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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第15話 良き領主と通行料代わりの土木工事

 旅の疲れを癒やすため、

 俺たちは中規模の城郭都市

「リバーサイド」を訪れた。


 門番が槍を構える。


「止まれ。身分証を」


「ああ、これだ」


 俺は「商業ギルド」の銀カード、

 ミクは「冒険者ギルド」の鉄カードを

 提示した。


 前回、特許登録のついでに

 ランクを上げておいて正解だった。


「……確認しました。

 ようこそ、リバーサイドへ」


 門番は敬礼して通してくれた。

 賄賂も要求されない。

 どうやら、この街は「まとも」らしい。


「アツシさん! お風呂です!

 今日は絶対、お風呂付きの宿です!」


 ミクが鼻息荒く宣言する。

 収納で体は清潔に保てるが、

「湯に浸かる」快感は別物だ。


 俺たちは街一番の

 高級宿をとった。


 部屋には専用の檜風呂。

 窓からは美しい街並みが見える。


「はぁ~……生き返りますぅ……」


 湯船に浸かったミクが、

 とろけるような顔をしている。

 これを見るためだけに、

 高い宿代を払う価値がある。


 翌日。

 俺たちは別行動をとった。


 ミクは冒険者ギルドへ。

 道中の魔物素材を換金し、

「現役稼働中」のアリバイを作るためだ。


 一方、俺は商業ギルドへ。


「おお! アツシ様!

 お待ちしておりました!」


 ギルド長が揉み手で出迎える。


「例の『水飴』と『たい焼き』、

 徐々にですが広まっております。

 これが今月の権利収入です」


 渡された革袋はずっしりと重い。

 まだ初期段階でこれだ。

 将来が楽しみになる。


「それと、ジルコニアですが……」


「ああ、卸そう」


 俺は収納から、

 人工宝石ジルコニアを取り出す。


 この街の貴族は目が肥えている。

 適正価格、いやそれ以上の値がついた。


 懐がさらに温まり、

 俺は宿へと戻る道すがら、

 街の様子を観察した。


 活気がある。

 店主たちの顔が明るい。

 巡回する兵士も、

 子供に手を振るほど愛想がいい。


「領主が良いんだろうな」


 搾取せず、治安を守る。

 当たり前のことだが、

 この異世界では奇跡に近い。


 その頃、冒険者ギルドでは。


「おっ、可愛いねーちゃん!

 俺たちとパーティー組まない?」


 ミクが定番のナンパに遭遇していた。


「いえ、間に合ってます」


「つれないなぁ。

 俺たちランクCだぜ?

 いい思いさせてやるよ」


 男がミクの肩に手を回す。


 ドガッ。


 乾いた音が響き、

 男が天井まで吹き飛んだ。


「あ、すみません。

 虫が止まったので払っちゃいました」


 ミクはニコリともせず、

 カウンターに素材を置く。


「換金、お願いします」


「は、はいぃッ!!」


 受付嬢が震えながら金貨を渡す。

 周囲の冒険者たちは

「あの嬢ちゃんには関わるな」と

 目で合図し合っていた。


 こうして、

 俺たちは一週間の滞在を楽しんだ。


 美味しい屋台を食べ歩き、

 観光名所を巡り、

 夜は宿でイチャイチャする。


 嫌な奴もいない。

 飯も美味い。

 久しぶりに心安らぐ時間だった。


「名残惜しいですが、

 そろそろ出発ですね」


「ああ。

 次は山越えだ」


 俺たちは街を出て、

 西の街道を進んだ。


 だが、数キロ進んだところで、

 人だかりができていた。


「どうした?」


「ああ、旅の方……

 見ての通りだよ」


 商人が指差す先、

 街道沿いの谷が崩落していた。


 数万トンはあるだろう土砂が

 完全に道を塞いでいる。


「こりゃあ酷い。

 復旧には一ヶ月はかかるぞ……」

「参ったな、荷物が腐っちまう」


 商人たちが頭を抱えている。

 物流が止まれば、

 あの良い街も干上がってしまうだろう。


「……アツシさん」


 ミクが俺を見る。


「通れないですね」


「俺たちなら越えられるがな」


 身体強化で跳躍すればいい。

 だが、馬車や商人は無理だ。


 俺は崩落現場を見上げた。


「……良い街だったな」


「はい。

 ご飯も美味しかったし、

 お風呂も最高でした」


「また来たいか?」


「はい! ぜひ!」


「なら、道がないと困るな」


 俺は人混みをかき分け、

 土砂の前に立った。


「おいあんた! 危ないぞ!」


 制止する声を無視し、

 俺は土砂に手を触れる。


 システム起動。

 対象範囲設定。


『ターゲット:崩落した土砂・岩石(全量)』

『実行:収納』


 シュンッ。


 音が消えた。


 目の前にあった小山のような土砂が、

 一瞬にして消失した。


 現れたのは、

 綺麗に整地された街道だ。


「は……?」

「な、何が起きた……?」

「消えたぞ!?」


 商人や御者たちが

 腰を抜かしている。


 俺は振り返らず、

 呆気にとられる人々を背に

 歩き出した。


「さあ行くぞ、ミク」


「はいっ!

 さすがアツシさん、力持ち!」


「ただの整理整頓だ」


 俺たちは

 何事もなかったかのように

 街道を進む。


 背後から、

 遅れて歓声が上がった。


「うおおおおッ!!」

「道が! 道が開いたぞ!」

「魔法使い様だ! 救世主様だ!」


 感謝の声が響き渡る。


 俺は手を振ることもなく、

 ただミクの手を握り直した。


 通行料代わりの土木工事。

 あの街へのチップとしては、

 悪くないだろう。


「いい街だったな」


「はい。

 またいつか、来ましょうね」


 俺たちの旅路に、

 また一つ、

 帰りたい場所が増えた。

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