謎惑星に転生した僕は、煌めく宝石に恋をした
僕、黒崎タツキは、気づいたら宇宙にいた。え?昨日はカレーを食べて、風呂に入って、歯磨きをしてからいつも通りのゲームしながらベットで寝落ちをキメたはずなのに……なぜ?
地球以外の惑星に上陸するなんて無縁な僕は、ここが見るからに普段生活しているあの星とは違う世界だと一瞬で認識した。ミラーボールのようにキラキラした街頭、見渡せば広がる黒くて澄んだとは言えないような暗闇の空。そもそもなんで息ができてるんだろうか、他に人はいるのか?
見渡す限り、建物と呼んでいいのか分からない近未来チックな何かが目に飛び込んでくる。
「おニーサン、目が覚めタ?」
ピンクの髪に目に煌めく星が宿った少女に話しかけられた。い、いつからここに?さっきまで誰もいなかったよな?
「あ、貴方は?」
僕は質問が溢れる中、目の前の少女に質問した。
「アタシは、ベリル。この家に住んでるの!アンタが、道の端に倒れてたから拾って返ってキタ!」
うーん、助かったのか?と言うか、此処は何処なんだろう。
「あの、ここ何処ですか?僕が住んで星じゃないみたいな気がするんですけど…」
「ここはね、ジュエル・プラネットだよ!」
「ジュエル・プラネット?なんだそれ聞いたことない…」
「あたしもおニーサンみたいな人初めてミタ!せっかくならアタシ達友達になろうヨ」
「……。」
え、友達になるとか以前に僕帰れるの?
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ベリルとこの星
僕はどうやら謎の惑星に転生してきたみたいだ。
この少女によると、この星にも人類とは呼べるか分からないが異世界人?いや、宇宙人と呼ぶべきだろうか、それらはたくさん存在しているらしい。
ベリルは同い年くらいに見えるけど歳を数えるという概念がないのか、年齢は覚えてないみたいだ。パッと見は同い年の高校生くらいに見えるんだけどな…。
今日は、僕のためにこの星を案内してくれるみたいだ。
「ベリル、ほんとにお金とか買い物出来る通貨、僕は持ってないけどいいの?」
「いいんだヨ〜!ここはアタシに任せなさいッ!これでもお金持ちなんだヨ!」
「ほ、本当?」
「ホント、ホント!」
同い年の女の子に奢ってもらうなんて、なんか気が引けるけど、そんなこと言ってられないか……。
僕は、モヤモヤした何かをを忘れるようにベリルの家を飛び出した。
まずは、服を買うみたいだ。
「なんかその服、変!アンタに似合う服、あたしに選ばせテ!」
そう言われたは言いものの、ベリルは人型だけど、この星にはタコのような、映画で見たような宇宙人のような人もいる。むしろ人型は、そんなに多くないような気がした。そして、唯一の希望であるベリルでさえ、デザインが奇抜というか、日本では見た事のないものばかり身につけている気がする。
「今から行くのはね、アタシが特別に服を作ってもらってるお店なノ!」
「へぇ…、僕に似合う服なんてあるのかな?」
「ひとつ位あるヨ!アタシのニイさんもここで服買ってるカラ」
「え、ベリルお兄さんいるの!?」
「あれ、言わなかったっけ?ニイさんいるの!」
初耳ですが……。まあいっか、とりあえず自分の生活を整えることに集中しなければ……。
「いらっしゃいまっセ」
大きな体の、触手を持つタコ足定員が出迎えてくれた。
「ルル!今日はねコイツの服を買いに来たヨ!」
「あーこれが噂の…」
え、何……?僕噂になってるの?
「任せてください、お兄様とほぼ同じサイズだと思うので」
「やっぱりそうカ!良かったな、タツキ!」
「そうだね、良かった…。」
なんでお兄様?お金持ちって言ってたけど、信じてなかったが、本当なのか?
