信半疑だった。


また始まった。どうせ、ただの親馬鹿だろう。

息子が可愛い父親というのは大抵そんなものだ。


ローレンはそんな兵士たちの反応に肩を震わせながらも、小さく首を振った。

「いますぅ……」

「5人、武器も持ってますぅ……」

「たぶん、弓ですぅ……」


辺境兵たちは顔を見合わせた。

たとえいたとして、ここから調べることなど難しい。

どうせ気のせいだろうと、一人の兵士がローレンを落ち着かせるために声を駆けようとしたとき


ローレンの隣にいる銀髪の青年、ルシアンはまるで当然のことを聞かされたかのようにライフルを構え、風向きを確認し、静かに照準を合わせていく。

「おい、本気か?」


兵士の一人が思わず声をかけたが、ルシアンは答えなかった。

呼吸を整え、わずかに銃口を動かす。

そして迷いなく引き金を引いた。


轟音が山間に響き渡る。

谷の向こうで何が起きたのかは誰にも分からない。

見えないし、音も聞こえない。


それでもローレンだけは小さく呟いた。

「一人減りましたぁ……」


兵士たちは思わず眉をひそめた。

本当か?勘違いではないのか?

この距離で何が出来る。

兵士たちは目くばせをし、肩をすくめて2人のことを見つめていた。


だがルシアンは再び銃を構える。

2発目。

3発目。


「残り2人ですぅ……」

「1人逃げましたぁ……」


兵士たちも、信じているわけではない。

ただ、否定する言葉も見つからなくなっていた。


そして数時間後。

偵察へ向かった兵士たちが戻ってきた時、その空気は完全に変わった。

先頭を歩いていた兵士は青ざめた顔のまま報告する。


「……本当にいた」

「5人、3人は死んでいた」

「残り2人は逃げた形跡があった」


「まじかよ......」


報告を聞くまで、兵士たちは誰も本気にしていなかった。

だが2人とも、あり得ないことを当然のようにやってのけたのだ。


頼りない坊ちゃんだと思っていた。

ただの、対人恐怖症の子供だと思っていた。

その認識が音を立てて崩れていた。


見えていたから見つけたのではない。

見えていなくても見つけた。


そんなものは索敵ではない。


化け物だ。


そしてルシアンもまた化け物だった。

情報を聞かされただけで2キロ先の標的を撃ち抜く。

王国一の狙撃手の名は伊達ではない。

今この場にいる全員が理解していた。


王国一の索敵。

王国一の狙撃。


どちらか片方だけでも厄介だ。


だが、二人揃ったら。

もはや反則だった。


敵からすれば、どこに隠れても見つかる。

そして見つかった瞬間、撃ち抜かれる。

そんな悪夢のような組み合わせだった。


王国一の狙撃手、ルシアン。

そして誰にも真似のできない索敵能力を持つ息子、ローレン


本来なら交わることのなかった2つの才能が、今こうして同じ方向を向いている。

父として、それ以上に誇らしい光景をガイウスは知らなかった。


ルシアンとローレンの出会いは数日前に遡る。


ルシアンは最初、ローレンに特別な興味を持っていたわけではない。

辺境伯の息子であり、溺愛する妹ロゼッタの友人であるエミリアの弟。

その程度の認識だった。


その時のルシアンは、辺境まで初めての一人旅をしたいという妹の願いを叶えるため、

後方からロゼッタを見守っていた。

いつものことだ。ちなみにこれは正当な護衛であり、決して、全然怪しい行動ではない。


周辺に異常はなく、特に問題も見当たらなかった。


このまま何事もなく終わるだろうと思っていた時、不意に小さな少年、ローレンが視界に入ってきた。


柱の陰に隠れていたのだろう、緊張した様子でロゼッタから隠れては顔を出してを繰り返していた。

手にはメジャーを持ち、先端がロゼッタのほうを向いている。変な子供だ。

それだけだった。


しかし次の瞬間、彼がふと空を見上げた。いや、正確には木の上を見た。そして、その視線はまるで私のいる場所を捉えているようだった。


私は眉をひそめた。見えるはずがない。

枝葉に隠れているうえ距離もあり、気配も消している。それなのにローレンは震えながらなにかをロゼッタとその友人エミリアに伝えている。

約1.6キロ離れている。ルシアンすら双眼鏡を使ってロゼッタの監視、いや護衛をしていたのだ。

この距離で見つかるはずがない。

「……まさか、な。」


その瞬間、私は初めてローレンという存在に興味を抱いた。



その翌日、私はガイウス辺境伯に呼び出された。

どうやら先ほど開催されていた花火大会の件らしい。



応接室へ入るなり、ガイウス辺境伯は複雑そうな顔で私を見た。


「確認したいことがある」

「花火を撃ち落としたのは、お前だな」


「あぁ。」


私は素直に答えた。

正直、なぜ呼び出されたのかよく分からない。


