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十三祓目 神出

埃っぽい匂いで、染崎は目を覚ました。


視界に映るのは、薄暗い旧校舎の天井。

床は古びた木がささくれ、背中にめちゃくちゃ痛い。


「……戻ってきた……?現世……?」


薄く開いた窓から、夕陽が差し込んでいた。

さっきまで確かに綺麗な緑色の空気(?)を吸っていたはずなのに、

今は湿気っぽい埃の味しかしない。


よろりとしながら、身体を起こそうとした瞬間――


ガタンッッ!!!


すぐ近くの棚が倒れ、積もっていた資料が一気に滑り落ちる。

砂埃が舞い、空気が白く煙る。


「ひぃぃぃっ!!?」


情けない叫びを上げたその時、ドアが勢いよく開いた。


「……何の音ですか?」

ほなみ先生が半分だけ顔を覗かせていた。


染崎は床に転がったまま、ポーズが非常にまずい。

膝を抱えた状態で、埃まみれ、涙目、鼻水も出てる。

人としてけっこう終わってる格好。


寺沢はその姿を見て、一瞬だけ固まった。

3秒ほど無言。


そして――


「…入る場所間違えました」


ガチャ。

静かにドアを閉め、

そのまま鍵まで「カチャッ」と丁寧に掛け直した。


「え、ちょ、まっ――!!??」


染崎は本気で泣き声になった。


「ご、ごめんなさいぃぃほなみ先生!!違うんですこれはっ……!!!」


しかし返事はない。

ドアの向こうで気まずい沈黙だけが続いた。


染崎はうずくまり、

頭を抱えながら、

全身から諦めた気配を出すしかなかった。


さっき鍵をかけられたドアを数秒見つめ……

もう何も考えられなくなって、ずるっと埃だらけの床に倒れ込んだ。


目の前を、夕焼けがかすめる。


窓の隙間から吹き込む風が、埃をチラチラと飛ばす。

部屋は静かで、気味が悪いほどに誰もいない。


(……なんで、こんな変なことばっかり……)


ぼんやりと天井の板を見つめながら、

現実味のない感覚だけが残っていた。


ゆっくり身体を起こそうと、手をついた、その時。


―――その瞬間。


背中のすぐ後ろから。


____……おまえ。


染崎の全身がビクッと跳ねた。


声は、男とも女ともつかない。

若いような、年老いているような。

距離は……本当にすぐ耳の後ろ。


_____……見えてるだろ。


ゾワリ、と首筋の産毛が全部逆立った。


(……だれ……っっっ?)


呼吸が、音になる。


振り返れない。

背後に“誰かが座っている”のが、わかる。

空気が沈んで、重い。


なのに寒気だけがひやりと背中を舐める。


今度は、左耳のすぐ近く。


____無視か?


吸い込まれるような囁きだった。


染崎は凍りつき、動けなくなった。

汗が背中をつっと落ちる。


「ひっっっっっっっっっっっっっ」


____まて。叫ぶな。



ひやり、と。

“何か” が口元に触れた。


透明な……

それでも、確かに“手の形”をしたもの。


人の体温じゃない。

冷たすぎて、皮膚に刺さる。


染崎

(――ひっ……!)