「似合うじゃん!カッコイイ!」
「そうかな…?ありがと」
「あ、照れタ?」
「照れてない」
思いのほかピッタリの服に着替えて、僕も満足した。支払いを済ませてくれるベリルを横目に見ると、宝石のようなものを対価に支払いをしていた。
「なに、これ……?」
食べ物を買いに商店街に行った僕が手に取った物は、食べ物と呼んでいいのかも分からない固くて赤い石みたいな謎の物体。どうやらこの星の果物らしい。そうか、食べ物の種類すら違うのか、僕ホントにやってけるのか?不安になってきた……。
「これ甘くて、美味しいんだよ!一緒に帰ったら料理して食べヨーネ!」
「う、うん」
そうして1日を終えた僕たちは、家に帰って料理をした。ここまでは特段変わったことのない生活のような気もする。
「なぁ、ベリル」
「ナニ?」
「どうして金持ちなんだ?仕事とか僕にできることは無いのか?」
「ア、気になった?アタシんちはね、位が高いの!だから程々に裕福な暮らしができてるってカンジ!」
「位?」
「そー、この星には生まれた時から位が定められてて、アタシの家はピンク・ベリルっていう宝石の末裔なの」
「ナルホド……?」
「あ、分かってなさソー」
そう言ってキラキラした瞳を細めながらこちらを見つめてきた。
「で、アタシのニイさんは、当主のアタシを守るナイトって訳!」
ふーん
「え、当主なの?」
「ソーダヨ!驚いたデショ!」
なるほど、それは驚く普通に。でもナイトな割に全然護衛的なことしてませんけど貴方のお兄さん。
「お兄さんは、普段君を守るための護衛とかをしないの?」
「あー、これでもアタシ自分は自分で守れるタチなの!あと、ニイさんは今ダンジョンに行ってるカラ」
「ダンジョン?」
「ソー!言ってなかったネ、この通貨を手に入れる為にこの星にはたくさんのダンジョンがあるノ!モンスターを倒したらそれが手に入るってカンジ!」
凄いな、本当にそんな世界があるんだ。ゲームの中ではいくつも経験した事だけど現実でこんなことがあるなんて思ってもみなかった。
「僕でもダンジョン行けるの?」
「ウーン…」
何故か渋っている彼女に追い打ちをかけるように……
「僕、意外とそういうの好きだよ!前の世界ではいくつもクリアして来たんだ!」
まあゲームの中でなんだけど……
「ソウナノ!?それなら連れて行けるかも…じゃあ明日は管理課にいって、適性検査を受けてみようカ!」
僕は、心の奥でガッツポーズをした。やっとこの世界に来た意味が見つかるかもしれないと…。
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ベリルと検査
「よし!まずは適性検査だヨ!こっちこっち!」
「ちょっと待てって……」
いつにも増して元気なベリルに着いてくのに精一杯だった。
「そんなに体力なくてダンジョン行けるノ?!」
「ゔっ」
普通にささること言わないでくれ…。
どうやら宙に浮くこの宝石に手をかざすと自分に合った能力が告げられるらしい。
「ベリルはどんな能力なんだ?」
「アタシはね、瞳を見ると自分以下のレベルなら気絶させることが出来るのヨ!」
そ、そんなのチートじゃないか?
「そんな能力があっていいのかよ」
「いいんだヨー!ここまで来るのに沢山努力したんだからネ!」
そうか能力をあげるために鍛錬を積んだってことなのかな。
いよいよ僕の能力を知ることが出来る、そう思って宝石に手をかざした。
瞬間、かざした手に電撃が走ったように弾かれた。
「痛っ!?」
「え、今の何!初めて見たんだけド!」
キラキラした目でこちらを見ないでくれ…出来れば心配をして欲しかったんだが。
「…どうやら貴方は能力を持っているようなのですが、現在は能力の内容を読み取ることが出来ないようです。」
管理課の人にそう言われ、納得できないまま適性検査を終えることとなった。
「まあ、ずっと悩んでても仕方ないもんネ、アタシが守ってあげるからダンジョン行ってみるカ?」
「守ってくれるって言われてもな…」
僕は、自分の能力が分からない状況で危険な目にあってしまった最悪の場合を考えて悩んでいた。
「じゃあアタシの力見せてあげるヨ!じゃあ手を貸してネ!」
何をするんだろうか。手を貸すと、
「はっ……!?」
なんだ手を握ってる……?
