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異世界恋愛

貴方には、これが当然の『末路』ですよね。

作者: 星乃カナタ



「テラロッサ、それは誤解だよ」


「誤解? そんな訳ないでしょう」


 彼は圧のあるテラロッサに物怖じして後退りした。彼女は冷静な態度のまま、しかし確かな圧をかけながら家の玄関口で問いただす。ずばり、テラロッサの夫である彼……アルバスが不貞を働いたか否か。

 それに関してだ。


「では貴方は私の誘いを断って、夜な夜などこへ行っていたと言うの?」

「それまぁ、買い物とかだよ」


 見事に口籠る旦那。心の中からふつふつと湧き出るイライラをなんとか収めて、彼女は続けた。ここまで追い詰められているのに、まだ嘘をつくというのか。

 彼女にとってアルバスは既に『愛する旦那』などではなく、ただの『クズ人間』でしかなかった。証拠はもう出揃っている。後はやる事をやるだけなのに。このクズは、まだどうにか逃げようとしているのだ。


 この期に及んで、誤魔化そうとしているなんて信じられない。


「本当に?」

「ぁあ、そうだって!」

「そう。他にも聞きたいことがあるのだけど、良い?」

「あ、ああ」

「ありがとう。いつもは私の話なんて聞く耳持ってくれなかったのに、ありがとう」


 テラロッサはもう彼のご機嫌取りなどしない。そんな気遣いをこのクズにする必要なんてないのだ。そもそも彼は最初から彼女の事に気遣いなどなかったのだから。今更、こちらがやろうと文句は言えない。

 彼側に文句を言う道理など存在しない。


「聞きたいことってなんだよ」


 アルバスの声のトーンもあからさまに下がっていた。このクズ男のことだ。ちょっと皮肉を言われたぐらいで我慢できず苛立ってしまったのだろう。


「私たちが将来の為にって貯金してたでしょ? 久しぶりに見たら半分以上なくなってたんだけど」


「アレ、どこやったの?」


 既に冷え切っていた空気が凍っていく。もちろん彼女は当然その答えを知っているのだが、最後に一回だけチャンスを与えたのだ。別に正直に喋ったからと言って許す訳じゃないし、今の気持ちは変わらないが……嘘をつくよりはマシになるだろう。でもクズはクズ。


 ここまで突き通したら、引き下がれなかった。


「っっ悪かった! ───俺がギャンブルで少し散財しちまったんだ、ごめん、悪かったよ!」

「アルバス……っ」


 正直に罪を告白したフリをするアルバスに対し、感動したフリをする。嘘だった。それは完璧なまでの嘘だった。どうしてそこまでして隠し通したいのだろうか。


「アルバスが正直に話してくれたから、私も正直に話すことするわ」

「え、あ、うん」

「───わたし、探偵を雇ったの」

「…………」


 この時、彼はようやく気がついた。テラロッサには全くと言っていいほど彼の虚言が効いていなかった、響いていなかった事実に。

 だって探偵を雇っているなんて『真実』を知っているに決まっているから。


「何から話せば良いか分からないけど、取り敢えず言えることがあるわ」


「貴方は私が上流の貴族家系出身なのを目当てに結婚したんでしょ? で、愛なんてないから当然不倫したってわけ」


 彼は何も言わない。沈黙が肯定だとは言い切れないとしても、この場においては100パーセントの肯定であった。


「不倫相手は地位はなくても可愛い、貴方でもお金を払えば簡単にヤレそうな四人。名前はそれぞれ、ミーシャ、レンタ、アリシア、ケイシーね?」


 そこまで言えば、完璧に理解したはずだ。彼女は全てを知っているのだと。後悔したってもう遅かった。彼女の怒りはその程度で収まるわけがなかった。

 いや怒りではない。こんなゴミがいる現実に対して呆れていて、今はいわば、そのゴミをゴミ箱に捨てるステージだった。


「合ってるわよね、だって全部調査したもの。優秀な探偵さんで助かったわ、証拠も写真にして沢山用意してもらったから言い逃れできないけど──大丈夫そ?」


 何も大丈夫ではない。彼も彼女も、どちらもそれは分かっている。つまるところ煽り文句なのだ。

 アルバスは自分の拳を強く握りしめる。彼の負けは濃厚、確実、確定的だった。


 アルバスは不倫をしていた。

 テラロッサと結婚したのは、彼女の実家が高位の貴族家系だったから。金目当てという訳だ。そこに愛はない。もちろん新婚当時はあったのかもしれないが、心の中に『金目当て』という気持ちが少しでもあるのならば、愛は長続きしない。