喉の奥で悲鳴が爆ぜる。


でも、声は出ない。

口が塞がれている。


背後で、衣擦れの音がした。


古い。

時代劇みたいな布の擦れる、かすれた音。


足音はないのに、“立ち上がる気配” だけが背中に迫る。


次の瞬間。


———叫ぶなと言っただろ。


耳元で、低く、はっきりとした声。


染崎の目が勝手に、恐怖で涙をにじませながら――

ゆっくりと、ゆっくりと、その“何か” の方へ向いた。


そして――見えた。


半透明の人影。


輪郭は揺れて、ところどころ透けて、

部屋の埃を透かして見せている。


近づいて初めて気づく。


そいつは―― 狩衣 を着ていた。


平安の装束に似た、薄くて長い袖。

髪は高めに結ってある。時代劇から飛び出してきたような風貌だ。

色は……霞んで見えない。おそらく暖色系の色だ。


そして。


後腰には、刀らしきものが差さっている。


抜いてはいない。

ただ、そこに“ある”だけなのに。


その存在自体が、空間を歪ませるほどに異様だった。


半透明の顔が、染崎をじっと見下ろす。


形はあるのに、目だけが……

不気味に光っている。底が見えない。


“それ” は、表情ひとつ変えずに言う。


————……おまえ。

 本当に、見えているんだな。


染崎の口元に触れていた透明な手が、ゆっくり離れた。


でも足は、動かない。


喉は、声を出せない。


部屋の埃が、ひゅう…と舞い上がる。


夕焼けが、その半透明の影の縁を、赤く染めた。

鼓膜が痺れるほどの静寂。


染崎の心臓だけが、痛いほどに跳ね続けていた。


「あ…あ…の…あなたは…?」


自分からそんな言葉が出たのが驚きであるが。

そいつは、数秒間黙って、長考の末に


____名前はない。好きに呼べ。


と1番困るタイプの答えを出してきた。


なんか普通に会話する流れになってしまった。

本音を言うと今すぐにお得意の窓割りで逃げ出したい。


でも…初対面の相手にそんなこと失礼だよね。と謎に冷静を発動。

(やっぱりガチの窮地になると冷静になるタイプ)


「じゃ、じゃあ…たいようくんで」


_____却下。


「う、うーんと…トロピカルサm」


_____却下。


「真っ赤k」


_____却下。


「…贅沢」


_____お前のネーミングセンスが酷いだけだ。


まじで帰りたい。

自分のネーミングセンスをしれっとディスられて、少し腹が立った。

まぁ、実際ネーミングセンス酷いのは昔からなんだけど…


小学生の時に買っていた金魚の名前、コンスタンティヌスだったもん。なんでコンスタンティヌスにしたか忘れたけどね。


ふと、外の異様に赤い夕焼け空を見つめる。

そして、そばに立つ桜の木。。。


突然、小学校5年生頃に習った、孟浩然の「春暁」を思い出した。(数学教師だが)

春眠暁を覚えず…


暁…

アカツキ…


「…アカツキ。なんてどう…ですか?」


半透明なそれは、数秒沈黙した後、すぅ…と音を立てて、

透明感が薄れていった。まるで、水に水彩絵の具を垂らしたように。はっきりと像を結んだ。


「…まぁ、いい名前じゃないか?さっきのと比べれば」


「あ、あれっ…あ…??な,なんで、透明じゃなくなってる……。

 まさか、自分…変な封印解いちゃった!?」


いま目の前で起こったことが現実のことだと信じられなくて

頰をつねってみるが、痛い。普通に痛い。


するとアカツキはまるで滑稽滑稽とでもいっているようにクスクス笑い始めた。


「名前がないというのは即ちこの世に実体がないということ。

 いま、名前をつけられたことでこの世に実体ができたんだ。」


身振り手振りもせずに淡々と説明されるが、

染崎、いまいちピンとこない。


当の本人は怪訝な顔をして物分かり悪いみたいな顔をしてくる。


「あ、あの…よくわからないんですけど…」


「そうか。馬鹿め」


酷い。普通に。

これはほなみ先生よりも毒ではないかと脳内裁判が始まる。

しかも相手は見た目が中学生だ。

年下に罵倒されるというのは以外と心に傷がつくものなのだと改めて思う。


そういえば、さっきアカツキが見えてるだろとか言ってたけど。

あれはなんだろうか。

それとなーく聞いてみる。

アカツキは、思い出したようにこちらを見上げてくる。


「あー、お馬鹿さん。記憶の断片のことだよ」


「記憶の断片…?てか、お馬鹿さんじゃないですし…。染崎って名前が」


「記憶の断片ってのは…

 まぁいいや。説明めんどくさい。

 簡潔に言うと、お前は珍しい体質だってこと。(無視)」


「えー…まさか…悪徳商法?

