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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第3話:灰の味と、尊厳の対価

森を歩き始めて数時間。


 腹が減った。


 食事と睡眠無しで動けるように

 調整されてるが、胃袋は正直だ。


 俺の前を歩く女子高生、

 名前は「ミク」というらしい。


 彼女も空腹なのか、

 足取りが重くなってきた。


「ご、ご主人様……

 お腹、空きませんか?」


 怯えたように聞いてくる。


「ああ、そうだな。

 そろそろ獲物を狩るか」


 俺は立ち止まり、

 周囲の気配を探る。


 ガサガサ、と

 藪が揺れる音。


 先ほどのゴブリンではない。

 四足歩行の獣の気配だ。


(鑑定……はないか)


 だが、長年の勘が告げている。

 あれは「食える」と。


 飛び出してきたのは、

 額に一本角が生えた

 巨大な猪だった。


「ひっ!?」


 ミクが悲鳴を上げ、

 俺の背中に隠れる。


 俺は慌てず、

 インベントリから

 小石を取り出した。


(射出)


 パンッ、と

 乾いた音が響く。


 眉間を正確に撃ち抜かれた

 猪は、

 勢いのまま数メートル滑り、

 俺の足元で絶命した。


「す、すごい……」


「感心してる暇はないぞ。

 血抜きをする」


 本来なら、

 逆さ吊りにして頸動脈を切り、

 時間をかけて血を抜く。

 だが、今の俺には

『収納』がある。


 俺は猪の死体に手を触れ、

 イメージした。


(対象、血管内の血液のみ。

 ……収納)


 シュッ。


 一瞬で、

 猪の体から血の気が引いた。


 地面を汚すこともない。

 完璧な血抜きだ。


「つ、次は皮だ」


(対象、表皮および体毛。

 ……収納)


 ズルリ、と

 皮が剥がれた状態の

 赤身の肉塊が現れる。


 内臓も同様に処理する。

 破かないように、

 慎重にイメージして

 中身だけを亜空間へ送る。


 包丁もナイフも使わず、

 わずか数十秒で

 精肉作業が完了した。


 焼き鳥屋の親父が見たら

 腰を抜かすだろうな。


「……魔法、みたい」


「魔法より便利だ。

 さて、焼くぞ」


 俺は手頃な枯れ枝を集め、

 猛スピードでこすり合わせる。

 倍に強化された肉体ならすぐだ。


 種火ができればあとは早かった。


 串に刺した猪肉を

 火にかける。


 脂がしたたり、

 香ばしい匂いが

 辺りに漂い始めた。


「いい匂い……」


 ミクがゴクリと喉を鳴らす。


 だが、問題が一つある。


「塩がないな」


 味付けがない。

 これではただの焼いた肉だ。

 生きるためとはいえ、

 不味い飯は精神を削る。


 俺は燃え残った

 綺麗な「灰」を指ですくった。


「草木の灰には、

 ミネラルと塩分が含まれる。

 昔の知恵だ」


 俺は灰を肉にまぶし、

 ミクに手渡す。


「食え」


「あ、ありがとうございます!」


 彼女は野獣のように

 肉にかぶりついた。


「んっ……!

 ……あ、苦い……

 でも、お肉の味……!」


 俺も一口食べる。


「……不味いな」


 ジャリジャリとした食感。

 独特のエグみと苦味。

 その奥に、

 わずかな塩味を感じるだけ。


 肉自体は悪くない。

 新鮮なジビエだ。

 だが、調味料がないだけで

 ここまで味気ないとは。


「醤油が欲しいな……

 せめて塩だけでも」


 俺は咀嚼しながら、

 今後の指針を決めた。


「街を目指すぞ。

 この森で自給自足は

 限界がある」


「は、はい!

