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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第2話 実弾演習と荷物持ち

気がつけば、

俺は森の中に立っていた。


湿った土の匂い。

どこか懐かしい、

地元の山奥にも似た

濃密な草木の香り。


だが、植生が違う。

見たこともない

巨大なシダ植物が、

視界を埋め尽くしている。


「……異世界、か?」


俺は呟く。

34年生きてきて、

まさか自分が

小説みたいな目に遭うとはな。


不思議と混乱はない。

腹が据わっているというより、

現実感が薄いせいかもしれない。


「きゃあああっ!?」


悲鳴が鼓膜を叩く。


振り返ると、

制服姿の少女が

尻餅をついていた。


見覚えがある。

さっきまで同じバスに

乗っていた女子高生だ。


彼女は震えながら、

周囲を見回している。


「ここ、どこ……?

スマホ、圏外……?」


パニックを起こしている。

それが普通の反応だ。


俺は彼女を無視して、

自分の手のひらを見つめた。


視界の端に、

奇妙なアイコンが浮いている。

ゲームのUIのようだ。


(ステータス……

『収納』、か)


意識を向けると、

説明が頭に流れ込んでくる。

とりあえず鞄を入れてみる。


俺は足元に転がる

握り拳大の石に目を向けた。


(収納)


念じた瞬間、

石が消失する。


屈む必要も、

触れる必要もない。

視界に捉え、

「俺の物だ」と認識すれば

数メートル先の物体でも

瞬時に格納できるらしい。


(便利だな。

これなら重機もいらない)


俺は頭の中で

リストを開く。

『石ころ×1』。


取り出しも自由自在。

しかも、

取り出す際の「速度」を

設定できるらしい。


(射出速度……

これを使えば、武器になる)


俺は実験を開始した。


手頃な石を数個、

視線だけで次々と収納する。

まるで掃除機だ。

歩きながら、

目についた障害物を

片っ端からインベントリへ。


その時だ。


ガサガサッ!


茂みをかき分け、

醜悪な緑色の小鬼が

姿を現した。


ゴブリン。

ファンタジーの定番だ。


「ヒッ……!」


女子高生が息を呑む。


ゴブリンは彼女を見ると、

下卑た笑みを浮かべて

跳びかかろうとした。


(的としては、丁度いい)


俺はインベントリから

小石を選択する。


まずは静かに。

音速未満の設定で。


(射出)


シュッ。


風を切る音だけを残し、

小石がゴブリンの眉間を貫く。


「ゴ……」


小鬼は声も上げず、

糸が切れたように崩れ落ちた。


昔撃った45口径並みの威力。

だが、火薬がない分

驚くほど静かだ。

これなら居場所を悟られない。


「ギギッ!?」


仲間の死に反応し、

さらに奥から二匹目が現れる。

今度は棍棒を持っている。


(次は、最大出力だ)


俺は好奇心に従い、

リミッターを外した。

音速突破スーパーソニック


(射出!)


ドォォォンッ!!


爆発のような轟音。

衝撃波が周囲の草を薙ぎ倒す。


小石が着弾した瞬間、

ゴブリンの上半身が

血霧となって四散した。


背後の大木にまで風穴が開き、

メリメリと音を立てて傾く。


「……やりすぎだな」


威力は申し分ないが、

これでは山中の魔物を

呼び寄せてしまう。


燃費の悪い大技より、

静かで確実な亜音速射撃。

それが正解か。


俺は埃を払い、

何事もなかったかのように

歩き出そうとする。


「あ……」


背後で声がした。


振り返ると、

女子高生が立ち上がり

こちらを見ていた。


先ほどまでの

怯えきった表情はない。


彼女は見たのだ。

圧倒的な暴力と、

俺の異常なまでの適応力を。


彼女の視線が、

俺の全身を値踏みするように

舐め回す。


森で一人になれば彼女は死ぬ。

あるいは魔物の苗床か。


彼女は賢いのだろう。

プライドや常識が、

ここでは何の役にも立たないと

瞬時に理解したらしい。


彼女はスカートの裾を掴み、

ゆっくりと俺に近づく。


そして、

俺の目の前で

その場に膝をついた。


泥に汚れることも厭わず、

懇願するように

上目遣いで俺を見上げる。


「おじ、様……」


呼び方が変わった。


「私……なんでもします」


彼女は制服のボタンに手をかけ、

白い肌をあえて晒す。


「お料理も、洗濯も……

夜のお世話だって、

なんだってできます」


震えは止まっている。

その瞳にあるのは、

媚びと、生存への執着。


彼女は自分の価値を

「若さ」と「体」に見出し、

それを対価に

俺という「盾」を買おうとしている。


(悪くない判断だ)


悲鳴を上げて

足手まといになるだけの

小娘なら捨て置くつもりだった。


だが、

ここまで腹を括れるなら

使い道はある。


睡眠や食事無しでも

動けるようにはなってるが、

精神の安定にはどちらも必要だ。


身の回りの世話をさせ、

俺が休む間の

「目」として使う。

ソナー代わりの消耗品より、

管理された家畜の方が

コスパはいい。


「……立て」


俺は短く告げる。


「置いていくぞ」


その言葉の意味を、

彼女は正しく理解した。


「はいっ……!

ありがとうございます、

ご主人様!」


彼女は立ち上がり、破顔する。

安堵と強者に寄生できた歓喜。


俺の後ろを歩く彼女の足取りは、

先ほどよりも

ずっと力強くなっていた。


この異世界で、

俺たちの奇妙な共同生活が

幕を開ける。

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