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星界の色、ヴァルデマー




ジョハンは、顔見知りのホームレスや掏摸スリに声をかけて回っていた。

気が済むと彼は、路地の奥に停まっていた黒塗りの高級車に転がり込んだ。


四輪蒸気自動車スチーマーは、白い蒸気を噴き上げる。

そしてゆっくりと走り出すと表通りに向かった。


壮麗な大聖堂のような復古様式ゴシックリバイバル高楼ビルが大通りに並ぶ。

しかし美しい街のすぐ裏手には、貧しい人々の暮らしがあった。

それらを横目にジョハンは、宮殿の裏に車を乗り付ける。


彼は、乞食姿のまま宮殿に入るとピカピカの高級スーツに着替えた。

ネクタイの色を選んでいる間に部屋に人が入って来る。


「イングルナム公、女王クイーンがお呼びです。」


女王の侍従たちがジョハンに声をかけた。

ジョハンは、うんざりしたようにかぶりを振る。


「宮殿に着いたばかりだ!

 コーヒーぐらい飲ませてくれんか。」


ジョハンの頼みに侍従は、難しい顔で答える。


「女王は、イングルナム公を止めるように仰せです。

 考え直されませ。」


その一言でジョハンは、真っ赤になった。


「だから私が来たのだ!!」


急いでネクタイを巻き付けながらジョハンは、部屋を出た。

3日前のザ・ニュース・オブ・オルビステラエ―――今現在、最後の朝刊が帝国臣民に報じる。


―――ガイエルシャー州に怪光現るる!

―――光線による大殺戮


「女王陛下!

 早くここから脱出を!!」


ジョハンが喚くと椅子に座った中年女が答える。


「首相。

 寡人わたしが死んでも第一王女(ライザ)がおる。

 帝国の元首である寡人が帝都から逃げ遂せるものか。」


「ちッ。

 御免!!」


顔を歪めたジョハンは、両目から青い稲妻を放った。

雷光は、中年女を激しく痙攣させ、床に倒れさせる。


「女王を運び出せ!」


ジョハンは、それだけ叫んできびすを返した。

大臣、将軍たちが駆け寄って来る。


「しゅ、首相!」

「イングルナム公!」

院長チャンピオン!」


ジョハンは、駆け足で来た道を戻っていく。

彼は、大臣や将軍たちに応えた。


「説得している時間はなかった。

 お前たちは、女王を連れて帝都を離れるのだ。」


次の言葉を一瞬、ジョハンは、躊躇った。

だがこれも自分の役目だ。


「エティエンヌ。」


名前を呼ばれた老人は、目を丸くする。

だが彼も覚悟はできていた。


「…お前は、ここに残り首都機能を堅持せよ。

 脱出の判断は、女王の安全が確保されるまで保留だ。」


「う………は、はい。」


エティエンヌは、酷い顔色でただひとり立ち止まる。

そのまま来た道を戻っていった。


「イングルナム公。

 ……残るのは、私が…。」


やや若い大臣がジョハンに声をかけるが返事はなかった。

ジョハンは、ツカツカと早足で外に向かっている。


「どこまで着いてくる。

 もう行け。」


「首相もご一緒に!」


白髪の陸軍元帥がジョハンの腕を掴む。

だがジョハンは、枯れ木のような腕を奪い返した。


「放せ、オデット!

 亡霊は、ワシ以外に止められぬ!!」


ジョハンは、足を止めずに閣僚たちに言った。


「今、もっとも命の値段が高いのは、宿礼院ホスピタルの理事長だ。

 女王ご自身も認めたように、その時は、王太女が王位を継げばよい。

 首相の代わりも幾らでもおる。


 だがナポレオンだけは、守り切るのだ。

 陸軍、海軍、そして狩人たちよ。

 何があっても奴の命を最優先に!!」


ジョハンがそう声を張り上げると将軍たちは、別れて走り去った。


大臣たちは、青い顔で互いを見つめ合う。

彼らは、まだ未練がましくジョハンの後を着いて来た。

やがて恐れながらと一人の大臣が声をかける。


「………イングルナム公、もしもの時、首相は誰が…?」


そこへ白髪の大男が合流する。

アメジストの瞳に老眼鏡をかけ、舞台衣装のような時代物の貴族服を着ている。


「院長。

 宿礼院の理事長(ペリカン)のことは、もう心配いらない。」


この背の高い老人を見つけるとジョハンは、悪霊でも見たように怒鳴った。


「ジル!

 ワシは、お前に奴から離れるなと命令した!!」


ジョハンは、激怒したが巨漢の老人は、憎らしく笑うだけだ。


「落ち着け、()()

 もしなんてない。

 お前は、獣を狩り、1時間後には、俺と一緒に酒でも飲んでるさ。」


ジルにそう言われたジョハンは、深呼吸する。

彼の顔は、血の気が失せて恐ろしい土色になっていた。


「…気軽にいうな。」


「お前は、負けない。」


ジルは、そう言って小柄な老人を励ました。


「お前こそ、当代随一の魔法使いだろう?

