表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
62/75

ワーホリ前

実家に帰ってきた。


僕がまず最初にやったことは、ワーホリのエージェントに連絡を取ることだった。海外経験の豊富な人や、度胸のある人はエージェントを使わないみたいだが、僕は見栄を張らずにエージェントを使うことにした。リカさんからのアドバイスもあって、安全と保証にはしっかりとお金と時間を使うことにした。その代わり、現地での英会話学校は行かないことにした。働きながら勉強すればいいと思うとリカさんにも勧められた。日本にいながら英語がペラペラなリカさんの意見が僕に適応するとは思わないが、基本的に現地の英会話学校は、友達作りや現地の情報集めのために行くもので、エージェントを使う人の場合、学校はたいした意味はないと思うと言われた。

エージェントが渡航前の()()()のようなものを送ってくれた。パスポートやビザの申請、エアチケットの購入、銀行の残高証明書、健康診断書の取り方などだ。カウンセラーの方と話していると、自分が海外に出る、ワーホリに行くんだと実感できるようになった。以前のような漠然とした想いではなかった。

本に載っていない、現地を知り尽くした人にしか得られない情報や意見などをもらい、自分の準備に当てた。現地で必要な服装や持ち物などの買い出しに役に立った。

バイトをしながら毎日を英語の勉強や、準備に使うとあっという間に時間が過ぎていく。




『日取りを決めました。7月12日の夜の便です。』

曜日を決めてリカさんに電話をするようになった。毎日だと電話代が嵩むからだ。僕はリカさんの声を聞いているだけで幸せな気持ちになれる。

『まさか成田からじゃないでしょうね?』

受話器の向こうで眉間に皺を寄せて、睨みを利かせているのが手に取るように想像できる。

『関空の便です。』

僕は笑いながら答えた。

『よっしゃ、でかした!』

あまりにも喜んでいるので、女の子には似合わない言葉使いですよと助言してあげた。

『ウチに来るよね?』

当たり前だろうと言わんばかりの口調だ。リカさんの根っこは男の子なのかもしれない。

『2、3日泊めてくれますか?』

海遊館にまだ行っていない。一緒に行きたいとお願いしてみた。

『1週間にならない?ひと月でもいいけど。期間工でこっちに3ヶ月来るのはどう?私の家に住めば寮費もかからないわよ。』

本気とも冗談とも取れる言い方でリカさんは聞いてきた。すごく嬉しかった。

『新しい形のプロポーズとして受け取ります。』

僕が一人前になるまで待っててくださいねとお願いした。”ぶー”という音が聞こえた。口を尖らせて豚さんの真似をしているのだろう。

『何年かかるの?』

一人前なんて誰でもなれるもんじゃないのよ、とお叱りを受ける。

『半人前でもいいの?』

『いいに決まっているじゃない、今のあなたが好きなのよ。』

将来は最悪でもヒモになれるというと、お金は私が稼ぐから心配しないでねと言われた。案外本気なのかもしれない。一応男です、プライドが少しはありますと伝えた。

『出国はまだまだ半年以上先ですね、でも体感的にはすぐだと思います。毎日が準備と勉強で忙しいです。あっという間に過ぎていきます。』

『勉強熱心なのは素晴らしいわ。英会話学校には行くの?』

『現地で行かないと決めたので、こっちで行こうと思います。費用の問題で週に1回だけど。』

幸いコッチにも外国人の先生から英語の授業を受けられる教室が多いので、あとは僕次第ですねと続けた。

『外国人免疫を付けるにはいいんじゃない?ビビらないようにならないとね。』

僕はそうですねと同意した。とても楽しみですというと、リカさんも嬉しがってくれた。




バイトを掛け持ちし、英会話学校に通い、時間が余れば勉強をする。ランニングも始めた。たまに市営のジムにも通った。なるべくお金をかけないようにして、毎日が充実するように心がけた。あとはお金を貯め、時期が来るのを待つだけた。


僕は前進している。


そう思うと嬉しかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