表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/29

第7話 時間修復師と『ハズレ枠』の生存戦略

目覚めた瞬間

 視界に入ったのは

 見慣れない天井だった


 高い天井には

 豪奢なシャンデリア

 窓からは柔らかな朝の陽光


 肌に触れるシーツは

 最高級のシルクで

 背中を預けるマットレスは

 雲のように体を包んでいた


「……そうか

 ここは宿か」


 数秒のラグを経て

 俺の脳が現実に同期する


 森での泥と血に塗れた

 サバイバル生活は

 もう終わったのだ


 隣を見る

 そこではミクが

 幸せそうな顔で

 泥のように眠っていた


 口の端から

 涎が垂れている

 昨日の高級ディナーで

 腹がはち切れんばかりに

 食っていたからな


「……平和ボケしやがって」


 呆れつつも

 悪い気分ではない


 俺は音を立てないように

 ベッドを抜け出し

 サイドテーブルの

 〇-SHOCKを確認した


 午前7時

 規則正しい生活リズムは

 異世界に来ても

 崩れていない


 俺は洗面台で顔を洗い

 鏡の中の自分と対峙した


 剃り残しのない顎

 整えられた髪

 昨日の「時間巻き戻し」による

 身体メンテナンスのおかげで

 疲労すらリセットされている


「さて……検証といこうか」


 俺は「収納」を開き

 昨日蚤の市で

 二束三文で買い漁った

 ガラクタを取り出した


 テーブルの上に並ぶのは

 産業廃棄物のような

 残骸たちだ


 赤錆の浮いた鉄剣

 底の抜けた鍋

 レンズの割れた

 魔道具のランタン


 どれも

 ゴミ捨て場から拾ってきたと

 言われても信じるレベルの

 代物だ


 だが

 俺の「SE」としての目は

 これらを「データ」として

 捉えている


「物理的な破損は

 単なる『パラメータの変動』に

 過ぎない」


 俺は一本の剣を手に取った

 柄は腐りかけ

 刀身は錆びついてボロボロだ


 俺の「収納」空間は

 俺が管理者権限を持つ

 閉鎖領域だ


 ここでは物理法則すら

 俺の設定次第で

 書き換えられる


 イメージするのは

 サーバの「ロールバック」

 データの破損が起きる前の

 時点まで

 システムを復元する作業だ


『対象オブジェクト:鉄剣』

『実行コマンド:時間回帰』

『指定日時:製造直後』


 頭の中でコマンドを叩く


 指先に魔力が集まる感覚と共に

 世界が「歪む」感覚がした


「……完了」


 収納から出した俺の手には

 今しがた鍛冶場から

 上がったばかりのような

 油の匂いすら漂う

「新品の剣」があった


 魔力の消費量は微々たるもの

 MPバーがあるとしたら

 1ドット減ったかどうかだ

 回復の方が早い位だ


「あっけないな」


 俺はため息をついた


 この世界における

「経年劣化」や「破損」という

 概念を

 俺はノーコストで

 無効化できる


 これはもはや

 錬金術ですらない

 現実に対するチートだ


「……んぅ……アツシさん?」


 ベッドの方から

 寝ぼけた声が聞こえた


 ミクが目を擦りながら

 のっそりと上半身を

 起こしている


「おはようございます……

 って、わぁ!」


 彼女は完全に覚醒したようで

 俺の手にある剣を見て

 目を輝かせた


「それ、昨日のゴミですよね?

 えっ、すごい!

 ピッカピカじゃないですか!」


 ベッドから飛び起き

 あられもない姿のまま

 駆け寄ってくる


「これ売ったら

 ボロ儲けですよ!

 元手ほぼゼロで

 売り上げ100パーセント!」


「私たち

 一生遊んで暮らせますね!」


「調子に乗るな」


 俺は剣を鞘に収めながら

 釘を刺した


「あまり派手にやりすぎれば

 市場価格を壊すんだよ」


「そうなれば商会やギルドから

 目をつけられるし

 最悪、国や貴族に囲い込まれるぞ」


「うっ……それは嫌です

 まだ美味しいもの

 食べ歩きたいし」


「なら、ほどほどにしておけ」


「俺たちはあくまで

『腕のいい修理屋』だ

 魔法使いでも

 錬金術師でもない」


「へーい」


 俺たちはルームサービスで

 朝食を済ませた


 焼き立てのパンに

 新鮮な果物

 厚切りのベーコン


「収納」に入れておけば

 これも永久に保存できるなと

 少し考えたが

 今は味わうことに専念した


 身支度を整え

 俺たちは街へと繰り出した


 昨日のスーツ姿は

 目立ちすぎたため

 今日は現地風の服に

 着替えている


 もっとも

 生地の質だけは

「時間操作」で新品同様に

 しているので

 どこぞの貴族の私服に

 見えなくもないが


 向かったのは

 大通りから一本入った

 場所にある武具屋だ


 カラン、とベルを鳴らして

 入店する

 店主は偏屈そうな

 初老の男だった


「いらっしゃい

 ……おや

 冷やかしなら帰ってくれよ」


 店主は俺たちの

 整った身なりを見て

 客ではないと判断したらしい


「いや、売りたい物がある

 実家の蔵を整理してたら

 出てきてな」


 俺は修復した剣と

 磨き上げたブーツ

 それにランタンを

 カウンターに置いた


「ふん、蔵出しの骨董品か?

