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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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仮題 病院 

ただただ天井を見上げている。照明が少しだけ眩しい。


僕は全身の至る所に包帯を巻かれ、ベッドに横たわっていた。首を左右に振ると痛い。仕方なく正面を向いたまま、天井を眺めていることしかできなかった。つまり両目には怪我がないと言うことだ。今のところ視力が落ちているとも思えない。今度は口を動かしてみる。大丈夫だ。口内も顎の骨も損傷はないみたいだ。飲食はできるだろう。手足の指も大丈夫だと思う。今のところ全部あると認識できている。目で見て確認できないが、痛みがないので指は全部揃っていると思う。痛いのは今のところ後頭部、背中、腕、太ももの上側だ。体の背面側だった。

なぜ自分がこのような状態でベッドに寝ているのか理由が分からなかった。記憶を辿ってみるけれど、すべて曖昧で思い出せない。


ここはどこなんだ?


動きやすそうな制服を着た女性が現れた。目線しか動かせないが確認できた。ナースだと言う。そのひと言でここが病院だと認識できた。お腹は減ったのか?喉は乾いていないか?トイレは?などと一通り聞かれた。どれも今のところ必要ない。と簡潔に答えた。うまく英語が出てこなかったのもあるが、ここが病院だと知って気が動転していた。

30分ほどしてさっきのナースさんともう一人、制服ではない格好をした女性が現れ、すこし質問があるが、喋れるか?と聞いてきた。僕は大丈夫だと答えた。まず国籍を聞かれた。日本人と答える。住所や職業をきかれ、それに答えた。次に医療保険について聞かれた。日本で加入しましたと答えた。彼女は僕が答えられたことに満足した。

無駄のない簡潔な質問で本当に助かった。外国人の対応に慣れているのだろう。僕を緊張させずに終始落ち着いた態度で接してくれた。今から日本領事館と警察に連絡すると言い、帰って行った。


しばらくして領事館の職員と電話で話した。ナースさんがコードレス電話をスピーカー機能にして僕の顔の近くに置いてくれた。理由は分からないが、怪我をして病院で寝ている。僕のワーホリのエージェントに連絡してもらいたい。それともし警察がくるのなら通訳が必要だとお願いした。職員さんは了解した、迅速に対応すると言ってくれた。エージェントのまどかさんは家族旅行中だろうから連絡は取れないだろうが、通訳が来てくれる可能性があるのは嬉しかった。


刑事が病院に僕を訪ねてきた。日本人の通訳を連れている。通訳は日本領事館が手配してくれたみたいで、本当に有り難かった。刑事さんにはまず現在の体調を聞かれた。どのくらい長い取り調べになるか分からないが、医師からの許可は得ているので、なるべく今日、全て終わらせたいと聞いてきた。

ワーホリであること、寿司屋で働いていたがお店が営業停止であること。つい先日も刑事さんの取り調べを受けたことなどを正直に話した。

”Why you were there?"

(なぜあの場所にいたの?)

との問いには

”I was told, we had staff party at that Malaysian restaurant。But no one there."

(マレーシアレストランでスタッフミーティングがあると言われたので行った。でも誰もいなかった。)

と通訳を介さずに英語で答えた。

刑事さんが質問をやめ、しばらく考えていたように思う。実際には首を動かせず、僕は彼の顔を見れないので分からないのだが、沈黙の時間が長かったように思えた。

”So、No one there right?"

(誰も居なかったんだね?)

”No one there. Because restaurant was closed."

(誰も居ませんでした。レストランも閉まっていましたし。)

僕の答えのあとに同じくらい長い沈黙があり、次に刑事さんはなぜ自分が別の日に警察からの取り調べを受けたのか聞いてきたので答えた。

刑事さんは取り調べの最後に説明してくれた。僕は何者かに襲撃されている。医師の説明によると打撲が主な怪我で、特に後頭部と背中が大きな傷であること。骨には異常はない。これは刑事事件になると説明してくれた。所持品の紛失はあるかとの問いに、あの日は財布と腕時計だけだと説明したら、ビニール袋を見せられ、これか?と聞かれた。財布の内容物の説明を受けて、たぶんその通りだと答えた。何も盗まれていないと思うと答えた。


僕にとっては長い時間の取り調べで、終わった後にはぐったりと疲れていて、そのまま眠ってしまった。通訳さんにもお礼を言ったのか覚えていない。失礼がなかったか心配した。

なぜ僕はこんなところにいるのだろう?。なぜ僕は何者かに襲撃されたのだろう?。ずっとそのことを考えていた。考えるしかできなかった。他には何もできなかった。



天井を見上げること。寝ること。そして考えること。僕にできるのはその三つだけだった。









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作者

遠藤信彦


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