その瞬間目の前に、ステータス画面のようなものが広がった。体力ゲージ、装備、経験値、スキルなど見れる項目が広がっている。ふと横に突き出るように出たひとつのゲージがあることに気付いた。
──────え
レベル1000?待て待て、そんなレベルがあっていいのか?
僕が驚いていると、
「まだまだレベル上げてる途中なんだけどネッ」
と言われ、これ以上のレベルが有り得るのかと感動し、目を開いてしまった。
「じゃあ、行こうカ!」
そう促されるまま、彼女について行くことにした。
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目指せ、財宝
急展開に追いついていけず、連れてかれるままに入ったダンジョン。
どうやら彼女は本当に強いらしい。ダンジョンに入ると、敵の頭にはレベルが表示されていた。ここは弱い階層だからと言っていたけど、相手はレベル1000くらいだ。彼女で無ければ瞬殺すらされてしまう可能性があるだろう。
倒した瞬間地面から宝石が溢れてくる。どうなってんだコレは、とため息をついてしまう。
「ため息なんて着いて大丈夫カー?心配しなくても守ってやるっテ!」
口ではなんとでも言えんがと思ったのは、心の奥にしまい込んで、後を着いていくことにした。
次々と敵を倒していき、この回のボスだと思われる敵が現れた。見た目はヤギとタコのハーフのようで大分グロテスクだが耐えるしかない、そう思っていた時、僕の心臓が、酷く収縮した。
───痛い、熱い、苦しいッ……
「おい!?タツキ!!大丈夫カ……」
遠くなる意識の先で彼女が名前を呼んでいる。何故か唇にふにっとした感触を覚えた。なんだろう、これ……。しかし、耐えきれなくなった僕の目の前は一瞬で真っ暗になった。
「うっ……ここは…?」
「おいタツキが目を覚ましたぞ!」「ベリル様を呼べ!」
目覚めた瞬間から騒がしいなぁと思いながら周りを見渡すと一面真っ白な医務室だと思われる場所のベットで寝ていた。
「ッ起きたカ!?良かったぞもう目を覚まさないのかと思っタ…」
そう言ってハグしてきた彼女を抱きしめると、頬を擦り寄せて来る姿がまるで小動物のようで、ふわふわの髪の毛をふわりと撫でてみた。
おいおい物騒なこと言うなよと胸の奥で呟いたが、あえて口には出さないでおいた。
どうやら、また彼女に助けて貰ったらしい。派生能力として治癒能力も持っているらしい。なぜ僕が倒れてしまったかは、未だ分からない。しかし、医師によると幼子が能力を目覚める前に発熱を起こすような感覚に近いのでは無いのかという推測だそうで。
「早くなんの能力か分かるといいナ」
優しくまろやかなその煌めく瞳に見つめられ少し照れくさい気持ちになった。
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僕の能力
あれから何日経っただろう。彼女の後ろをついていく形で、超絶初心者向けのダンジョンに潜り込み自身の力で剣を振って、敵を倒しレベルを上げた訳だが、未だレベル15ほどと言ったところだ。
今日も同じようにダンジョンへ潜っていると、謎の扉を見つけた。彼女は道端に咲く植物に関心を示していてこちらを見ていない。
少しレベルが上がった事だし、1人の力で敵を倒していい所を見せてやろう!と意気込んで扉を開いた。
途端、目の前に警告という2文字が、チカチカと点滅した。何だこれ…今までに見た事のない表示だ……。
「バカッ!タツキ今すぐそこから離れテ!」
いや無理だ、目を上に向けると今までに見た事のない規模の大きさで、ドラゴンのような見た目のナニカが佇んでいた。
