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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第9話 死体の方位磁針と川辺の晩餐

死体の方位磁針に従い

 右の道を選んでから

 半日が過ぎた


 街道は緩やかな下り坂になり

 湿り気を帯びた風が

 頬を撫でる


「……あ、痛っ」


 隣を歩いていたミクが

 小さな声を上げた


 見ると

 道端から伸びた

 棘のある植物に引っかかり

 指先に赤い玉が滲んでいた


「大丈夫か?」


「平気です

 いつものやつ、やりますね」


 ミクは傷口に

 反対の手をかざした


『ヒール(小治癒)』


 淡い光が指先を包む

 数秒後に光が収まると

 切り傷は跡形もなく消えていた


「便利だな

 お前のその『聖女の加護』の

 下位互換スキル」


 俺は感心半分、呆れ半分で呟いた


 神様がくれた「オマケ」の能力


 本物の聖女のような

「病気治癒」や「解呪」

 ましてや「蘇生」なんて

 大層なことはできない


 せいぜい

 切り傷や打撲を治す程度の

 救急箱レベルの代物だ


「えへへ

 バンドエイドいらずで

 助かってます」


「アツシさんも、肩こり治しますか?」


「遠慮する。MPの無駄遣いだ」


 俺たちは

 そんな軽口を叩きながら歩を進めた


 この程度の「オマケ」が

 後に俺たちの運命を

 大きく狂わせることになるとは

 この時は思いもしなかった


 さらに一時間ほど歩くと視界が開けた


「うわぁ……!」


 ミクが歓声を上げる


 眼下に広がっていたのは

 雄大な大河と

 その川岸に栄える

 石造りの宿場町だった


 夕日に照らされた水面が

 黄金色に輝いている


「水だ!

 川がありますよアツシさん!」


「なるほど

 山賊の死体もいい仕事をする」


 俺たちは

 顔を見合わせニヤリと笑った


 水があるということは

 魚がいるということだ


 街の門をくぐる

 ここでも検問があったが

 例の「10円玉」の威光で

 顔パスだった


 東方の高貴な旅人

 そういう設定が定着しつつある


 街の中は

 夕食時ということもあり

 食欲をそそる匂いで

 満ちていた


 俺たちはまず

 匂いにつられて

 大衆食堂へと入った


「親父

 このシチューとパイ

 鍋ごと売ってくれ」


「はあ? 鍋ごとかい?」


 金貨を一枚渡すと

 店主は目の色を変えて

 鍋ごと包んでくれた


 俺はそれを

「収納」へと放り込む


 保存食だけじゃない

 こうした出来立ての料理も

 時間停止機能のおかげで

 旅の間も常に

 熱々のまま楽しめる


「これで兵站は確保したな」


「アツシさん!

 あのお店!あのお魚!」


 ミクが指差したのは

 川沿いにテラス席を構える

 小洒落たレストランだ


 店先のグリルでは

 丸々と太った川魚が

 串焼きにされている


「メインディッシュは

 あそこで決まりだな」


 俺たちは迷わず入店し

 眺めのいい席を陣取った


 注文したのは

「清流魚の香草焼き」と

「川エビのフリット」

 そして冷えた白ワイン


 運ばれてきた料理は

 期待以上のビジュアルだった


 皮はパリッと焼かれ

 身からは脂が滴っている


「いただきまーす!」


 ミクがナイフを入れる

 湯気と共に

 白身がホロリと崩れる


 一口食べた彼女の顔が

 パァッと輝いた


「んん~っ!

 皮がパリパリで

 身がふわっふわです!」


「泥臭さもないな

 下処理が完璧だ」


 俺も一口味わう

 確かに美味い

 だが、何かが足りない


 パンチだ

 素材の味はいいが

 塩気が単調すぎる


 俺は周囲を確認し

「収納」から

 小瓶を取り出した


 中に入っているのは

 前の街の市場で買い集めた

 岩塩と乾燥ハーブ


 それを俺が

 黄金比率でブレンドした

『特製ハーブソルト』だ


「ミク、少しかけてみろ」


「あ、ズルい!

 アツシさんのお手製ですね!

 私もかけます!」


 パラパラと振りかける

 ハーブの香りが熱で立ち上り

 岩塩のガリッとした食感が

 アクセントになる


 改めて口に運ぶ


「……反則ですね、これ」


「ああ、暴力的な美味さだ

 現地の素材でも

 配合次第で化けるな」


 ワインが進む

 川面を渡る風が心地いい


「右に来て正解でしたね」


「そうだな

 あの山賊たちに感謝するか」


「ですね!

 また誰か死んでくれたら

 いい道案内になりますね」


 ミクは無邪気に笑い

 エビの尻尾を齧った


 平和だ

 誰も俺たちを邪魔しない

 誰も俺たちを利用しない


 ただ美味いものを食って

 美しい景色を見る


 これこそが

 俺たちの求めていた

「エデン」の片鱗かもしれない


 そう思ったその時だった


 ガシャーン!!


 店内に

 皿の割れる音が響いた


「こんな泥臭いもんが

 食えるかッ!!」


 怒号

 静かなディナーの空気が

 一瞬で凍りつく


 見れば店の奥の席で

 肥え太った男が

 テーブルをひっくり返していた


 飛び散る料理

 困惑する店員

 怯える客たち


 男は

 いかにも高そうな服を着た

 権力者風の豚だった


「おい店主!

 俺を誰だと思ってる!」


「この街の税務官だぞ!

 こんな餌を出して

 タダで済むと思ってんのか!」


 典型的な三流の悪役ムーブ


 だが

 今の俺たちにとっては

 最悪のタイミングだった


 ミクの手が止まる

 フォークに刺さった魚が

 小刻みに震えている


「……アツシさん」


 彼女の声から感情が消えた


「せっかくのお魚の味が

 わからなくなっちゃいました」


 俺も

 ワイングラスを

 テーブルに置いた


「そうだな

 騒音のせいで台無しだ」


 俺たちの「食事」を邪魔した


 それは

 この「共犯者」たちにとって

 万死に値する重罪だった


「……掃除、します?」


 ミクが

 無機質な瞳で俺を見る


「ああ

 デザートの前にゴミを片付けるか」


 俺たちは同時に席を立った


 税務官殿、運が悪かったな


 お前が喧嘩を売ったのは

 善良な店主じゃない


 自分たちの平穏のためなら

 ためらいなく暴力を行使する

 凶悪な観光客だ

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金持ってるなら10円玉詐欺はやめて差し上げろ巡りめぐって勇者達の目にとまる可能性が微レ存
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