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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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仮題 襲撃

元旦からジムに通った。1日、2日と祝日だがジムは開いている。クリスマスと違って正月を祝う人は少ない。正月はクリスマスに付いてくるおまけみたいなもんだ。12月はナオミさんと過ごすことが多く、あまりジムには行けなかったので、体が鈍っていた。

いつもより激しいトレーニングをした。そうでもしないと不安で仕方がなかったからだ。海外で無職になるかもしれない。貯金はそこそこあるが、でも高が知れている。そう遠くない日に底を打つだろう。考えないようにしようとすると、逆にそればかりを考えてしまう。スクワットにどれだけ高重量で負荷をかけても、不安を取り除くことができない。ベンチプレスも同様だ。こんなに集中力がない状態でフリーウエイトは危険だと判断してトレッドミルを走った。最初は10分も走り続けることができなかったけれど、走ったり、歩いたりを交互に続けていると段々と長い時間を走れるようになった。2時間ばかり走ったり、歩いたりしていたら、ジムのスタッフに今日は止めたほうがいいと忠告された。たぶん死んだような顔で走り続けたからだろう。そのスタッフに止めてくれてありがとうとお礼を言ってジムの外に出た。

ジムを出ていつも通りプールに行った。ジャグジーやサウナが目的だったが、気分を変えて泳いでみた。ゴーグルがないので、もっぱら平泳ぎだったが、1kmほど泳いだらとても心地よい疲労感が出てきた。ジムで2時間走った後の水泳だったので、相当な体力を使ったはずなのに僕はまだまだ元気だった。たぶん、不安が感覚を麻痺させているのだろう。


ジャグジーにつかり、目を瞑ってナオミさんのことを考えてみた。今頃は大阪でこたつにミカンと洒落込んでいるのかもしれない。神社へお参りに行っているのかもしれない。両親の肩を揉んだりして親孝行をしているのかもしれない。

『いい?私が関空に着くまでは私の恋人でいてね。』

あの日そう言ったナオミさんに僕はもちろんと答えた。なので、僕たちは今は恋人同士ではないということになる。

『関空に着いたらあなたの事を忘れる。そうしないと前に進めない。』

ナオミさんはそうも言った。今頃は僕の事を忘れて、次のワーホリについて考えているのかもしれない。ナオミさんは美人だし、手に職があるし、きっと次のワーホリは楽しいものになるに違いない。金髪で碧眼のボーイフレンドを作って、労働ビザかパートナービザをゲットして、そのまま永住するかもしれない。子供が生まれて国籍変更するかもしれない。彼女の性格だとあり得る。

ナオミさんがいなくなったことはとても残念だけど、同時にとても嬉しかった。矛盾しているのかもしれないが、大好きな人が前を向いて、目標に向かって前進しているのがとても嬉しかった。僕もそうありたいと思った。

ふと、ナオミさんに頼まれた荷物と手紙のことを思い出した。一緒に行った旅行先で買った絵ハガキをいつ出そうと考えた。年末年始は荷物の紛失が多いし、たとえ送れても先方に届くのに1ヶ月くらいかかるのはザラなので、二月に入ってからにしようかな?それとも三月が良いのかな?その時に一緒に絵ハガキも出そうかと考えた。そういえばあの時ナオミさんにアドバイスされたことを思い出した。ケンさんに手紙を出したら良いと。家に帰ってケンさんに手紙を書こうと決めた。


フラットに帰ると部屋のドアにメモ書きがあった。仕事先からの電話だったみたいだ。スタッフの慰労会と今後の予定について話し合うので、1月5日はマレーシア料理店でスタッフミーティングをする旨が書いてあった。誰が電話を受けてくれたのか、誰からの電話なのかは分からなかったし、特に気にも留めなかった。


当日指定された場所に行ってみた。マレーシア料理店は確かにあったのだが、しばらくクリスマス休暇のため、休業の張り紙が貼ってあった。不思議に思いながら、どうしようか思案していると後頭部に衝撃を受けた。僕はそのまま失神したみたいだった。



目が覚めるとそこは病院のベッドだった。後頭部に激痛が走る。動けない。喋ろうにも口が上手に動かない。何者かに襲撃され、全治一ヶ月の傷を負う。それを理解できたのは次の日の午後だった。











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