扉には、結界のようなものが張られていて中に入った僕と外にいる彼女が合流することはどうやら無理らしい。
あ、終わったな。死を覚悟するしかないそう思っていると、敵から光の閃光が放たれた。
走馬灯が頭をよぎり、目を瞑った瞬間…、僕の目の前に特殊なバリアが張られた。敵は反射した自分の攻撃で苦しんでいる。
「死ぬかと思った……」
「おいタツキ!お前それ能力ナノカ!?」
彼女の声がここまで届いた。まじか、人間死の瀬戸際に立たされると能力に目覚めるのかと感心していると、敵が追撃を始めようとしてきた。
しかし、能力に目覚めたとて、急すぎて使い方分からん……!焦っていると、目の前に選択コマンドが現れた。敵を殺すか、自身を守るか二択で選ばなければいけないらしい。
本当なら両方の選択したいところだが、現在はその段階にすらいないようだ。
「仕方ないか、やってみよう」
僕は思いきって、前者のコマンドを選択した。
すると自身を守っていたバリアが解かれ、一気に大きな剣の形に変形した。
目を見開いたわずかな時間で、その剣が敵の脳天を突き刺した。
「グァァァッ____ 」
敵が宝石に変わったその瞬間自分のレベルが一気に上がったことに気付いた。
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お祝いしよう
「嬉しいナ!ついに能力が目覚めテ!」
自分の事のように喜んでくれる彼女を見て、暖かな気持ちになっていると、インターフォンがなった。
僕は気付いたら彼女と同棲してしまっているわけなの だが、今まで家に誰かが訪れたことは無い。
こんな時間に誰なんだろうか。
「ちょっと待ってて!宅配カナ?」
「気を付けなよー」
軽く返事をして彼女が帰ってくるのを静かに待っていた。すると、
「はぁー!?急にどうしテ……!」
大きな叫び声が聞こえてきて、流石に心配になり後を追いかけた。するとそこには、自分と同じくらいの背丈だが、過去の世界で言うならまるでアイドルのような、ある意味狂気的なレベルの顔面を持ったピンク髪の男性が立っていた。
「しょうがないじゃないか……俺が留守にしている間に、家に信じられないくらい大きな隕石が降ってきたんだぞ。」
「はぁー?言ったよネ!今友達が家にいるから邪魔すんなっテ!」
彼女は若干、嫌かなり怒っているように思えるが。いや、一体誰なんだ?人型だし、イケメンだし、距離感近いし、だいぶ親しげな気がするが…。モヤモヤを抱えたまま、思考回路を巡らせていると、彼の瞳がこちらを向いた。
「ふーん…君がベリルの友達か…」
どうやら僕は警戒されているらしい。
「僕は、黒崎タツキです。道に倒れていたところ助けていただいて、そこから仲良くなったというかなんというか」
間違っていない、しかしうまく説明出来ず焦っていると、
「もう、あまりからかっちゃダメだよニイさん!」
と言われてハテナが浮かぶ。ニイさん?兄さん?この人がベリルのお兄さん!?イケメンすぎだろ……!!
「改めまして、ベリルの兄のレッドだよ。妹から話は聞いてたんだけど、驚かせてしまって申し訳ない。」
おぉ、イケメンは謝ったってかっこいいのか罪深いな。
「いえいえ、こちらこそちゃんとご挨拶ができず、すみません」
申し訳ないなと思っていたところ、
「ちょうどご飯を食べるとこだったの!ニイさんも食べル?」
「あぁ、俺も頂こうかな」
と上手く話を逸らしてくれたようだ。
ご飯を食べて、他愛のない話をして今日は寝ることになった。明日はレッドからどうやら大事な話をしないといけないらしく、それに備えて早く眠ることになった。
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彼女の婚約者?
