七祓目 双子
昼休みは終わり、本日の最後の授業。
5組の安心感よ。
話してくれる女子は多いし…何より渚さんがいる!
※すでに変態教師になりつつあるかも。
というのは冗談で、普通に今日最後だから嬉しいだけです。
渚がいつものようにニコニコしながら「先生〜!」と手を振ってきた。
「……うん。うん。いい子だな本当に……」
癒しの天使に救われつつ、学級委員二宮暁くんが
「気をつけ、お願いします」
と、きびきびした声で号令をかける。
よし、みんな静かにしてくれたし──
と思った瞬間。
佑月くんの席に、“嵐山佑月”が座っていた。
ニッコニコである。
もう太陽光のようにニコニコしている。
(…………いやいやいやいやえ?まさか…楓月くんが佑月くんになりすましてる?
佑月くんが登校してきたわけじゃないよね!?)
だが、すぐに“ピン”とくる。
──昼休み、寺沢先生と話したこと。
あの時、佑月くんと楓月くんの違いについて教わったのだ。
一卵性なだけあって顔の作りはもうほぼ一緒だが、俯きがちな方が佑月くん。
無邪気で何処か掴めない方が楓月くんだと。説明が下手ですみません。
そしてぇ!!いま目の前にいるのが、あの無邪気で人懐っこく、
“決して悪い子ではないが、どこか空気の層がズレているような”雰囲気があることから
楓月くんの方だと証明した!!!
(……いや無理無理無理、落ち着け俺。落ち着かないけど落ち着け)
そして染崎は決断した。
少しだけ……カマをかけてみることにした。
教師一年生、心はチキン。
しかし追い詰められると逆に変な勇気が出るタイプである。
染崎はぎこちない笑顔を作り、ゆっくりと佑月……らしき彼に話しかけた。
「……あ、嵐山くん。今日……その……午前いなかったよね?
お休みだって聞いてたんだけど。」
ここで楓月くんがボロを出せば、自分は教師としてのキャリアが上がるのではとなんとも醜い下心…
なんて思っていませんよ。本当に。。。たぶん。
すると、真ん中の席に座っていた学級委員の二宮くんが手を挙げて言った。
「先生、佑月くんは お昼から登校してきたんです。
寺沢先生にも連絡したらしいですよ」
それは、まるで“庇う”ような、守るような、そんな言い方だった。
そして席の佑月(?)が、
「そーだよ、せんせー!」
と満開の笑顔で言う。
——ああ、これ以上は触れない方がいい。
なんか、自分がア◯パンマンでいうバ◯キンマンみたいな悪役になりつつあることを察した。
染崎は引きつった笑みを浮かべ、
「……そ、そうなんだね。うん。じゃあ、授業、始めよっか」
とだけ言って黒板に向かった。
授業が終わり、黒板を消し終えた染崎は、ホームルームを始めようと振り返る。
その瞬間。
「……あの、先生」
控えめだがはっきりした声が背後から届く。
振り向くと、学級委員の二宮くんが立っていた。
出会ってまだ二日だが、すでに“この子は絶対に真面目タイプ”という風格が仕上がっている。
(お、おお……初質問か? ついに来た?)
内心ドキドキしながら身構えると、
二宮くんは深く頭を下げた。
「さっきは……すみません。
楓月を庇うようなこと、しちゃって」
「……え?」
楓月。
佑月じゃなくて、楓月。
(……あ、やっぱり、佑月くんじゃなかったんだ)
思わず二度見する。
「二宮くん……知ってたの?」
「はい。僕、楓月とよく喋るんです。
その……たまに、弟くんのために“出席日数”をごまかしてあげてるんです」
「……………え」
染崎の頭の中が、一瞬停止した。
(あ、ああ……優しい……いいお兄さん……
……いや待て、普通にアウトじゃね??)
心の中の教育者としての本能が、静かにツッコミを入れる。
しかし二宮くんは至って真剣で、悪気もゼロ。
「弟の佑月くん、ちょっと体が弱いから……
僕が代わりに行くって前に楓月が言ってて…」
(え、双子って便利システムだったりする?)
染崎の常識がひとつずつ崩れていく。
「……そ、そっか。色々……あるんだね……」
精一杯の言葉を絞り出す。
二宮くんは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「迷惑、かかってたらごめんなさい。
でも、あの兄弟……本当に仲が良いんです」
「ねえ、なんの話してるのー?」
いつのまにか二宮くんの背後に楓月くんがいた。
そして、巻き付くように二宮くんの方にピッタリ抱きつき、公共の福祉などガン無視な様子。
「か…佑月。重いんだけど」
「いーじゃん。僕、サトルのこと大好きだから」
悪びれもない。
(この二人どういう関係…?)
