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六祓目 ドッペルゲンガーを見ると死んじゃうらしい

始業前、1時間目が始まるまでの十五分。

今日から実は授業が始まるのだ。早くない?緊張と焦りでリバースしそうなんだけど、なんかそろそろこのくだりをやめないとループになっちゃう気がして…。頑張ってリバースしないようにします。


先ほど聞いた話だが、寺沢先生は美術の先生らしく、今日は授業がないらしい。

羨ましい限りである。

国語なんて毎日のようにあるからもう、忙しい。今からでも副教科の教師に転生しようかな。

…と市ノ瀬先生がほざいていたら、寺沢先生にしばきますよと脅されているのを見て、一人で震えた。


教室にはすでに生徒たちが座り、空気はどこかゆるく騒がしい。


今日から5時間授業。


朝の光が斜めに入り込む中、染崎はぼんやりと、先ほどの“赤い世界”を思い出していた。


(あれ……夢ってことにしていいよね?

 いや……でも……)


嵐山くんの席は、まだ空のままだった。

そこだけ穴が開いたように、視界の中で浮き上がって見える。


そんなときだった。


「せんせーっ!」


可愛らしい声が、背後から跳ねるように届いた。


染崎が振り向くと、そこには

――七瀬渚が立っていた。


真ん中ぐらいでしばったポニーテールがふわりと揺れて、ぱちぱちとした大きな瞳で笑っている。

初日、自己紹介で死ぬほど噛んだ染崎を、あの一言で救ってくれた女の子。


「お、おはよう七瀬さん」


無意識に少しだけ緊張が和らいだ。

染崎は女の子と話したことがあまりないので、内心かなり嬉しかったらしく…


渚はニコニコしながら明るく近づいてくる。


「先生、今日もよろしくお願いしますっ。

 あのね、ちょっと聞きたいことがあって!」


目がきらきらしている。

いつも通りの、無邪気で、普通の生徒の空気。


「な、なにかな?」


「昨日の自己紹介の続き、聞きたくて!」


「えっ」


「だって先生~、あれ気になるでしょ?

 “昔好きだった子が教師と結婚したいって言ったから”って……それってどんな子だったんですか?」


周囲の女子が三名ぐらい集まってくる。

昨日と同じ構図だ。


染崎は一瞬で悟った。


(今日もこの流れ……!?)


頭のどこかが真っ白になる。


でも――先ほどの嵐山くんの言葉が、ふっと脳裏に浮かぶ。


“ジコで来ちゃったひとは、何もせずに還してあげるのがきまりなの”


現実感が、少しずつ削られていくような感覚。


そんな中でも、渚は無邪気に言う。


「先生の“初恋の人”って、どんな子なんですか?」


――その質問が、なぜか胸をざわつかせた。


現実と夢の境界線が曖昧になったような、そんな感覚を連れて。


その時…


「こらー、女子たち。そめちゃんが困ってるでしょ。

 はいはい、解散解散~。先生を解放しなさいって」


ゆるい調子なのに、不思議とよく通る声。

市ノ瀬先生だった。


現れた瞬間、風景が少し変わった気がした。

髪を無造作にかき上げ、イケメンスマイルを決める。


女子たちは一瞬ぽかんとし、次の瞬間――


「きゃーーっ市ノ瀬先生~!!」

「心臓に悪いってば!」

「朝からイケメン補給できた!」


…女子たちは小さい声で口々に言い…

まるで花粉が風に舞うように、女子たちは一斉に散っていった。


(すげぇ……。

 あの女子生徒の嵐を一声で鎮めるなんて……

 もしかしてこの人、天候操作の能力とか持ってる?)


完全に圧倒された気分で、市ノ瀬先生を見る。


「そめちゃん、大丈夫? 女子にモテる男はつらいねぇ」


「……いや、モテては……いないと思いますけど……」


「謙遜すんなって。初日から質問攻めってもう人気者の証拠だから」


とんでもない勘違いをされている気がする。

でも、救ってくれたことには変わりない。


「ありがとうございます、市ノ瀬先生……」


「いいってこと。じゃ、ほら、深呼吸深呼吸。

 これから授業なんだから、そんな顔してたら生徒に心配されるよ?」


冗談めかした声が優しく響く。


染崎は、ようやく胸の奥が少し軽くなるのを感じた。

昨日の不可解な出来事の影が、かすかに薄れていくような――



「じゃ、そめちゃん。そろそろ授業の組に行きな~。6組だっけ?」


「は、はい…あ、やばい…吐き気が…。あと3分35秒56で授業が始める…」


「…かんばれがんばれー」(スルー)


軽く頭を下げて、染崎は6組の教室へ向かう。


何気に初の別のクラスである。

5組の子達とは打ち解けられたような気がするが(わからない)

やっぱり最初というのは何事も怖い。


――あと数歩で教室の扉、というところで。


「――せんせー?」


背中をつつくような、聞き慣れた声。


ぞわっ、と背筋が逆立つ。


(え……?)


ゆっくり振り返る。


まるで普通の朝みたいな顔で、

そこには――嵐山くんが立っていた。


昨日と同じ制服。

昨日と同じ表情。

昨日と同じ声。

けれど、今ここに“いるはずがない”少年。


「……あ、あれ? あ、嵐山くん……?

 今日……休みって、寺沢先生が――」


「うん。休みだよ」


佑月はケロッとした顔で笑った。


「…は?」


いや、目の前にいるではないか。


「え、えっと、あ、嵐山くんだよね?え?違う?」


「…誰でもよくない?」


いやよくない。


心臓が跳ねる。

手にじんわり汗がにじむ。


嵐山くんはそんな染崎の動揺なんて気づかないふうに、

むしろ 無邪気に嬉しそうに 染崎の手を掴んだ。


「ねぇ、早く入ろ?