朝目覚めると、なにか柔らかいものが腕に当たっている気がする。眠過ぎて確認する気にもならない。しかし心地よくて、多分枕だと思われるそれに顔を埋めた。
「んぁ……タツキ起きて、苦しいヨ」
ん?なんだ?なぜ隣から彼女の声がするんだろう。眠い目を必死に起こして、声のする方に視線を持っていく。僕の部屋になんでベリルが?おい、待ってくれ。じゃあこの柔らかな感触って……。
「ご、ごめん!?待って本当に……なんでこんな事に!?」
驚きのあまり大きな声が出てしまい、気付いた時にはお兄さんが駆けつけていた。
「おぉー朝からお熱いねぇ」
辞めてください、その揶揄う視線を。ぼっと熱が集まる顔を扇ぎながら、急いでベッドを飛び出た。
どうやら昨日はレッドが帰ってきて、部屋を譲ってリビングで寝ようとしていたらしいが、寒さに耐えきれず僕の布団に潜り込んできたらしい。
高鳴る鼓動をおさめるように、深呼吸をしていると、
「ちょっといいかな、昨日言ってた話したくて」
申し訳なさそうな顔をしたレッドが、声を掛けてきた。なんだろう、全く話の想像がつかない……。
「ダンジョンに行った先で別パーティーに出会ったんだ。なかなかに筋もよく、気もあってだな、語り合っているうちに、婚約者を探しているという話を聞いてな?」
待ってくれ、まさか……
「そのパーティーのひとりが、俺の妹を紹介して欲しいと言ってきてだな…」
レッドが彼女を見つめている。彼女は開いた口が塞がらないと言った感じだろうか。
「はっ、えっナニ!?アタシ!?」
俺だって驚いている。しかし、外部から入ってきた人間が首を突っ込んでいい話のようには思えない。
「ああ、妹がいると言って写真を見せたらな、どうやら一目惚れしたそうだ。1度食事に言って貰えるとありがたいのだが、どうだろうか?」
「う、嬉しいケド……」
けど…?なにか引っかかっているのだろうか。
「来月の舞踏会で顔を合わせることになるかもしれないな」
「彼も位が高い方ナノ?」
「あぁ、名前を伝えていなかったな。彼の名はスフェーンだ。お前でも聞いたことがあるだろう。」
「嘘、あのスフェーンさん!?」
どうやら有名な方らしい、残念ながら僕は彼のことを全く知らない。
「せっかくならタツキも一緒に舞踏会は参加しよう。3人の親睦会も含めてな」
「は、はい……」
「ヤッター!3人で行けるの楽しみだネ!」
スフェーンが彼女の婚約者になってしまったらどうしようと頭の中でぐるぐる思考していると、重くドロドロした感情が溢れ出てきた気がした。
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今宵の舞踏会
過去の文化では踊るなんて、考えたこともなかったが、程々に家で練習をして、人並みの技術を習得した。しかし、まあ、噂が広まるのは早いもので、別惑星から来た謎の人物として、あまり良いとは言えない視線をくらっていた。
「ねえ、タツキ!あの料理とっても美味しいノ!一緒に食べ行こうよ!」
「落ち着いてって、そんな急がなくても着いていくから」
彼女は食のことになると、さらに元気で、子供らしい可愛い一面を見せる。その姿を近く見れることが、僕の最大の特権だなと思っていた矢先……。
「っあ、ごめんなさい、前を見ていなくテ……」
彼女が背の高い男性にぶつかってしまった。
「大丈夫ですよ、顔を上げてください」
優しく穏やかな声で、諭すように話しかけた相手が紳士のように挨拶をした。
「自己紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。僕の名前はスフェーン。こんなところで巡り会うなんて、これは、まるで運命のようですね。」