 星界からやってきたスペクトル

 お前に無理ならいったい誰があんな獣を狩れるっていうんだ。」


「だ、だからワシは、困ってるんだろうが!」


ジョハンは、泣きべそを掻いたがジルは、笑うだけだ。




帝都の西の空に怪光が見える。

光は、オーロラのように雲の間を揺蕩たゆたっていた。

あるいは時折、雷のように烈しい閃光を放った。


それは、突如、虹のように分光スペクトルに変化した。

様々な色が発光信号のように入れ替わり、交じり合う。

だがそれは、神秘的というより不快で毒々しいものだった。


「我が名は、世界を治めるもの(ヴァルデマー)

 ふはははははははっ!!」


この言葉は、怪光が届くより広い範囲、遠い場所まで人々に届いた。

それは、ある種のテレパシーのようなものだったらしい。


怪光から幾つもの光の帯がヤーネンドンに伸びる。

光線は、人間を探してビルや道路を照らしていた。


「隠れているな隠れているな隠れているな隠れているな。

 知れるぞ知れるぞ知れるぞ知れるぞ知れるぞ知れるぞ。

 ふははははははははっ!


 ヒトは、ヴァルデマーを見ることも出来ぬ。

 ヒトは、ヴァルデマーを見ることも出来ぬ!

 ヴァルデマーは、星界より来る色である!!」


哄笑しながら怪光は、太陽の隣に移動した。

二つの太陽が帝都の上空に停止する。


帝都に残る人々は、息を潜めて窓から離れた。

だが怪光が光線を()()と帝都のあちこちから煙が上がり始める。

焦げ臭いにおいが都民たちの恐怖を煽った。


「ふふっ。

 しゃべるのか、おまえ?

 …どうやら知能は、高くなさそうだな。」


地上から一条の光が届き、ヴァルデマーがまたたいた。

怪光の輪がザワザワと波打つ。

次の瞬間、怪光は、パッと西の空に移動した。


「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。

 ヴァルデマーに届く光だと!?

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

 そんなはずはない!

 ヒトは、光を放てないハズ―――!!」


西の空で怪光が揺れている。

星界の色、ヴァルデマーは、光が差し込んで来た地点を探した。

そこにさっきの通信相手がいるはずだ。


「ヒトごときがヴァルデマーに届くことなどあるはずがない。

 ヴァルデマーは、星界を渡る色!

 世界を治めるもの(ヴァルデマー)!!」


怪光から再び一斉に光線が放たれる。

無数の光の帯は、帝都の建物を片っ端から焼き始めた。


しかも今度は、凄まじい高温で帝都の景色が歪む。

気温は、どんどん上昇していった。


やがて怪光を囲む光の輪が出現する。

それは、時間と共に数を増やし、三重の輪となった。

この光輪が眩しい閃光を放ち、気温を上昇させていく。


(あれが光輪か。)


ジョハンは、物陰から様子を伺う。


(あれが七重の光輪になった時、街一つが燃え上がったという報告だった。

 …うう、既に十分に暑いがな。)


ジョハンは、両手を天に伸ばす。

指先から放たれた雷光が怪光ヴァルデマーに直撃した。


怪光は、姿を消し、また別の場所に瞬間移動する。

またジョハンの位置を特定して反撃した。

帝都の一角に途轍もない光量が降り注ぎ、真っ白になる。


だが別の方向から雷撃が怪光を撃つ。

すると怪光ヴァルデマーも瞬間移動する。

この繰り返しが始まった。


もうこれは、人知を超えた戦いと言えた。

空に浮かぶ怪光と人間の魔法が撃ち合いを続ける。


ここで先にヴァルデマーが動いた。

怪光は、9つに分身して帝都を全方角から攻撃し始めた。


8つの怪光は、八方向。

残る1つは、帝都の真上から光線を雨のように浴びせかけた。

しかもそれぞれが光輪の数を増やしていく。


二重、三重、四重…。

帝都に残る都民たちは、だる暑さに音を上げ始めた。

空は、金、紫、ピンクと極彩色(ビビットカラー)に変色している。


星界より来る色、ヴァルデマーに目的はない。

ただ人間が自分より弱いから虐め殺しているだけだ。


「ふはははははははは!

 ふはははははははは!!

 ふはははははははは!!!」


ジョハンの反撃も虚しい。

テレパシーで怪光の笑い声が人々の頭の中に響き渡った。

非人間的な声が矮小な存在を嘲笑う。


(いや、奴は、追い詰められている。)


そうジョハンは、確信を強めた。

もし自分の攻撃が奴を追い詰めていないなら分身や攻勢を強める必要はない。


ジョハンは、怪光の猛攻撃から身を隠しながら逃げる。

そして帝都のあちこちに仕掛けた魔法触媒を利用し、大魔法を発動させた。

古代人が戦場で敵軍を壊滅させるような大仕掛けだ。


9つの巨大な雷が怪光を撃ちぬいた。

空が七色に不気味に様変わりし、太陽も掻き消す閃光が包んだ。

雷鳴の衝撃だけで帝都中の食器棚から食器が飛び出し、あらゆるものが傾き、倒れ、砕けて、すべての場所に転がった。


直後、怪光ヴァルデマーは、宇宙に向けて逃げ出した。




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