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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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3ヶ月後 1997 10月末

"Hey Kenji! What a fucking so slow you are! Push yourself!!"

( おい!ケンヂ! なんでオメーはそうトロいんだよ! もっと頑張れよ!)

”Yes, David, sorry !"

( すみません、デイビッド)


この国に来て3ヶ月が経った。今はお寿司のテイクアウェイ(お持ち帰り・テイクアウト)のお店で働いている。毎朝5時くらいに起きて出勤、6時半から炊飯の準備をする。お米の炊ける1時間で材料の下拵えをし、8時には寿司を巻けようにする。その後はひたすらに寿司を巻いて巻いて巻きまくる。お昼の3時くらいから後片付けをし始める。仕事の終了時間はだいたい4時半だ。


『あなたは若いから経験が無いでしょ?海外だと若いというだけで仕事がないからね。働いてお金がもらえるだけ有難いことよ』

まどかさんはそう言って僕にこの仕事を紹介してくれた。家からバスを乗り継いで30分くらいのエプソンという街にある小さなお店だった。仕事は単純作業だったが、英語ができなかったのでとにかくミスをしまくって、中国人でキッチンマネージャーのデイビッドにしこたま怒られ続けた。デイビッドには散々怒鳴られたが2ヶ月もすると僕の頑張りを認めてくれるようになり、人の流れが早い職場ということもあって、だいぶ仕事を任して貰えるようになった。

" Kenji! next make combinations 10 packs"

(ケンヂ、次はコンビネーションを10パック作れ)

”Sure thing"

(もちろん)

英語にもだいぶ慣れてきた。もちろん仕事で使う狭い範囲で低いレベルの英会話だけれど。僕は大学こそ行かなかったが、勉強はしていたし、高校を卒業してまだ2年しか経っていなかったので、他の日本人と比べて英会話の上達が早かった。勉強しておいて本当に良かったと心の底から思った。英語ができなくて辞めてしまう日本人が多かったからだ(単純作業、肉体労働が合わない元オフィスワーカーも多かったのだけれど)。仕事場は日本人5割、あとは地元民、中国人、タイ人などのミックスで英会話の練習には申し分なかった。

"Kenji, when do you finish this job then go travel?"

(ケンヂはいつこの仕事やめて旅に出るの?)

”Not sure yet. But I'm thinking to keep working here till the end"

(良く分かんないけれど、最後まで働こうと思っている)

"Such a crazy boy! Oh! poor right? no money right?"

(なんてクレイジーなんだ、貧乏なんだろう?金がないからだろう?)

”I can't deny it"

(ん〜否定せんけどね)

こんな会話ができるほどにはなれた。そしてこの会話の通り、僕はこの仕事場でビザが切れるまで働こうとしていた。理由はいくつかある。この国にワーホリに来る人たちはギリホリが多い。日本で働いて、心身疲れてから”ホリデー”としてくるのだ。あの人たちはお金も持っているからそんなに根詰めて働く必要がない。だから必然とこの仕事も勉強もテキトーでなーなーになる。こういう人たちはだいたい3ヶ月英会話学校に通い、3〜4月働いて、1〜2ヶ月旅行して日本に帰るのだ。まるで判で押したように。20歳の僕が30歳の人と同じで良いはずがない。家で勉強しよう、そしてこの仕事場で使うのだ。そしたら今までのように英語が飛躍するに違いない。僕は若いんだから僕には僕のやり方があるはずだ。僕はほとんど遊びに行かなかった。日本人の同僚ともお付き合いはほどほどにしておいた。その方が気が楽だったし(たまにではあったが、心の病気がチクチクとシグナルを送ってくる時もしばしばあったので)、なにより楽しかった。人によってはたくさんコミュニケーションをとって英語力を伸ばすやり方もあるのだろうけれど、僕にはガリ勉タイプが性に合っていた。根が暗いからだと思う。ただ永倉さんは違った。永倉さんは僕にたくさんの影響を与える人になる。


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