この人がスフェーン。何もかもが僕とは違う。背が高くて、声も大人びている。柔らかな瞳がまるで人を包み込むようで、周囲もし線を奪われてしまっている。
……悔しい、僕はきっと彼にどうやっても勝てない。そう実感するような圧倒的なオーラがあった。
「あ、あなたがスフェーン!ニイさまからお話を伺っておりマス。アタシは、ベリルです。どうぞヨロシク。」
ふわりとドレスを翻す彼女はとても美しくてどう見たってお似合いのカップルのように見えた。どうやら周りにとっても同じなようで、微笑ましいと言った話し声が聞こえてきた。どうしてだろう、ザワつく心が気持ち悪い。早くこの場を去りたい。そう思っていたところ……
「お邪魔してしまって申し訳ない。僕はスフェーン。君の話は伺っていますタツキ様」
どうやらこの人は誰に対しても優しい聖人君子なようだ。憎みたいのに憎めないではないか。
仕方なく3人で話していると、レッドが合流した。
「どうやら仲良くなれたようでよかった。」
「はい、僕もベリル様とタツキ様出会えてとても楽しい時間を過ごせました。」
「今日はとても満足したワ!たくさん美味しいものが食べれたモノ!」
「来て良かったよ」
良かったけど本当は良くない。この気持ちは、声に出さず心に秘めておくことにした。
「せっかく仲良くなったことだし、4人でダンジョンに行くのはどうだろうか?」
レッドがそう提案する。
「え、行きタイ!タツキは私が守ル!」
「ベリル!僕も戦えますよ」
もう守られているだけは嫌だ、そういう意思をもって言葉を紡いだ。
「ぜひ僕もご一緒させてください。御三方の力になれたら幸いです。」
自然で柔らかな声で彼も賛成の意を示した。
はぁ、どうしたものか。
次は、どうやら謎メンツでダンジョンに行かなければならないようだ。
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僕の気持ち
遂にやってきてしまったか、謎メンダンジョン攻略日。本当に今日だけは帰りたい。何故自分から見たくもない場面に遭遇しなければならないのかと、レベルの違いを思い知らされるのではないだろうかと考えていた。
そんな自分と比べて彼女と来たら、
「久しぶりにちゃんとパーティーでダンジョンに来れたな!」
この調子である。まあ確かに、僕と二人きりでパーティーらしい戦い方はしてなかったよな。申し訳ない気持ちと、僕とふたりでは楽しくなかったのか?と寂しい気持ちになる。
「このダンジョンはどうやらレベルが上がってしまっているらしく、警戒して入った方がいいと聞いた。偵察も含めて今回は気を抜かずにいこう。」
レッドはダンジョン攻略に慣れているようでやはり心強い。肝心のスフェーンも、パーティー慣れしていそうな雰囲気だ。置いていかれないように注意しなければならないなと気を引き閉めた。
中に入ると明らかに騒々しく、レベルの高いモンスターが蠢いている。僕のレベルはあの日一気に上昇した。その後は技を増やし、能力をどう応用するかを考えていた。
あれやこれやとしていたら、遂にボスの部屋まで来てしまったようだ。空気が違う。肌がひりつくような感覚、どこかから感じる鋭い視線。一瞬でも気を抜いては行けない、そう思った。
「ギュオオン」
大きな風と炎に包まれたドラゴンが現れた。レベルの表示が1500を越している…どうやらベリル後からは宛に出来ないかもしれない。派生スキルや残りの3人の力を合わせてやっとなのかもしれないと感じた。
「ごめんネ、あたし力にならないカモ」
本人もどうやらそう思ったらしい。
大丈夫だと声を掛け合い、僕は守りと攻撃を繰り返す。バリアは、ほかのメンバーも守るために複数用意してあり、同時並行で体力を削っていく。
