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キルケゴール家の亡霊




「最初の異変は、やはりここです。」


灰青色グレイッシュブルーの軍服を着た女兵士が上官らしい人物に話しかける。

声をかけられた上官は、井戸を覗き込んでいた。

ガイエル伯爵のシャトーの伯爵が飛び込んだ井戸だ。


彼女たちは、軍人でない。

獣狩りの狩人、騎士団の四大支部の一角、蒼天院セルリアン

軍人や警官、学者などの専門家プロフェッショナル集団である。


「………ここから光が溢れた。」


華麗な金髪ブロンドの女が井戸から顔をあげて、そういった。

美しい肢体、艶やかなヒップラインと胸の膨らみが際立つ存在感を放っていた。

男たちの目が忙しい。


肩の線、星の数は、彼女が少佐の階級にあることを意味する。

狩り装束も他の狩人よりやや鮮やか(ビビット)な青色をしていた。


「警視庁の資料では、ここに伯爵が落ちる前、例の装置の実験をやっていたらしいです。

 ……どうして一般人が宇宙人と交信する装置の基礎理論や部品を調達できたのか。

 何の目的でこんな実験をしていたのかは、皆目、見当が着きませんが。」


「馬鹿がどうして馬鹿なことをするかなんて考えなくて良いよ。」


少佐は、そういって背を伸ばした。

身体が弓なりに反り返って黄金の髪が肩から零れる。


「……装置は?」


少佐は、部下に質問した。

その返答は、風変わりであった。


「我々の理解を越えています。」


だが少佐は、それで納得したらしい。

彼女は、小さく頷いた。


「捜査を続けろ。」


了解コピー。」


部下は、短く答えてきびすを返した。

彼女の背中に少佐が付け加える。


「エルヴィーサ。」


「はい、少佐?」


「嫌な予感がする。」


はいイエス女史デイム。」


部下のエルヴィーサが伯爵の屋敷に向かっていく。

少佐は、城を囲む緑の森と田園風景を厳しい目で睨んだ。


(馬鹿馬鹿しい!)


彼女は、苛立ちを堪え切れず軍靴で石畳を蹴る。

城の周りを調べる蒼天院の狩人たちは、ちらりと少佐の方を見た。


(こんな城を調べても獣狩りとは、何の関係もない!

 我々は、完全に蚊帳の外に出されたんだ。)




伯爵の城の中では、蒼天院の狩人たちが調査を続けていた。

彼らは、もともと人探し屋(マンハンター)や私立探偵、警官だ。


「…キルケゴール家は、かなり昔に血が絶えた。

 少なくとも40年代には、養子で血統鑑定を誤魔化ロンダリングしている。

 それ以降は、ずっと養子だ。」


「なんだそれ。

 伯爵は、自分が養子だと気に病んでいたようだが…。

 育ての両親も養子だったってことか。」


隠された記録を手に二人の狩人が話している。


巧妙に細工された家具の奥に暗号化された帳簿があった。

人を買うぐらい大きな金額を記録しない訳にはいかない。

まして家族と偽れるぐらい似ている必要がある。


「死体は、死体を呼ぶ。

 子供探し、子供選び…。

 人が関わる度に、その関係者を闇に葬って来た。」


「3代前の伯爵、森林大臣だったヴァルデマーは、養子を探して来た探偵と子供の実の両親を国営林に埋めて隠した。

 ……ヴァルデマーは、その後も生きてるな。」


「なんだと。」


シャトーの隅にあるガイエル伯爵キルケゴール家、一族の墓地。

当然、苔生したヴァルデマーの墓がある。

墓標には、2/4 29399 - 28/8 29482年とある。


「彼は、表向きには、482年に死んでいるが吸血鬼ドラキュラとして生きている。

 ………吸血鬼としては、2年前に死んでいる。」


「つまりごく最近までは、屋敷の奥でヴァルデマーが一家を支配していた。

 生前の権力や人脈を利用して養子を取り続けていた訳だ。」


そして吸血鬼だったヴァルデマーが完全に滅んだ。

養子を手に入れる伝手も、また家名を残そうという意志もなくなった。

こうしてキルケゴール家は、絶えることが決まったのだろう。




別の部屋では、他の調査が進んでいた。

狩人は、常人にない感覚や気配を掴む能力がある。

警官たちが見逃した微かな何かも蒼天院の狩人たちは、辿れるのだ。


「何か特殊な魔術を使った痕跡を見つけた。」


ひとりの狩人は、部屋の隅でそういった。

事件の日に実験が行われた部屋だ。


「魔術か。

 厄介だな、我々の専門外だ。」


「そうだな。

 …しかし伯爵が何かしらの暗示や催眠術を掛けられた可能性を示唆する…。」


調査に当たる二人は、同じ言葉が頭に浮かんだ。

―――糞虫の巣(スカラベズ・デン)


正式名称は、黄金虫葬祭神殿の卑しい盗賊と娼婦の騎士団。

狩人の騎士団の中でも魔術の研究に長けた組織だ。


青金石ラピスラズリで建造された七つの金字塔ピラミッドが並ぶザトラン。

彼の地に立つ遺跡は、神々の墓であるという。

糞虫は、数々の遺跡から神秘の知識を学んだと聞く。


「やつら、何か企んでるに違いない!」


悔しそうに一人の狩人は、指を鳴らした。

相棒も憤懣やるかたない。


「結局、いつもこうだ!

 黒幕には手が届かない!!」




城の外で蒼天院の狩人は、興味深いものを発見した。

あまり気分が良くなるものではない。


「うっ………警官たちは、何やってる。

 これが見つけられなかったのか?」


「いや、あるいは、()()()()かだ。」


それは、無惨に引き裂かれた死体だ。

4人分だろうか。


「近づいて平気か?」


「さあな。

 怖いならお前は、こっちに来なくていいよ。」


女の狩人が一人で死体に近づく。

男の狩人は、一歩も近づかなかった。


「…亡霊スペクターの最初の被害者だぜ。」


腰を下ろして女は、殺された人たちの死体を調べる。

大量の出血は、彼らが生きたまま引き裂かれたことを意味した。


場所は、伯爵の城の裏手の雑木林。

人気が無いところだが彼らは、なぜここにやって来たのか。


「伯爵のメイドと召使らしいが、なんでこんなところに来た?

 庭の手入れに来るような恰好でもなさそうだ。」


「…主人に隠れて逢引ってこともあるんじゃなか?」


「4人パーティか。」


やがて女が立ち上がる。

意外に短い時間だった。


「違うな。

 こいつらは、亡霊にやられた感じじゃない。

 方法が違う。」


「その心は?」


「目撃者の始末だ。

 方法は分からないがここに連れ込んで殺した。」


歩きながら女は、自分の推論を話し続けた。


「伯爵は、事件当時、何人か客と会っている。

 その中に今回の事件の黒幕がいる。

 そいつは、顔を見られた使用人たちを始末する必要があった。」


「……腑に落ちない。」


話しを聞いていた男が言った。


「もしあそこで死んでる4人を殺したのが事件の黒幕なら、なぜ殺す必要がある?」


「……ん!」


それを聞いて驚いた女は、目を丸くした。

男は、一緒に歩きながら話し続けた。


「亡霊は、ガイエルシャー州から帝都ヤーネンドンまでの間で300万人を殺した。

 この街だって、もう()()、死んでる。

 口封じなんかする必要もない。」


「確かに……妙だ。

 でも、じゃあ、何の目的だ?」


女は、眉間に皺を作る。

男も首を傾げるだけだ。




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