病院② ケンさんへの手紙
病院滞在4日目にまどかさんが来院してくれた。僕は体を起こしたり、ゆっくりと歩行できるようにはなっていた。
『ハロー?大丈夫?』
『なんかいつも迷惑かけているみたいですみません。家族旅行の邪魔になっていませんでしたか?』
僕は本当に申し訳ない気持ちですと謝罪した。
『いいのよ、別に大したことじゃないわ。あなたは被害者なんだから気にすることはない。』
まどかさんはニッコリと笑ってくれる。僕の怪我に触れて痛そうねと心配してくれた。
『歩けるようになってきたし、もうすぐ退院できると思います。』
僕は膝を曲げ伸ばししたりして元気をアピールして見せた。
『大家さんにも連絡したわ、彼は心配していた。レント(家賃)は今度会った時でいいって。病院にいる間は半額にしておくって言っていたわ。』
ラッキーだったわねとウインクしてくれる。相変わらず笑顔と雰囲気が魅力的で、話しているだけでドキドキする。
『この入院費用と治療費が心配です。』
保険がしっかりと適用されるかどうか、それだけが気がかりですと聞いたら、大丈夫と答えられた。
『この国の被害者救済の決まりで、あなたには国の保険のようなものが適用されるわ。あなたは納税者だし、堂々としていればいい。支払いはたぶんないと思う。」
不幸中の幸いとはこのことで、思わずガッツポーズした。それを見たまどかさんが笑った。襲われて喜ぶ人なんていないわよ、と忠告された。
『それにしても誰がやったんだろう?どうしてケンヂくんが襲われたんだろう?』
まどかさんが純粋に聞いてくる。
『あなたみたいにデカい男の人をわざわざ襲う必要なくない?』
体の小さいアジア人や女性を襲うのなら理解できるけれど、ケンヂくんが襲われるのは不思議だとまどかさんは続ける。
『でも何度か喧嘩を売られましたよ?小さいアジア人に喧嘩を売るのはイジメと一緒だけれど、僕くらいデカいと相手にとっても武勇伝になるから、喧嘩を売りやすいと言われたことがあります。』
根本的にアジア人は喧嘩が弱いイメージがあるんだと思うと言うと、確かにとまどかさんが同意した。
『でも物盗りじゃなかったのが不思議です。僕の財布は取られずにいた。』
へぇと、まどかさんは不思議そうに返事をした。
『何一つ盗られてないのね?』
そうです。単純な愉快犯かも知れないですねと返した。
何か進展があったら教えてねと言ってまどかさんは帰って行った。もう少しおしゃべりしたかったが、今週は3人も日本から来るから忙しいと言っていた。話し相手もいなくなった僕は手持ち無沙汰でなにもやることがなかった。まどかさんに小説か何かを持ってきてもらえばよかったと後悔した。
ふとケンさんのことを思い出した。現地人と比べても見劣りしない体格で、実際にこの国で喧嘩で二人返り討ちにしたという話も持っていた。ケンさんは元気だろうか?そういえばナオミさんにケンさんへ手紙を出したら良いとアドバイスを受けていたのを思い出した。この時間を使って書いてみようかと思い、病院の売店に行き、ノートとペンを買い求めた。
ケンさんへ
お元気ですか?
今頃はパン屋さんの店長さんで忙しくされているでしょうか?
僕はなんとかやっています。僕はケンさんに感謝しています。ワーホリの最初でケンさんに会ったおかげで、周りに流されずに済んでいます。周りは相変わらず、観光気分のワーホリが多いです。彼らは思い出作りに忙しく、毎日遊んだり、飲みに行ったり、パーティーみたいです。僕はケンさんの影響もあって、毎日のように運動と勉強を頑張っています。本当はたくさんの外国人と知り合って、話しながら英会話を学んだ方が良いのでしょうが、僕の性格だとストレスが多いので、家でガリ勉しています。仕事場とジムで英語の実践をしています。僕の英語力もケンさんに負けないくらい上達したと自負しています(笑)
ケンさんのように濃密なワーホリの時間を過ごせたらと今でも思っています。そのために何をしようか、何をすべきか毎日のように自問自答しています。
ケンさんを尊敬しています。
いつかまた会えたら嬉しいです。
返信は無用です。
良い日本ライフを。
橋本ケンヂ
ケンさんと一緒に働いたあの店が大変なことになっていることと、僕が襲われたことは隠しておいた。余計な心配をさせたくなかったからだ。手紙を書いた後、もう一度ケンさんに会いたくなった。あの豪快な食べっぷりをまた見て見たい。日本に帰ったら沖縄を訪ねてみようかと考えた。
いつもご拝読ありがとうございます
もしよろしければアドバイスを頂けたら嬉しいです
作者
遠藤信彦