 せんせーがいないと始まらないんだから~」


「え、ちょ、ちょっと……!」


引っ張る力は子どもにしては強すぎて、抵抗する暇もない。


そのまま教室へ。


ガラッ。


中に入ると、6組の子たちが一斉にこちらを向いた。


「おはよーございまーす! 先生、遅いよ!」

「わぁ!本当に若い!」


わいわいと声が飛ぶ。

教室はにぎやかで、あたたかくて、普通の朝。


……なのに。


嵐山くんは、“何事もなかった顔”で自分の席に座った。


椅子を引く音。

腰を下ろす音。

ペンをくるくる回す仕草。


すべてが自然。

まるで――最初から、ずっとそこにいたかのように。


染崎は、喉の奥がひゅっと狭まるのを感じた。


(……いや、ついさっきまで……いなかった……よな……?)


嵐山くんは、隣の席の子と軽く話し始めている。

どこからどう見ても、普通の生徒だ。


だけど――

寺沢先生が明言した“欠席”の事実が、頭にまとわりついて離れない。


(……なんなんだよ……というかここ6組なのになんで嵐山くんいるの……)


胸の奥に、じわじわとした不安が広がる。


そんな染崎の視線に気づいたように、嵐山くんはちらりと振り返り――


にこっ。


昨日の“赤い世界”と同じ笑顔で。


ほんの一瞬だけ。


目が、笑っていなかった。



 4時間目まで、なんとか事故を起こさず授業を乗り切った。


(……はぁ……生きてる……)


 教室を出た瞬間、膝が折れそうになる。

 だが今はそんな余裕もない。頭の半分は授業の疲れ、もう半分は――


(嵐山くん……結局なんだったんだあれ……)


 問いが渦巻いたまま、お昼休み。


 染崎は斜面になった芝生に腰を下ろした。

 春の風が気持ちよく、広々としたグラウンドを見渡せる。


 静かだ。

 誰も来ない。

 ぼっちがよく似合う場所。


「……うん。こういうの……落ち着く……」


 弁当の箸を動かしながら、染崎はぼんやり空を見ていた。


 ――そのとき。


「染崎先生」


「ひっ!?」


 突然上から影が差し、反射的に弁当箱を抱きしめる。


 見上げると、寺沢が腕を組んで覗き込んでいた。


 無表情。

 風に揺れる黒髪。

 目が、完全に見つけたぞという目。


「……な、なんでここに……」


「探せば分かります。あなた、まだ出会って2日目ですけど隠れる場所が分かりやすいんですよ」


 ずい、となんの断りもなく芝生に腰を下ろす寺沢。

 ただし、1メートル距離を空けて。


「で?」

「……はい?」


「様子、どうですか?」


 柔らかく聞いているようで、質問そのものは逃げ場がない。

 染崎は弁当をつつきながら、ぎこちなく答えた。


「は、はい……みんな……良い子で……手をあげてくれて……はい……」


「語尾の“はい”が多すぎて逆に心配です」


「す、すみません……いやでも本当に良い子で……は、はい……」


 誤魔化すように笑うが、言葉が妙にぎくしゃくしてしまう。


 それもこれも――

 あの少年の姿が、どうしても頭から離れないからだ。


「…そうですか。なら、よかった。」

と寺沢もお弁当を食べはじめた。


あ、タコさんウインナーかわいい。

意外と可愛いなこの人。


そう言えば寺沢先生はこの学校に4年いるらしいし…

あの赤い空についても何かしているのかな…と頭の中は完全に赤い空の怪奇現象でいっぱいだった。


「あ、あの、寺沢先生ってこの学校の怪談とか知ってたり…」


「お好きなんですか?」


「い、いや…まさか」


「まぁ、その見た目でそれはないか」


今、すっごく失礼なこと言われた気がする。


「そうですね…例えば、旧校舎の幽霊とか」


「ゆっっっっっっゆうれいっっっっっ!?」


「…あれ、まさか幽霊とか信じるタイプですか?」


「い、いやっそういうわけじゃ…ーだって!怖いじゃないですか!?」


いつのまにか、二人は仲良く一緒にご飯を食べている図になっているということも気が付かずに、

距離も少し近くなっている。完全な無意識である。


「あ、あと、それと。嵐山くんについてですけど」


「ああ、佑月くんですか?」


「はい、その…嵐山くんのこと教えてほしくて」


素直に聞いたら、普通に色々教えてくれた。

小学生の時の中学校説明会で一度話したことがあるらしい。

どうやら病弱な子で、学校に来れない日の方が多いらしい。内気で、物静かな子だという。


なんか、イメージと違った。


「でも、悪いことだけじゃないんですよ。あのこ、お兄さんと仲がいいんです」


「え、お兄さん…?」


ピタッと卵焼きを食べようとする箸を止める。


「あれ、言ってませんでしたっけ。嵐山くん…」




「双子、ですよ」



寝耳に水とはまさにこのことだ。

そんなこと知りませんでした。なんで知っていると思ったんでしょう。


「6組に楓月(かづき)くんって子がいますね。…というか、6組言ったのに知らなかったんですか?」


ジトーっと見てくる。

知りませんでしたと潔く言いたいが、チキンなので言えません。

ほんと、アホチキンですみません。


じゃあ、さっきの子は楓月くんということだ。

じゃあ、赤い空の下であったのも楓月くん…


嵐山兄弟への、疑問は深まるばかりだった。



 

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