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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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サトミ

真っ暗な階段を恐る恐る降りていくと、重厚な扉に迎えられる。全身の力を振り絞ってそのドアを開けると、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。内臓を抉るような重低音、鋭く強く点滅する照明。前がよく見えない中を進んでいく。狂ったように踊る若者たちを掻き分け、なんとかしてバーカウンターまでたどり着く。スミノフウオッカとエナジードリンクがブレンドされたカクテルの瓶を注文し、口をつけた。


サトミは待っている。アルコールとカフェインが入ったこんなカクテルよりも、もっと強くて長くキク、アレを持っている男を。もとい、サトミが待っているのはクスリであって、男は付け足しに過ぎないのかもしれない。

今夜はどうしてもキメたい。もう1週間もキメていないのだ。普段はミノルから貰っている。体を差し出す代わりに、大麻などをかなり安い価格で売って貰っている。サトミのようなアジア人女性が直接売人と会うのはリスクが高いので、ミノルを通している。体を求められるのがウザかったが、薬から得られるあの高揚感とは何も引き換えにできないので、しょうがないと諦めている。避妊さえしてもらえれば、それでいいと割り切る。そのミノルと連絡が取れないのだ。仕方がないのでサトミはわざわざシドナムのクラブまで出向いたのだ。音楽とアルコールと薬で有名なこの街は夜になるととても危険になる。


髪をドレッドにしている若い白人が声をかけてくる。見た目は良い。アレを持っているのかと聞いたら、無いというので、適当にあしらった。次に声をかけてきたのは、全身ピアスとタトゥーだらけの男だった。大麻はもちろん、それ以上のブツも持っているという。ゴムは自分で持ってきた。コイツでいいや、早くキメたいと言って、残りのカクテルを一気に飲み干した。

タトゥー男の手を取り、クラブの外に出る。裏路地で軽く大麻をキメた。快感が脳髄を突き抜ける。もっとすごいのがあるぞと、男はサトミの首に吸い付きながら言った。

タクシーで相手の家まで行こうとしたら、複数の人間に囲まれた。


『警察だ。』



サトミは警察署の取調室で項垂れていた。大麻の使用現行犯で、しかも一緒にいた男は警察が以前から目を付けていた人物で、いわゆる売人だった。この日は違法薬物を他に3種類も大量に持っていたのだ。警察はサトミをきつく尋問した。サトミは英語ができないので黙秘した。しゃべった英語は”Lawyer please"(弁護士プリーズ)と”interpreter please"(通訳プリーズ)の二つだけだった。

暫くしてサトミに通訳が付けられた。警察の尋問は続けられた。サトミが麻薬の大元の可能性は低かったが、アジアから大量の薬物が入ってくるので、警察も手を緩める訳にはいかなかった。

刑事はたくさんの質問をサトミに浴びせた。国籍は?ビザは?滞在目的は?住所は?職業は?サトミが勤め先を告げたとき、刑事が反応した。お前はあの大麻混入事件を起こした寿司屋で働いていたのか?と。


マズい、どうしたらいい?サトミは恐怖心で震えていた。イヤだ、刑務所に行きたくない。ブルブルと震え出した。刑事はしつこく聞いてくる、お前が大麻をスシに混入させたのかと。お前は絶対に返さない、もしお前が犯人なら5年は覚悟しておけよと言われ、サトミの心が折れた。


サトミは喋った。洗いざらい全てぶちまけた。自分だけが刑務所に行くのはイヤだと、全部喋るから減刑してくれと刑事の腕を取り、泣いて懇願した。通訳が困惑するほどの取り乱しようであった。


ミノル、ショウタ、そしてタクミ。サトミは嗚咽をしながら順を追って話した。


取り調べている刑事は、ケンヂの病室を訪れた刑事と同一人物だった。






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