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波に揺られて

作者: 俊太

 お盆と海という設定で怖い話を作れないかと思い、書きました。

 8月13日夕陽が沈み、空は黒色に染まろうとしていた。それに合わせて、蝉の声が止み、待っていたかのように鈴虫の声が聞こえ始めた。

 夏川は鈴虫の声が好きだ。子守歌のように、眠りにつくまで歌ってくれる。そんなことを考えていると、田中の声が鈴虫の音色をかき消した。

 「じゃ、そろそろ始めるか。怖い話をして本当に幽霊が来るのか」

 「待ってました」と飯田が興奮気味に答える。

 お盆の初日から怖い話をすることになったのは、それは昨日の出来事がきっかけだった。


 夏川、田中、飯田の三人は大学の近くにある、安くてまずいで評判の居酒屋に集まっていた。

 「明日からお盆か。なんで、墓参りのために実家に帰らなくちゃならないんだよ。めんどくせ」と顔面を梅干しのように赤く染めた田中は、いつも以上に口が悪かった。

 「そんなこと言うなよ。その日しか先祖の霊は来てくれないのに」と夏川が言い終えると同時ぐらいに、田中はまた愚痴を言う。

 「うるせえ。幽霊なんか見たことはないだろ。見えないものにどうやって感謝を伝えるんだよ」興奮してきたのか、声がどんどん大きくなっている。

 「すいません。水をください」と飯田が店員を呼ぶと、田中はそれに反応して「水ぐらい上手いの出せよ」と付け足す。店員からは返事の代わりに、「チッ」という反抗的な音が返ってきた。

 「お盆ってさ、先祖の霊が来るんでしょ。だったら、幽霊が集まりやすい日ってことだよね」もう終わったと思っていた話を、飯田が掘り起こしていた。

 田中は酔っていても耳は良いので、飲んでいる途中のジョッキを机に叩きつけて反応した。

 「だから、幽霊が来たかどうか分からいじゃないか。丑三つ時だって幽霊が活動しやすい時間って言われているのに、生まれて21年一度も見たことねえよ。そんなもの信じられるかよ」

 「それなら、明日の夜に集まって怖い話をしようよ。昔は百物語って言う遊びがあって100本の蝋燭を準備して、怖い話が終わるたびに蠟燭を消していくの。それで、100本消し終えると幽霊が現れるんだって」

 飯田が突拍子もないことを言うのは、日常茶飯事のことだが、今回も意味が分からないことを言い始めた。

 田中は厚みのある瞼を大きく開き「そんな簡単な方法があったのかよ」と驚愕していた。夏川は蠟燭100本集めることが、簡単なことなのか疑問に感じた。

 「じゃ、明日私の家に21時集合で」と飯田が勝手に時間まで決めた。

 断ろうとしたが、田中が急にトイレへ駆け出し、胃の中身を全て吐き出してしまった。これ以上会話できる雰囲気ではなくなり、渋々参加を決めた。


 結局、蝋燭は準備ができなかったので、ただ怖い話をする会となった。

 最初は、田中が怖い話をした。内容は『タクシー』で、カーナビが壊れたや乗客が消えたなど、どこかで聞いた事がある内容だった。こんな話で現れる幽霊などいるはずもなかった。

 自信があったのか、田中は他の2人の反応が想像以上に薄かったことにショックを受け、机に置かれたポテトチップスを黙々と食べ始めた。

 飯田が「現実に起こったら怖いね。じゃ次は私が話すね」と田中へ少しフォローをして、怖い話を始めた。

 「お盆は、先祖の霊を自宅へ招き入れて供養する伝統行事なんどけど、ある地域でそれが違っていて、お盆の日に遺骨を海に流すの。先祖の霊に今年亡くなった家族を、連れて行ってもらうためらしいんだけど、中には遺体も流してたらしいのよ。」

 ポテトチップスを食べていた、田中の手が止まる。

 「遺体と言っても、死んでから12時間以内って決まりはあったみたい。その地域では、人の魂は死んでから12時間は体に留まるって信じられていて、遺骨よりも確実に先祖が魂を見つけてくれるって言われていたの」

 飯田は乾いてきた唇を舐めて、話を続けた。

 「でも、不思議な事に12時間以内の遺体なんて滅多にいないはずなのに、毎年数十体の遺体が海に流されていたの。なんでか分かる」と飯田が二人の顔を交互に見る。

 田中が首を横に振ると、飯田がニヤリと片方の口角を横に広げて「殺すからよ」と強調して言った。

 田中は驚きのあまり机に脚が当たり、食べかけのポテトチップスが床に零れた。

 夏川は表情は冷静であったが、こめかみから一滴、二滴と汗が垂れた。

 「びっくりしたでしょ。でも、悪い話じゃなくて、不治の病で苦しんでいたり、貧乏で食べ物がなくて、いつ死んでもおかしくない人達を殺していたの。苦しい思いを長引かせることなく、先祖がいる幸せな世界へ案内してあげたいという、優しの気持ちがあったみたい。結局、都市伝説みたいな話で本当か嘘か分からないんだけどね」と飯田は言った後、コップに入ったコーラを飲みほした。

 田中は「なんだよ。びっくりさせるよ。感動系かよ」と言い、夏川は黙って頷くだけだった。


 夏川は飯田の話を既に知っていた。

 母は1年前に癌と診断されてから、日を追うごとに症状は悪化した。髪は抜け落ち、薬を飲んでも痛みで毎日叫び続けている。身体の脂肪は無くなり骨と皮だけになっている。毎日苦しむ母に見兼ねた父は家を出て行った。

 なんとかして母を助けたいと、ネットで検索していた時に、ある地域で行われているお盆の儀式を知った。殺して楽にするのではなく、先祖がいる幸せな場所へ送り届ける。なんて素晴らしい考え方なんだと思った。

 そして、8月13日夏川は、母を殺した。

 後悔なんて微塵も感じなかった。母はやっと解放されたんだ。母の顔は不思議と笑っているように感じた。

 二人と会う前に母の体を海へ流した。

 母の魂は先祖にちゃんと迎えられたのか、母の体は今どこへ旅をしているのか。

 次に夏川が、怖い話しようとした時、飯田が掌を夏川に向けた。まだ、話しの続きがあるということだろう。

 「ここからが面白くて、この話を知ってからお寺の人に話を聞きに行ったの。本当にあるのかって。そしたら、殺されて海に流してもは幸せな場所にはいけないんだって」

 夏川は、理解するまでに数秒かかった。呼吸しているのに上手く酸素が体に回っていない。

 「お坊さんが言うには、葬式をしてお経を読まれることで、亡くなった人は迷わずにあの世へ行ける。でも、それをせずに海へ流してしまうと、魂は彷徨い続けて、無という苦しみを味わい続けることになる。それは、どんな苦しみよりも辛いものになるだろうって言ってたよ」と飯田が言った。

 田中が「そんなオチあるかよ」と笑っていた。

 夏川には何も聞こえなかった。田中の笑い声も鈴虫の音色も。

 


 


 最後まで読んで頂きありがとうございました。書き始めて3投稿目になりました。こんな、ど下手な文章でも読んでいる人がいることにとても感動しています。

 これからも、投稿続けようと思いますので今後ともよろしくお願いいたします。

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