 ひっかかりませんよ。お客さん。それは大学生の時学んだんで。」


何を得意げになっているかわからないが、

何となく言われているばっかりじゃみっともないと思って、ここは人生経験が豊富(嘘)な

お兄さんが世の中の渡り方を教えてあげようと得意げに武勇伝を語ろうとしたのに、



「──お前、悪霊ついてるぞ」


「うぃっぇぇっぇぇっぇっぇっぇえ!?!?!?どこ!!?」


「くははははっっっ…!染崎、お前よく騙されやすいって言われるだろ」


相手は綺麗にかわしやがった。

交わすなよクソが(キャラ崩壊中)


なんか普通に夢中になって会話してしまったが、そういえば自分、生徒たちのなくなったものを探しに来たんだった。1番忘れてはいけないことを忘れていた。これはうっかり。

そしてほなみ先生に鍵をかけられていて、ここの空間から出ることもできないと言うことも。


「普通に割れて窓から出れば?」


「いや…危ないでしょ…」


「臆病者」


「…なんか言いました?」


「臆病者って言った。」


クソガキ…

と言うか、ガキなのだろうか?見た目は12歳ぐらいの子供だが。

なんか、まとっている雰囲気が違う。

今のうちにカメラで撮って、UMAとして晒し上げて億万長者に。。


とそんなくだらないことはやめて


気になることがありすぎる。

最近立て続けに怪奇現象が起こってそろそろ精神がボロボロになってきたし…


「あ、あの。一つ聞いていいかな。さっき、記憶の断片なんたら言ってたけど…

 …断片の中に出てきた書生服の子と、ハイカラな女の子について知らないかなーって…」


アカツキは罰が悪そうに頭を掻いた。


「あー…あれは、あの書生服の少年は修一って名前で。あとは…知らない」


煮え切らない回答だ。目が泳いでいる。

絶対何か知っている。


でも、鈍感チキンは素直に受け取るタイプなのでそのまま流してしまった。

そうなんだ。と。彼の名前は修一なんだと。不思議と耳に馴染んで行くような響きだ。

何だか懐かしい。


修一…。


「あ、あと、なんでそんな格好しているの?」


「あ、これは神様コスチュームだ」


神さまコスチューム…なんか響きが可愛いなと思いつつも、

何か不自然な言葉に引っかかる。


「神…?神って言いました…?」


「ああ。私、神だから」


ついに自分は耳までおかしくなったのか。

帰ったら耳鼻科にいかなくてはと妙に納得してしまう。


「…ちょっと何言ってるかわかんないかも…

その…精神科?行ったほうが」


「めっちゃ失礼」


すると、アカツキはスッと手を差し出してきた。

なんだろうか。まさか、閉じ込められて怖がる染崎のために、

手を繋いでくれると言うことだろうか?

とありがたくその掌に自分の手を重ねると…すごい速さで弾かれた。

サドなの?サドなんだね?

もう意味わかんなすぎて、泣きたい。


「握手じゃない。お代」


「……は?」


予想外の発言に染崎は鳩が豆鉄砲を食らったようにポカーンとする。


「おーだーい。日本語わかるー?」


「あ…?なんで?」


頭をひねる。

はて。そんなことあっただろうかと。


「なんでって…さっき有力情報教えてやったでしょうが

 だから、お代だよ。神様に物頼む重み知らないのか?」


「はぁぁぁぁぁっぁあ!!??」


「あれ?よく漫画とかであるじゃないか。

お願いを叶えてもらうために生贄を…」


「それは漫画でしょ!?ていうか君が神様って信じてないし、今の願いじゃないし!頼んでないし!

いや、頼んだけど!!!大体神様の定義って何!幽霊だろ!!!というか幽霊も信じてないよう!え?今にも逃げ出したいよ!なんなら時を戻したいよ!」


自分でもよく驚くほど言葉がするする出てきた。


アカツキは数秒ポカーンとしたあと、ニヤリと笑った。


「へぇー…じゃあ、戻してやってもいいけど。」


「…え?」


「その代わり、お金もらうけど」


一瞬、信じてしまった。

本当にできるのかと。確かに、透明だし、なんかただならないし、できるかと。


しかし、一瞬で冷静に戻る。そんなおとぎ話のような都合のいい話があるわけない。

あるならば、とっくに試している。


「い、いいよ。やってみてくださいよ。

 絶対にできないと思いますけどっ」


すると…。

スン…と水面に水滴が垂れるように。

あたりが急に澄み切った雰囲気になる。


アカツキは指を変な風に組み、何やら唱え始めた。


「ま、まさか…本当にできる系なんですかぁ!?」


あたりが、光に包まれたー

















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