花火とは火薬であり、火薬とは爆発物である。

そんなものを大勢の人間の頭上で次々に爆発させるなど危険極まりない。


阻止するのは当然だった。

少なくとも我が家ではそういう認識である。


母もそう言っていたし、父も頷いていた。妹に危険が及ぶなど論外だ。

ならば、兄として動くしかない。


私は使命感を持って銃を握った。

花火を撃墜するためだけに特注した専用銃まで用意したのだ。


特に苦労したのは最後の乱れ打ちだった。


一分間に200発近い花火が空へ打ち上げられ、しかも軌道も高さもばらばらである。

撃ち漏らせば危険だ。風向きも変わる。距離も変わる。


正直に言えば冷や汗もかいた。


だが、結果として全て撃墜した。

私は皆の安全を守り切ったのである。


「そうか……」


ガイウス辺境伯は頭を抱えていた。


一方、隣では父が満足そうに頷いている。


「立派になったなぁ!」

「父上と母上のおかげです。」


どうやら父は理解してくれたらしい。


私は少し誇らしかった。


その時、部屋の隅に誰かの気配を感じた。


害意はない。

武器も持っていないだろう。


おそらく監視役か何か。

私は視線だけを向けた。


「出てこい」


すると気配が激しく動揺した。


隠れていた人間なら見つかれば驚くのは当然だが、それにしても慌てすぎだった。


やがてカーテンの陰から小さな悲鳴が聞こえ、ふわふわした髪の少年がゆっくり姿を現す。

昨日見たあの、不思議な少年だった。


年齢は12・3歳ごろだろうか。

頼りなげな顔をしている。


そしてなぜか手にはメジャーを持っていた。


しばらく観察していると、

シャッ、と勢いよくメジャーが伸びてきた


先端は真っ直ぐ私を指している。


「ひぃぃぃぃ……!父上ぇ~」


少年は今にも倒れそうな顔で震えている。


「目が、合いました!近いですぅぅぅ!!」

「……何だこいつは」


私は首を傾げた。


「7.4メートル……」

「7.3……」

「2……」


私はこの謎の生き物から、不思議と目が離せなかった。


ガイウス辺境伯が楽しそうに笑う。

「私の息子、ローレンだ」

「少々気弱でな。怖がりなせいで今まで気配を殺したローレンを見つけられたものなど、家族しかいなかったのだが」


「少々?」


少年は、真っ青になっていっそ気の毒なほどに震えていた。


「だが才能は本物だ」


ガイウスは誇らしげだった。


「昔からだ。見える範囲なら1cm単位。見えなくても2km範囲なら、たとえ後ろにいても1m単位で正確に言い当てるんだ!」


「はははっ!」


私は改めてローレンを見た。ものすごく震えている。

正直戦うことには向いていないだろう。だが、能力だけは異常だった。


埋もれさせるには惜しい。

そんな予感がした。


「面白いな」

「な、何がですかぁ……?」


「鍛えてやる」

「嫌ですぅぅぅぅぅ!!」


数分後。

屋敷の裏庭。


ローレンは銃を持たされていた。

震えすぎて、銃までカタカタと音が鳴っている。


「む、無理ですぅ……」

「あの的だ。撃て」


5メートルの位置に設置されている、初心者用の大きな的を指さす。


「無理ですぅ……」

「大丈夫だ。お前には才能がある。」


「はいぃぃぃぃぃ!!」


ローレンはとにかくこの場から早く逃げたい一心で、半泣きで引き金を引いた。


パンッ


乾いた銃声が響く。


全員が的を見る

当たっていない


「はっはっはっ!」

「さすがに初回では――」


ガイウスが豪快に笑った瞬間、

後方から盛大な破裂音が響いた。


ドガァン!!


振り返ると、そこには先ほど運び込まれたばかりの酒樽。


そこに見事に穴が開いていた。

酒が噴水のように吹き出してガイウスが酒まみれになっていく。


「ひぃぃっ……」

ルシアンは、青ざめて震えるローレンに手を伸ばし、そっと銃を取り上げ、一言告げる。


「お前はもう、撃つな」


「安心しろ」

「お前には別の才能がある」


その時は意味が分からなかったが、その数日後


「本当に、あそこに人が5人いるんですぅ……」


そう言ったローレンの言葉をルシアンは迷いなく信じた。


そして辺境兵たちは、


二人がどれほど恐ろしい組み合わせなのかを知ることになる。

訓練 1日目

「嫌ですぅぅぅぅ!!」

2日目

「無理ですぅぅぅぅ!!」

3日目

「兄上ぇぇぇぇぇ!!」

辺境兵たちは誰も助けなかった。


なお本編では、ルシアンが魚釣りをする妹のために池の魚を全滅させたり、

妹の一人旅を護衛するために岩山を撤去したりしています。


頼れる兄です。

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