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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第14話 旅の車窓と焚き火の夜話

 商業国家ベルカを出て、

 俺たちは西へと向かっていた。


 今回は珍しく、

 乗り合い馬車を利用している。


「ん〜っ、風が気持ちいいですね!」


 窓際の席で、

 ミクがご機嫌に鼻歌を歌っている。


 ガタゴトと揺れる車内。

 流れる景色は、

 麦畑から荒野へと変わっていく。


 俺たちは基本的に徒歩移動だ。

 身体能力が高いからその方が速い。


 だが、たまにはこうして

「旅情」を味わうのも悪くない。


 昼過ぎに立ち寄った宿場町は、

「香辛料」の取引で

 有名な場所だった。


「アツシさん! 赤いです!

 あの料理、絶対辛いです!」


 ミクが指差したのは、

 真っ赤なソースがかかった

 鶏肉の煮込みだ。


「……美味そうだな」


 この世界に来てから、

 刺激的な味には飢えていた。


 俺たちは屋台で

「火吹き鶏」なる料理を買い、

 馬車の待ち時間に頬張った。


「っかぁ~! 辛い!

 でも美味しいです!」


 ミクが涙目になりながら、

 水をガブ飲みする。


「唐辛子に似てるが、

 後味が爽やかだな。

 これはビールが欲しくなる」


 俺も額に汗を浮かべながら、

 刺激的な旨味を堪能した。


 馬車は夕暮れ時に、

 大きな川のほとりで停車した。

 ここで一泊して、

 明朝また出発するという。


「どうする? 宿をとるか?」


「いえ、今日はキャンプしましょう!

 あの川、お魚いそうです!」


 ミクの提案で、

 俺たちは河原で野営することにした。


「じゃあ、獲ってくるか」


 俺は川面を見つめる。

 夕食の確保だ。


「アツシさんは鳥をお願いします!

 私はお魚獲ってきます!」


 ミクは靴を脱ぎ捨て、

 バシャバシャと川に入っていく。


 俺は空を見上げた。

 渡り鳥の群れが飛んでいる。


『対象射出:鉄球(パチンコ玉)』

『設定:狙撃モード』


 指先で狙いを定める。

 視界に照準が表示される。


 パシュッ。


 指を弾くと、遥か上空で

 一羽の鳥が墜ちた。


「ナイスショットです!」


 川の方では、

 ミクが素手で魚を掴み取っていた。

 野生児か、お前は。


 日が落ち、

 河原に焚き火が爆ぜる。


 串焼きにした魚と鳥肉が、

 脂を落として香ばしい音を立てる。


「いただきまーす!」


 シンプルな塩焼きだが、

 労働の後の飯は格別だ。


 パチパチという焚き火の音。

 満天の星空。

 川のせせらぎ。


「……ねえ、アツシさん」


 ミクが膝を抱えて、

 炎を見つめながら呟いた。


「アツシさんって、

 日本にいた頃どんな感じでした?」


「俺か?

 仕事して、帰ってゲームして……

 地味な生活だよ」


 俺は串を回しながら答えた。

 虐められていた記憶もあるが、

 今夜はそういう気分じゃない。


「ネトゲのフレンドと、

 朝までレイドボス倒したりな。

 会ったこともない連中だったが、

 不思議と結束力はあった」


「へぇ~、アツシさんらしいですね。

 画面の中でも指揮官やってそう」


 ミクがクスクスと笑う。


「ミクはどうだったんだ?

 彼氏とかいたんだろ?」


「いましたよー。

 サッカー部の先輩とか、

 他校のバンドマンとか」


 さらりと言う。

 やはりこいつは、

 俺とは違う人種の「リア充」だ。


「遊園地行ったり、

 水族館行ったりしましたけど……

 なんか、すぐ飽きちゃうんです」


「飽きる?」


「はい。

『好きだよ』とか言われても、

『あ、はい』って感じで」


「いい人たちだったんですけどね。

 なんか、色が薄いっていうか……

 生きてる感じがしなくて」


 ミクは小首を傾げた。


 平和な日本。

 恵まれた環境。

 普通の恋人。


 だが、

 彼女の心の「穴」を埋めるには、

 平穏すぎたのかもしれない。


「でも、今は違います」


 ミクが俺の方を向いた。

 焚き火の灯りが、

 彼女の瞳を赤く照らしている。


「ここは毎日が刺激的で、

 ご飯も美味しくて」


「何より、アツシさんがいます」


 彼女はニッコリと笑った。


「私、日本にいた時より、

 今の方がずっと息がしやすいです」


「ここで二人で生きるのが、

 一番いいですねぇ」


 屈託のない言葉。

 そこには、

 過去への未練も後悔もない。


 俺たちは

「元の世界」に居場所がなかった。

 だからこそ、

 このクソみたいな異世界で

 強く結びついている。


「……そうだな。

 俺も、ミクとの旅は退屈しない」


「えへへ、良かったです」


 ミクは満足そうに目を細め、

 俺の肩に頭を預けてきた。


「……おやすみなさい、アツシさん」


 数秒もしないうちに、

 規則正しい寝息が聞こえてくる。

 本当に、図太い神経だ。


 俺は毛布を取り出し、

 彼女の肩にかけてやった。


 夜風が冷たい。

 だが、焚き火と彼女の体温で、

 寒さは感じなかった。


 翌朝。


「アツシさん! 起きてください!

 置いてかれますよ!」


 ミクの元気な声で目が覚めた。

 朝日が眩しい。


「……朝から元気だな」


「今日はどんな街に着きますかね?

 また美味しいものありますかね?」


 昨夜のしんみりした空気はどこへやら。

 彼女はもう、

 新しい一日に心を躍らせている。


「さあ、行くぞ。馬車が出る」


「はいっ!」


 俺たちは荷物をまとめ、

 出発の合図を待つ馬車へと走った。


 過去は過去。

 今は今。


 俺たちの「エデン」を探す旅は、

 まだまだ終わらない。


 今日もまた、

 騒がしくも愛おしい一日が始まる。

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