第13話 甘味革命と特許ビジネス
森を抜けた俺たちは、
「商業国家ベルカ」の地方都市に
到着していた。
この国は活気がある。
街道には商人の馬車が行き交い、
市場には様々な食材が並ぶ。
だが、ミクの顔は晴れない。
「……ない」
「何がだ?」
「甘いものです!
この国のスイーツ、
焼きリンゴばっかりじゃないですか!」
ミクが頬を膨らませる。
どうやら「あんこ」不足で、
禁断症状が出ているらしい。
「アツシさん……
たい焼きが食べたいです」
「外側がパリッとしてて、
中から熱々のあんこが出るやつ……」
「ここにはないぞ。
砂糖が高すぎるからな」
市場を見て回ったが、
精製された砂糖は金貨並みの高級品だ。
これでは庶民的な菓子など
発展するはずがない。
「作ってください!」
ミクが俺の腕に抱きつき、
上目遣いで訴える。
「アツシさんなら、
どうにかできるはずです!」
確かに、材料はある。
小豆に似た豆も、小麦粉も。
だが、俺が毎回焼くのか?
ミクが「食べたい」と言うたびに?
それは「システム的」に効率が悪い。
俺はSEだ。
一度の作業を自動化し、
恒久的なリソースにするのが仕事だ。
「……ミク、いいアイデアがある」
俺はニヤリと笑った。
「一回作って終わりじゃない。
この国中、どこに行っても
たい焼きが食えるようにしてやる」
俺たちはその足で、
街の鍛冶屋へと向かった。
「親父さん、仕事だ」
俺は羊皮紙を広げた。
「たい焼き機」の設計図だ。
「金貨5枚出す。
そのかわり今日の夕方までに」
「ご、5枚!?
やります! やらせてください!」
職人が作業している間に、
俺は次の手を打つ。
向かったのは「商業ギルド」だ。
「新規の食品加工技術と、
調理器具の『権利登録』をしたい」
俺が提示したのは二つ。
一つは「たい焼き」という意匠。
そしてもう一つが、
本命の『水飴』の製造法だ。
麦芽に含まれる酵素で、
芋のデンプンを糖に変える技術。
これを使えば、
高価な砂糖を使わずとも
激安で甘味料が作れる。
これは色々とアレルギーのあった
妹の為にお袋が作っていたレシピだ。
ミクの為に使えるとはなあ。
「こ、これは革命的です……!
すぐに登録しましょう!」
ギルド職員が震えている。
この権利を持っていれば、
俺には将来、莫大な特許料が入る。
だが、俺の狙いはそこじゃない。
夕方、完成した金型を受け取り、
俺たちが向かったのは
街外れの「ベルカ孤児院」だ。
庭では、
薄汚れた服を着た子供たちが
元気なく座り込んでいる。
「誰だい? あんたたち」
出てきたのは、
疲れ切った顔のシスターだった。
「寄付なら歓迎だけど、
見ての通りお茶も出せないわよ」
「いや、寄付というか仕事の話だ」
俺は単刀直入に切り出した。
「この院に『資金源』を提供したい。
子供でも簡単に作れて、
バカ売れする菓子のレシピだ」
俺は昨日作った
「たい焼き機」と「レシピ」、
そして見本のお菓子を置いた。
「食べてみなよ」
シスターがおっかなびっくり口にする。
瞬間、彼女の目がカッと見開かれた。
「な、何これ!?
甘くて、温かくて……美味しい!」
「でも、こんなに甘いなんて……
お砂糖をどれだけ使っているの?
私たちには材料費が……」
「砂糖は使ってない。
芋と麦で作った水飴って言うんだ」
俺は種明かしをした。
「材料はクズ芋でいい。
原価はタダみたいなもんだ」
「えっ……お芋で、この甘さを?」
シスターが絶句する。
「この製造法とたい焼きの権利は、
俺がギルドに登録済みだ。
他店が真似しようとすれば、
高い権利金を払うことになる」
俺は指を立てた。
「だが、あんたたち『孤児院』には、
この権利を無償で貸し出す」
「独占契約だ。
圧倒的な安さで販売できるのは
あんたたちだけだ」
「売り上げは全部あんたらのもんだ。
孤児院の運営費に充てればいい」
シスターの手が震えている。
「ど、どうして……?
こんないい話を、私たちに?」
「子供たちの笑顔が見たいからさ」
嘘ではない。
(主にミクという子供の笑顔だが)
「条件は一つ。
『孤児院連盟』を通じて
国内すべての孤児院に共有して欲しい」
「どの街に行っても、
孤児院がこの菓子を売れるように。
金型の資金もわたす。いいかな?」
「は、はいっ!
ありがとうございます!
神の使い様だわ!」
シスターが涙を流して感謝する。
子供たちも集まってきて、
たい焼きを頬張りながら
「お兄ちゃんありがとう!」と
キラキラした目で見てくる。
「わぁ、可愛いですねぇ」
ミクが子供の頭を撫でている。
彼女は本当に子供好きだ。
「アツシさん、素敵です!
これで子供たちも
お腹いっぱいになれますね!」
「ああ、そうだな」
俺は満足げに頷いた。
これで「インフラ構築」は完了だ。
俺たちが次の街に着く頃には、
その街の孤児院が
たい焼き屋を開店しているだろう。
俺には水飴の権利収入が入り、
ミクはいつでも焼きたてが食える。
ついでに孤児院も潤う。
完璧な「Win-Win」だ。
「さあ、行くぞミク。
この街の分は、買い占めていいぞ」
「やったー!
おばちゃん、全部ください!」
孤児院に活気が戻る。
甘い匂いが漂い始める。
俺たちは
焼きたてのたい焼きを片手に
孤児院を後にした。
「んん~っ! 最高です!
しっぽまであんこギッシリ!」
ミクが幸せそうに頬張る。
その笑顔を見られただけで、
特許を取った甲斐があったというものだ。
「悪くないなあ」
俺も頭からかじりつく。
「こういう気持ちいい『投資』なら、
何度でも歓迎だな」
俺たちの余った優しさが、
誰かの救いになり、
俺の懐も温める。
それくらいならいいかな。
あくまで、
俺たちの「おやつタイム」が
確保された後の話だけどな。




