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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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大阪②

ガッガーガッガー、ガッ、ガッ、スキュウン、プシュ、ガッガガガー、ガッ


インパクトレンチの音がけたたましく鳴る。僕のセクションにはこのインパクトレンチが大小合わせて5つある。どれも重くて出力が高い。これらを使いこなすのは大変だ。体力が必要なのは当たり前だが、握力も持久力もいる。8時間労働中、ずっとインパクトレンチを使い続けると手の痛みが鋭くなるので、一番重要なのは”痛みへの耐性”かもしれない。


”ビィービィービィー”


今度はサイレンが鳴る、このタイプのサイレンは作業一旦中止の警告音だ。ラインストップのボタンが押されたのだ。

『誰かがヘマをしたんだろう、でもこっちは助かる。全く追いついていないから、これで挽回できる。』

ケンヂは急いでボルトやハーネス類の補充をした。ラインの停止は長くて1分だろう。どのミスも1分以内に修正されるので急がないとまたついていけなくなる。ラインが再び動き始めた。フックにエンジンを引っ掛け、ラインに乗せる。すかさず重たいミッションを担ぎ上げ、ラインに乗せエンジンに嵌めこむ。これにはコツがいる。左右に揺らしながらはめ込むのだ。素早く2つをドッキングさせたら次は溶剤付きの大きなボルトを2本打ち込んでエンジンとミッションを完全に繋いでしまう。エンジンに貼られた伝票に従ってセルモーターを選び、エンジンに挿入する。長くて細いボルトを差し込み、これも固定。その次はセルモーターにハーネスを取り付ける。その後に排気管のようなゴムチューブをエンジンに取り付ければ終了だ。2分弱で一台分の作業になる。これを毎日8時間、残業がある日は10時間ひたすらやるのだ。


ケンヂは痛みで顔を歪ませながらまだ重たい瞼を必死で押し上げながら目覚めた。手の甲が疼く、指が鈍痛で曲がらない。まるで自分の手ではないみたいだ。昨日は手の痙攣で夜中に目が覚めてしまって、そのあとはなかなか寝付けなかった。幸い今日は日曜日で仕事が休みなのでゆっくりできる。

『痛い、痛い、いてててて・・・・』

ズボンやシャツのボタンを留めるのも厄介なくらい指が動かない。インパクトレンチの強振動のせいだ。

『こりゃすげぇや、大丈夫かな?俺。』

ベッドからなんとか這い上がって、用を足しに共同トイレに向かう。同じように顔を歪めながら歯を磨いている人がいて、”お互い大変ですよね”と目線で挨拶した。相手も”お互い運が悪いよね”のお辞儀をしてくれた。良い人が多いので少しは救われる。これが続くのかと思うと厄介なところに来たなと後悔の念が断ち切れなかった。運が悪いなと思った。人によっては作業服が汚れることもない楽な作業もあるそうだ。こっちは両腕、両手疲労骨折寸前で作業服は毎日真っ黒だ。

『なんてこった、ちっくしょう』



ケンヂは10日前に大阪に着いた。バイクで高速道路を7時間かけてやってきた。道中は大変だった。初めてのロングツーリングだったが、途中の街並みを楽しめたのでなんとかなった。むしろ高速を降りてからの方が大変で、初めての大阪での運転で右も左もわからず、何度もコンビニによって店員さんに聞いたり、地図と睨めっこをしたりしてなんとかたどり着いた。

『やあ、こんにちは山本です。さっそくですが今から寮の案内と規則についてお話ししますね。』

山本さんは僕が所属する期間工の斡旋会社の人だ。無駄口は一切聞かず、事務的に説明をしていく。たぶん毎日同じ説明をしているのだろう。顔がとにかく無表情だ。説明する相手も同じ会社とはいえ、あくまでも相手は期間工ですぐにいなくなるから、仲間とか同僚とかの意識がないのだろう。他でまともに就職できないトラブルメーカーが多そうだから(人のことは言えないが)それも仕方がないか。もちろん僕が若すぎたということもあるだろう。

『ではこの部屋を使って、相部屋だからパートナーと仲良くやってね。仕事は次の月曜日から。その前に私とのミーティングが一回、多人数での全体ミーティングが一回ある。君の所属先は僕とのミーティング後に僕と自動車会社とで決めるから今はわからない。とりあえず3日は何にもないから、散歩でもしてこの街になれてね。』

僕のことを完全に子供扱いしている口調で山本さんは説明してくれた。まあ、その方が分かり易くて良いのだけれど。

寮は清掃員さんによって掃除はされているが、ボロいせいで綺麗とは言えなかった。部屋も同様であちこちにガタがきていた。カーテンはヤニで黄ばみ、机はなぜか蜂の巣のように穴だらけで、その上には旧式の小さなテレビが置いてあった。試しに電源をいれたら関西弁のアナウンサーがニュースを読んでいる画面が現れた。最低でも3ヶ月はここで過ごすのかと思いながら荷物を置いた。ルームメイトはまだ帰っていないみたいだから、束の間の一人を楽しもう。不安があるが、楽しみである初めての大阪暮らしに胸を踊らした。



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甘口、辛口アドバイスすべて受け止めます。

初めて書く小説です

よろしくお願いします


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