最終話 真の女王の誕生と、最高のハネムーン
王城の奥深く、
静まり返った謁見の間。
扉を蹴り開けて入ってきた俺たちを、
生き残った第二王女と、
前回殺した貴族の跡を継いだ新当主たちが、
青ざめた顔で待ち受けていた。
勇者たちをあっさり処理した俺たちに
怯える王女の横で、
血気盛んな新当主たちは
憎悪の籠もった瞳でこちらを睨みつけている。
「あれー、こっち睨んでるって事は、
戦争止めないで私たちの敵になるって事ですか?」
ミクが小首を傾げ、
いつも通りの無邪気な声で煽る。
彼女の深紅のコートが、
まるで死神の衣のように揺れた。
「貴様ら……! よくも父上を……!」
一部の貴族が耐えきれず、
腰の剣に手をかけようとする。
ミクが嬉しそうに嗤い、
臨戦態勢に入ろうとした、その時だ。
「王女さん」
俺は一歩前に出て、
玉座の前で震える少女に声をかけた。
「あんた本当は、
戦争も召喚も止めたかったんだろ?
今度こそ止めてみろ」
挑発ではない。
これは、彼女への最後の試練だ。
張り詰めた空気の中、
貴族たちが剣を抜こうとした瞬間。
「……剣を収めなさい!!」
凛とした声が、
謁見の間に響き渡った。
真ん中に割って入ったのは、
他でもない第二王女だった。
そこには、もう怯えるだけの
か弱い少女の姿はなかった。
彼女の瞳には、
国を背負う者としての強い意志が宿っている。
「私はここに、
女王としての即位を宣言します!」
彼女は居並ぶ貴族たちを
真っ直ぐに見据えて言い放った。
「そして、女王の権限において停戦し、
魔族との終戦交渉を始めます!
これ以上の無意味な血は流させません!」
その圧倒的な覇気と覚悟の前に、
剣を抜こうとしていた貴族たちは
息を呑み、そして……
一人、また一人と、
静かにその場に跪き始めた。
聖王国グランディアに、
初の「女王」が誕生した瞬間だった。
俺は小さく鼻で笑い、
恭しく一礼してみせた。
「では魔王に、現時刻での停戦と、
その後の終戦交渉をしたいと
確かに伝えますよ。女王様」
俺たちは背を向け、
謁見の間を後にする。
もう、この国に用はない。
◇
一ヶ月後。
魔族領の西の果て、港町ポルト。
「んん〜っ! やっぱりこの町の
海鮮焼きは世界一ですね!」
潮風の吹くテラス席で、
ミクが幸せそうに頬張っている。
俺たちに救われた魚人族の親父も、
すっかり元の活気を取り戻し、
俺たちの前に次々と料理を並べていた。
あの後、魔王に女王の言葉を伝え、
両国の間には正式な停戦協定が結ばれた。
世界は今、
ゆっくりと平和への道を歩み始めている。
俺たちはそんな歴史的偉業など
すっかり忘れたかのように、
ただ美味い飯を食い続けていた。
「たくさん食ってくれよ恩人さん!
……そういやあ」
親父が、ふと遠くの海を見つめて漏らす。
「海を渡った向こうの大陸にいる
『ベヒモス』とか『龍』って魔物、
とんでもなく美味いって噂があるなぁ」
「……ほう」
俺は持っていたフォークを止め、
ミクと顔を見合わせた。
未知の大陸。
そして、まだ見ぬ極上の食材。
俺たちの求めるものは、
常にその先にある。
「よし、あちらの大陸に
グルメ旅行だな」
俺が口角を上げて宣言すると、
ミクが頬を膨らませて抗議してきた。
「もうっ! アツシさん、
そこはハネムーンって言ってくださいよう!」
「ハハハッ、違いねえ!」
俺たちの大きな笑い声が、
青く澄み渡った空に響き渡る。
最強の共犯者にして、最愛の相棒。
彼女がいれば、
どんな理不尽も極上のスパイスになる。
(完)