 ついていきます!」


 食事を終え、

 再び歩き出す。


 生理現象は、

 食事の後にやってくる。


 俺は自分の体を撫でた。


 汗、皮膚の汚れ、

 毛穴に詰まった皮脂。


(対象、体表の老廃物。

 ……収納)


 一瞬で、

 風呂上がりのような

 爽快感が駆け巡る。


 ベタつきも臭いも消えた。


 さらに、

 下腹部に意識を向ける。


(対象、直腸内の排泄物。

 ……収納)


 便意がスッと消える。


 トイレに行く必要すらない。

 出した瞬間に収納、

 あるいは体内から直接収納。

 これぞ究極の清潔だ。


 だが、

 隣を歩く彼女は違う。


 さっきから、

 内股でモジモジと

 歩き方がおかしい。


 顔色も悪い。

 脂汗をかいている。


「……おい」


「は、はいっ!?」


「用があるなら言え。

 漏らすぞ」


「う、うう……

 で、でも……」


 彼女は涙目になりながら

 周囲を見回す。


「こ、こんな森の中で……

 お尻出したら、

 虫とか……それに、

 ゴブリンが来たら……」


 確かに危険だ。

 無防備な姿を晒せば、

 格好の的になる。


 それに、

 臭いは獣を寄せる。


「……仕方ない」


 俺は溜息をつき、

 彼女に近づいた。


「ここでしろ」


「えっ!?

 で、でも、ご主人様の

 目の前でなんて……!」


「見たいわけじゃない。

『処理』してやる」


 俺は彼女の肩を押し、

 その場にしゃがませた。


「だ、出す瞬間に、

 俺が『収納』する。

 そうすれば臭いもしないし、

 お前の体も汚れない」


「そ、そんな……っ!

 排泄物を、ご主人様の

 能力に入れるなんて……!」


「漏らして垂れ流すよりは

 マシだろう。

 早くしろ。

 敵が来るぞ」


「う、ううぅ……」


 彼女は真っ赤な顔で、

 震える手でスカートを捲り、

 下着を下ろした。


 白い肌が露わになる。

 俺の目の前で。


「み、見ないでぇ……っ」


「見てないとタイミングが

 合わせられないだろうが」


 俺は無機質な声で告げ、

 その「場所」を凝視する。


(……来るな)


 彼女がいきむ。

 恥辱に涙を流しながら、

 生理現象には抗えない。


 排泄物が

 体外に出た、その瞬間。


(収納)


 物理的に落下する前に、

 それは虚空へと消えた。


 ついでに、

 周囲の汚れも収納する。


「……終わりだ」


「は、ひぅ……っ」


 彼女はへたり込み、

 顔を覆って泣き出した。


「お尻……綺麗になってる……

 紙も使ってないのに……」


「合理的だろう? 行くぞ」


 俺は彼女の手を取り、

 強引に立たせた。


 日が暮れ始めた。


 焚き火の前で、

 ミクは体育座りをしている。


 俺の横に、

 ぴったりとくっついて。


「……ご主人様」


 消え入りそうな声。


「あんなところ……

 一番恥ずかしいところ、

 見られちゃいました」


「緊急事態だ。気にするな」


「気にします……!

 もう、お嫁に行けません」


 彼女は潤んだ瞳で

 俺を見上げる。


 吊り橋効果か、それとも諦めか。

 あるいは、生存のための計算か。


「だから……

 ご主人様に、

 貰ってもらうしかありません」


 彼女の手が、

 俺の太ももに伸びる。


「……責任、

 とってくださいね?」


 あどけない顔つきだが、

 言っていることは

 一人前の女だ。


 俺は34歳だ。

 ガツガツする歳でもないが

 枯れてもいない歳だ。


 いわゆる

「鈍感系主人公」を

 気取るつもりもなかった。


 出された膳は食う。

 それが礼儀であり、

 男としての甲斐性だ。


 それに、

 この過酷な異世界で

 正気を保つためにも、

 温もりは必要だろう。


「……後悔しないな?」


「はい……

 ご主人様の、

 オモチャでいいです……」


 彼女は俺の首に

 腕を回し、

 甘い匂いを漂わせて

 体を預けてきた。


 俺は彼女の

 柔らかな腰に手を回し、

 受け入れる。


(街に行けば、

 もっと良い店もあるだろうが)


 娼館もいいが、

 日本では危険な素人JKというのも

 確かに悪くない。


 焚き火の爆ぜる音が、

 俺たちの吐息に混じる。


 明日は街を目指そう。

 美味い飯と、

 ふかふかのベッド。

 そして塩を求めて。


 俺は彼女の

 制服のリボンを解きながら、

 そんなことを考えていた。

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