やはりレッドとスフェーンの攻撃力が高くとても心強い。ベリルも治癒能力でサポートしてくれている。
すると突然目の前に警告の文字が印された。ま、まずい。もしかして前の時と同じか?そう思った矢先、1番後ろにいたベリルを狙って光線が放たれた。
「ヴッ………ぁ」
「ベリルッ!」
名前を呼んだ時にはもう遅かった。胸元からは大量の血が流れている。
「嘘だろ……」
どうすればいいんだ、僕は最大限彼女にバリアの力を使い完璧に守りの空間を作り出した。しかし、治癒の力を使えるのはこのパーティで彼女だけだった。すると突然僕の胸が、ドクンと大きく高なった。
なんだこれは、痛い、熱い、そう思っていると目の前に、
『新たな力を手に入れますか?』
という文字が表示された。何だこれ、いや考えている暇はない、そう思って、即座に手に入れるを選択した。熱く焼けるような感覚がした後、胸には黒く禍々しい宝石が埋め込まれていた。どうやらこの石が新しい能力の開放を進めてくれたようだ。
「頼む、どうか助かってくれッ!」
自然と使えるようになった新たなこの能力で、ベリルの傷口を回復するように力を込めてみる。どうやら少しずつHPが戻っているように見える。しかし、肝心の傷がふさがらない。
「おい!タツキ!回復能力は力を直接流し込んでやらなきゃならない!」
レッドがそう叫んだ。直接ってどういうことだ?焦る思考回路の中で、自分はどうやってベリルに助けられたのか、思い出した。
「そうか、あの時ベリルは俺に……」
今更きずいた僕は、自分も同じように試すしかないとそう思った。
「ン、」
唇を軽く触れ合わせた。しかし、傷口が治る様子は無い。どうして、?悔しくて、何度も何度も唇を塞いだ。冷たくなる体に自分の熱を与えるような気持ちで。
「っ……!ぅあっ……!」
「ベリルッ!」
意識を取り戻した彼女を見て目元が熱くなった。良かった、安心した。そんな気持ちは束の間、まだ戦いは終わっていない。僕は立ち上がって、彼女を護ったまま、立ち向かう2人の元へ駆け出した。
何時間経ち、僕たちはやっと解放された。何度も危険な目に会いながらも互いを助け合いやっと外に出られた。どうやら長時間帰ってこなかったことで、外では僕らを待つ救急隊の姿があった。
あぁ、やっと眠れる……その瞬間ふと力が抜けてその場に倒れ込んだ。
⟡ ━━━━━━━━━━━━━━━
二人のこれから
結局瀕死状態4人は入院する羽目になり、家に帰れたのは何週間語った後だった。その間にレッドは新しい家が完成したらしい。彼女と2人で、家に帰ってやっと落ち着いて話が出来る、そう思っていたら、
「ねぇ、タツキ」
急に真剣なトーンで話しかけられて、ドキッとする。
「な、なに?」
「……あの時、助けてくれてありがとう、きっと貴方が居なかったらアタシ死んでタ」
「……。」
「あのね、アタシ気付いたノ、出会ってから楽しいことばっかりで、辛いことは助け合って、そんなタツキとこれからもずっと一緒にいたいっテ」
驚いた、何を言うかと思っていたら急になんだ頭が追いつかない。
「もーわかってないデショ!」
怒ってる顔も可愛いなあ。目の中で瞬く星が煌めいている。
「分かってるよ、これからも一緒にいよう」
「ホント!?タツキのこと好きになっちゃったノ、世界で1番、だから私のこと受け取ってくれル?」
ほんとにこんな幸せでいいんだろうか、平凡世界から謎惑星に転生して、キラキラ輝く君と出会った。
僕は、君の隣にいていいのだろうか。
いや、僕が隣にいたい。
「僕もベリルが好きだ、これからも永遠に隣にいたい。僕に君を守らせてよ。」
彼女の煌めく大きな瞳からこぼれ落ちた涙は、まるでピンクベリルのように輝いていた。