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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
60/75

EP60 仮題 大阪 離れる

泣いている君を抱き寄せる。


苦痛から解放され、憔悴した表情を君は浮かべた。とても大変だったのだろう。ごめんね、ありがとう、と僕は言った。彼女は照れくさそうにして、微笑んでくれた。

『ケンヂで良かった。』

僕の左手と彼女の右手はまだ繋がれたままだ。どちらとも離そうとしない。僕はその手に永遠を感じる事ができた。右手で彼女の腰を撫で、背中を摩る。小さな体だ。とても小さな体だと思う。

この小さな体で僕と一緒に苦痛を受け入れたのだと思うと、とても愛おしくなる。

『ケンヂ、大きくなってね。』

リカさんは僕の目をまっすぐ見て言った。

『辛い時は逃げてもいいし、負けてもいいのよ。』

逃げるのは嫌だなと僕は返す。

リカさんはゆっくりと顔を振る。

『逃げなさい。大事なことよ。逃げた後にもう一度挑戦すればいいだけ。大事なのはあなたがあなたでいること。』

自分で自分を潰しちゃったり、壊しちゃったりしちゃダメよ、と続ける。僕は頷く。

『生きて。私はあなたがあなたであれば、いつでもどんな時でも受け入れる。そして私を受け入れて欲しい。だからお願い。生きてね。』

僕は頷く。

『僕もリカさんがいい。生きている僕の側にリカさんが生きてくれたら、本当に嬉しい。』

リカさんがまた泣き始めた。

『ワーホリが終わったら、また会いに来てくれる?』

もちろんと僕は頷く。リカさんに相応しい男になりますと誓う。

『今のままでいいのよ。今のままが好きなの。』



何もない部屋で僕と君は二人

見つめ合うだけで満ち足りている

石焼き芋の美味しさについて語り合い

台所のシンクの掃除の仕方で議論になる

公園で早歩きの速さを競い合い

川辺で波切りの数を自慢し合う

夜になったらお互いに求め合い、確認し合う

僕にはあなたが必要で、あなたには僕が必要だと






僕は大阪での期間工の仕事を終え、退寮した後の3日間をリカさんの部屋で過ごした。とても素敵な三日間だった。僕からのリクエストで箕面公園に行き、動物園で千田さんに会い、サクラさんに挨拶に行った。部屋で豪華な料理を作ったり、大掃除をしたりした。もちろんたくさん愛し合った。こんなに幸せなのに、どうしてわざわざ海外に行くのだろうと、自分でも自分が大馬鹿だと思った。



好きですと言う

知っていると返事が来る

どれだけ好きか理解できていないと思うと言う

それは私のセリフだと返される

森のクマさんがハチミツを求めるくらい、君を求めていると言う

それは大変だ、受け止めきれないかもと笑う

君のその笑顔が見たいから、何でもできる気がする




僕はバイクに跨り、大阪を離れた。

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