 すぐに彼は彼女のことに飽きてしまった。

 だから不倫する。身近にいる手頃な可愛い女の子に手を出した。幸いな事に金には困っていなかったから、取り敢えずこちらからお金を出して手篭めにしていった。

 最初はバレないように少額ずつだったのだが、彼女が何も言ってこなかったから……その行為はだんだんエスカレートしていき。

 最終的には一回の額がかなりの大きさになっていたのだ。


 だからバレた。

 最近あまりにも冷淡すぎる夫に疑問を持ったテラロッサが、ふと貯金を確認した時に気が付いたのだ。

 そこからは彼女が話した通りである。


 とある探偵に依頼して、不貞調査をしてもらった。


 結果は『クロ』。彼は四人と不倫していたのだ。しかも大体はテラロッサのお金を使って──不倫していたのだ。


 到底許されることではない。


「どう、完璧じゃない? 貴方のやっている事、全部バレてるの。面白いよね、なんだかさ」

「…………このっっっ」

「あれ、逃げ場がなくなったらもしかして逆ギレですか? 最悪だね、本当に。ゴミ人間だ」


 覆水不返。失った信用は二度と戻らない。もう彼にはどうにでも出来ない。後悔も謝罪も絶望も何の意味を持たない。

 だから、彼はテラロッサに背を向けて逃げ出した。


 玄関口だから、さぞかし逃げ出しやすかっただろう。彼が家の扉を開いた。その先はもちろん外なのだが……そこには人が数人立っていた。


「は、あ?」


 アルバスの父と母、そして彼女の父と母。アルバスの不倫相手である四人。合計八人。テラロッサが事前に事情をすべてつまびらかに説明して、家の外で待機してもらったのだ。

 もはや言い逃れできない状況。

 アルバスの父と母は息子を庇うかと思っていたが、そういうわけではなかった。


「アルバス、貴様は正真正銘のクズだ。こんな奴が息子など我が家の恥だ」

「命を絶てまでは言わないけど、家を出てってちょうだい。……本当に」


 アルバスの父と母は、当たり前だが残酷な決断を下す。そこに躊躇いは一切見られなかった。


「未婚だって言ってたじゃないですか、アルバスさん」

「王子の秘書をやっていて稼いでるって言ってたのに、嘘だったんですね」

「騙される私も悪いですけど、……ショックです」

「マジで無理。こんなクズ無理だし、こんなクズに騙された自分も最悪」


 不倫相手である四人にもアルバスは『不倫』だとは言っていなかったみたいで、この有様。

 当初、テラロッサは不倫相手にも制裁してやる気でいたのだが事情を聞いて考えを改めた。

 やはり悪いのはアルバスなのだ。

 彼女らと個人的に話して、その考えは強まるばかりだった。


「そうらしいですよ、アルバス」

「あぁ、あぁぁあ……」


 彼の顔が青ざめていく。膝から崩れ落ち、頭を抱える。空には雲で見え隠れして、うまく光り輝けない月が浮かんでいた。


「では、今までありがとうアルバス。離婚しましょう」

「…………」

「弁護士を通すから、まあ断ることは出来ないでしょうけど、一応報告しといてあげたから。あと慰謝料として500万ルビーの請求をするわ」


 彼が崩れ落ちる。

 500万ルビーは大金だった。少なくとも貯金からお金をくすねて不倫に充てる男などには、到底払えきれないような大金だ。

 彼はその借金を負って、その上で根無し草となるのだ。


 崩れ落ちるどころか、現実逃避で地面に倒れ込む元旦那を見下ろしながらテラロッサは思う。


 これから、彼はさぞかしハードモードな人生を送るのでしょうが、


 でも、まぁ……、


 ゴミはゴミ箱に捨てられる。


 それは当たり前の話だし、


 貴方には、これが当然の『末路』ですよね。

 



ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし『ざまぁ』『面白い』と思った方はぜひ、評価よろしくお願いします。


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読みやすく、あっさりと読み終えてしまいました。 3000字でこれだけのストーリーを作られていて感心しました。 難しい言葉や熟語などが多いように感じました。フリガナがあると私のような教養がない人でも読み…
「手篭め」に関してはすでに指摘があるのでいいとして。 唐突に「写真」が出てきたのが少々違和感でした。まあ産業革命を経験してるような近世的世界観だったなら別に平気かなとは思いますが、なろうはじめ小説投稿…
「手籠」とは力ずくで無理やりレ◯プする事を指すので、お金を払って合意の上で関係を持っていたなら手籠めとは呼ばないと思います。強姦した後で口止めに金を握らせて、その後も脅して関係を続けているというならそ…
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