すると、巻きついている楓月くんがこちらをじっと見つめてくる。
にこっ、と。
相変わらず無邪気な笑顔。
吸い込まれそうな目だ。
佑月くんを見つめた時と同じく。
やはり…嵐山くんは双子なんだ…
だけど、その笑顔がどこか作り物めいて見える。
「せんせー」
「……は、はい……?」
心臓がひくっと跳ねる。
さっきまでの授業の疲れが一気に吹き飛ぶほどの緊張。
楓月は、するりと二宮の背に隠れるようにしながら顔だけ出して、こう言った。
「放課後、桜の木下に来てよ」
「……え?」
意味が飲み込めない。
まるでそれが“当然の約束”でもあるかのように、軽い口調。
「うん。来てね?絶対、だよ?」
にこ。
その言葉だけ置いて、
くるっ、と踵を返し――
何の迷いもなく教室を出ていく。
「さ、桜の木って…この学校に何本あると思ってんだろ…あの子」
具体的な場所も知らされず、染崎は放課後を待ったのだった。
*
時刻は17時を回っていた。
紙を捲る音、ペンを走らせる音が響く。
周りには仕事を続ける先生たちが大勢いたが、染崎は仕事を後回し。
でも…正直面倒である。もうすっぽかしちゃおうかしら。
今から大福を愛でる会に行かなきゃだし…
※染崎が妄想で作り出した会。休む口実の際に使う。
でも、嵐山兄弟を知る大きな手掛かりになるかもと思うと、行くしか手はなかった。
職員室をでて、靴を履き替える。
関係ない話だけど、この学校の桜の木には昔から奇妙な噂がいくつかある。
有名なものだと…
________昔、この成宮も戦争で空襲を受けた。
東京大空襲のように大規模な被害は出なかったらしいが、それなりに犠牲者が出てしまった。
主にプロペラ機のつばさなどを製造する軍需工場などが密集していたので、空襲の標的になったと祖父から聞いたことがある。
その時の兵隊さんや、空襲で亡くなった人が成宮全域に埋まっている。という。
当時墓も作る暇がなかったからね。
桜の木下の噂もそうやって形成されたのだと思う。
そのほかにも、首塚の話、地獄へつながる井戸が眠っている話、、、
どれも信憑性がないけど、、、昔の自分は全部鵜呑みにして、、そのせいで桜の木の前でひれ伏して首を垂れて、祈ってたらいつのまにか変人になってて、友達は0人でした。
「あ、せんせー。来たんだ。」
背後から声かけられてももう驚きませんよ。
一瞬心肺停止したけど。
ゆっくり振り返ると、楓月くんが立っていた。
制服の袖を少し掴んで、首をかしげるような仕草。
「もー。探してあげるねって言ったのに。迷子さんなんだから〜」
(……言ってないよな?)
だけど自然すぎて、言われたような気さえしてくる。
楓月は染崎の手首を軽く掴み、引っ張りながら歩きはじめた。
「はい、こっちこっち」
無邪気な声だけど、歩くスピードは速い。
迷いがなく、“どこへ向かっているか”を完全に知っている足取りだった。
やがて――
校庭の端。
古くて、太くて、他の木よりひときわ存在感のある桜。
その根元に立ち止まり、楓月はぱっと手を離した。
「はい、到着〜」
染崎の胸がどくん、と強く脈打つ。
空気が冷たい。
風は吹いていないのに、枝だけがカサァ……と揺れた。
この学校でもとりわけ大きな桜の木。
開校当時の明治15年植えられた。戦争でも焼けずにずっとここに佇んでいる。
「ねぇ、先生。僕に何か聞きたいことあるんでしょ?」
あちらから呼び出したくせにまるでこれが狙いだったかのようにニヤリと笑う。
「…楓月くん。君は…何者?」
「あと、朝に真っ赤な空の下にいたのは楓月くん?」
「それと、佑月くんや楓月くんを見つめた時に起こる虚無感…あれって」
思わず早口になってしまった。
聞きたいことが多すぎる。
楓月くんは数秒黙ったあとゆっくり口を開いた。
「せんせーは、知っていますか?」
驚くほど静かな声。それでもって無邪気な響きが奥にある。
まるでこの瞬間を楽しんでいるようだ。
「僕…」
ごくりと喉が鳴る。
「双子、なんですよ☆」
……
「はぁ…?」
拍子抜けだ。
あんなに焦らしておいて何をいうかと思えば。
数秒の静寂。
楓月くんは決めポーズとウインクしたまま動かない。
染崎もまた、間抜けな顔のままだ。
「し、知ってる…けど」
「えー!とっておきの秘密だったのにー!」
わざとらしく口に手を当てて、驚くふりをする。
なんだか楓月くんと話していると調子が狂う。
「いや、顔似てるし…」
「うーん。でも意外とオレらが双子ってこと、みんな知らないんだけど」
「それは…またどういう」
すると、楓月くんは桜の幹に体をもたれさせる。
そのまま空を見上げ、遠くを見つめるような、目をした。
「弟…佑月は生まれつき肺が弱いんだって。」
寺沢先生が言っていたのはこのことかなと懸命に耳をかたむける。
「肺というか。それを動かす、、横隔膜?も弱くて。
とりあえず、全身の筋肉が弱いらしいー」
桜の幹の皮をぺりぺり剥がしながら時々にぱっと笑う。
「それは…心配だね」
本当に心配して言ったつもりだった。
しかし、楓月くんは皮を剥く手を止めて、こちらを向く。
「ううん。べっつにー」
意外な返答に思わず目を丸くしてしまった。
今までの話、行動を聞くに楓月くんは佑月くんをとても大事に思っていると思ったのだが…
「佑月は…」
「オレの分身的な存在って、思ってるから♪」