 どうせ錆びだらけの……」


 店主が剣を手に取り

 鞘を払った瞬間


 シャラン

 と澄んだ音が店内に響いた


「……ほう」


 店主の目の色が変わった

 プロの目だ


「銘はないが……

 いい鉄を使ってる

 それにこの刃紋

 焼き入れも完璧だ」


「何より

 手入れが行き届いている」


 彼はブーツの革を撫で

 ランタンの機構を確認する


「……信じられん

 どれも数十年は前の型だが

 まるで昨日作られたみたいだ」


「どんな保存魔法を

 かけてたんだ?」


「さあな

 俺はただの管理を

 任されてただけだ」


 適当に煙に巻く


 店主は怪しむ素振りを

 見せたが

 目の前の商品の魅力には

 勝てなかったらしい


「……いいだろう

 まとめて金貨15枚だ」


「20だ」


「18でどうだ

 これ以上は出せん」


「商談成立だ」


 俺たちは握手を交わした


 ゴミ同然の仕入れ値が

 数秒でサラリーマンの

 月収並みの金になった


 やはりチョロい

 だが

 俺の本来の目的は金じゃない


 金貨を受け取りながら

 俺は世間話のように

 切り出した


「そういえば

 街に入る時に

 検問が厳しかったな」


「王都の方じゃ

 何か祭りでもやってるのか?」


 店主は硬貨を数えながら

 鼻を鳴らした


「ああ、あれか

『異界の勇者』様たちの

 お披露目だよ」


 ビンゴだ

 俺の鼓動が少しだけ早くなるのを

 抑え

 平然とした顔を作る


「なんでも5人の勇者が

 魔王討伐のために

 召喚されたとか」


「国を挙げての

 パレードだそうだ」


「5人、か」


 俺とミクを除いた

 あのバカたち5人

 やはり、あいつらだけが

「勇者」として

 カウントされているらしい


「へえ、5人もか

 そりゃ頼もしいな」


「違いない

『聖女』様に『賢者』様

『剣聖』もいるらしい」


「王家も鼻が高いだろうよ

 ま、庶民には

 関係ねえ話だがな」


「全くだな」


 俺は興味なさそうに

 相槌を打ち

 店を出た


 通りに出ると

 隣を歩くミクが

 小声で囁いてきた


「……5人って言ってましたね」


 彼女の声色は

 少し不安げだ


「私たち2人は

 完全にカウントされてない

 みたいですね」


「存在そのものが

 消されてるんでしょうか?」


「だろうな

 俺たちは召喚の

『巻き込まれ』……

 いわゆるエラーデータだ」


「王家にとっちゃ

 勇者は5人で十分

 余計な一般人は

 ノイズでしかない」


「それって

 見つかったら消される

 パターンですか?」


「いや、逆だ」


 俺は雑踏を見渡しながら

 口元を緩めた


「俺たちは『管理外』の

 存在になれたってことだ」


「期待もされてなければ

 監視もされていない

 これほど自由で

 動きやすい立場はない」


 あの5人は今頃

 豪華な食事と引き換えに

 自由を奪われ

 プロパガンダの道具にされ

 最前線へ送られる準備を

 させられているだろう


「勇者」なんて聞こえはいいが

 実態は「使い捨ての兵器」だ


 それに比べて

 俺たちはどうだ


 数億円の資産と

 衣食住を保証する

 チート能力を持ち

 誰にも縛られずに

 観光気分で街を歩いている


「どうします?

 王都に行ってみます?」


「いや、却下だ」


 俺は即答した


「関われば

 ろくなことにならない

 あのバカたちが魔王と戦おうが

 王家と揉めようが

 知ったことじゃない」


「俺たちはこの街を拠点に

 適度に稼ぎつつ

 もっと広範囲の情報を集める」


「この世界の地図、国家間の情勢

 そして『元の世界への帰還方法』の

 有無だ」


 もしこの国が

 勇者を利用して

 無謀な戦争でも始めたら

 さっさと他国へ逃げる


 俺には愛国心もなければ

 この世界を救う義理もない


 あるのは

 自分と、この共犯者を守るための

 合理的な判断だけだ


「了解です、ボス」


 ミクはクスクスと笑い

 俺の腕に自然と抱きついてきた


「どこまでもついて行きますよ

 美味しいご飯と

 ふかふかのベッドがあるなら」


「……現金な奴だ」


「生きるのに必死なだけですよ

 それに、アツシさんの冷たい所も

 嫌いじゃないですし」


 腕に感じる彼女の体温と

 柔らかさ

 かつては「主人とペット」だった

 関係が

 今は「利益を共有するパートナー」として

 機能している


 悪くない


「行くぞ。次は古着屋だ」


「お前が欲しがってた

『貴族風のドレス』

 ボロ布でいいなら

 買って直してやる」


「やった!

 アツシさん大好き!」


 俺たちは雑踏の中へと

 消えていく


 英雄でもなければ

 聖女でもない

 ただの小金持ちの観光客として


 この世界を救うのは

 あの5人に任せておけばいい


 俺たちは

 このバグだらけの世界を

 せいぜい快適に

 ハックさせてもらうとしよう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