旅行
ホテルから近いところに貸し自転車屋さんの出張所があり、自転車を2台借りた。山の中を走れるマウンテンバイクにして貰った。ハーフパンツとスニーカーに着替えたナオミさんは背が高いこともあって、マウンテンバイクがとてもよく似合う。ナオミさんは中学、高校とバレーボール部のキャプテンだったらしく、スポーツには自信があるみたいだ。学生時代のキツいトレーニングのおかげなのか、それとも毎日の厳しい立ち仕事のおかげなのかは分からないが、ナオミさんのふくらはぎはキレイに大きく発達しており、彼女がどれだけ過去頑張ってきたのかが見て取れる。
僕たちのレンタル自転車は4時間で返却しなければならなかったので、僕とナオミさんは話し合いの結果トレイルと呼ばれる未舗装の山道と、一般道を繋いで湖を半周だけするコースを選んだ。
『ナオミさんの後をついていきますね、僕は典型的な地図が読めない男なので、全部任せます。』
と、僕は笑いながらナオミさんに全権を委ねた。ナオミさんはこの街に来るのが3回目なので、ある程度土地勘がある。
『わかったわよ、ちょっとだらしなくない?男の子なのに!』
ナオミさんは少し不服があるみたいだ。どうやら男性に引っ張って貰いたいらしい。他のところで頑張るから、勘弁してとお願いした。
右手に湖を見ながら自転車を漕いで行く。日差しは強いが風が冷たいおかげで気持ちがいい。自転車専用レーンも幅広に取られていて、安心してスピードを出していける。車の運転者たちも自転車には慣れたもので、危険な追い越しなどなく、とても安全でスムーズだ。
とても気持ちいい、自転車に乗るなんて高校以来かもしれない、連れてきてくれて本当にありがとうと大きな声でナオミさんに伝える。ナオミさんはスポーツマンの血が騒いできたらしく、スピードを出すのに必死で親指を立てて返事をしてくれただけだった。あとでちゃんとお礼を言おうと思った。
10分もしないうちに自転車を山に乗り入れていく。湖とは反対の方向になる。未舗装の道なき道を走るのだが、初めてなのでどうもうまくいかない。尻を浮かし、立ち漕ぎの状態で山を登っていく。途中ハンドルを取られたり、登坂がきつくて自転車を押さなければならなかったり、大変だったが、自転車自体は高価な高性能な物だったおかげで概ね楽しめた。1時間もしないうちに山道の運転も要領を得てきて、スピードも出せるようになった。
運転が慣れてくると景色を楽しむ余裕が生まれてきた。この国にしかない植物や高台から見下ろす湖を見てとても感動した。山を下り切ると再び湖に出たので、カフェに寄った。
『晩御飯が食べれなくなるからたくさん食べるのは控えようか?』
ナオミさんが判断に困ると言う。自転車をたくさん漕いでお腹が減ったし、さらにこれから先もずっと漕いでいくのに、空腹だと辛いのだという。
『食べちゃいましょう。仮にナオミさんが夜ご飯食べれなくても僕が代わりに食べてあげます。』
『絶対にあげないから。』
ナオミさんはそう言って手を繋いできた。ナオミさんがずっと見つめてくるので恥ずかしくなった僕は視線をメニューに移し、何を食べたいか聞いた。甘くてすぐにエネルギーになるのがいいとパティシエらしい意見を言ってきたので、彼女にはフルーツがたくさん入ったクレープと紅茶を頼んだ。僕はチキンとクランベリーのパニーニを、飲み物は炭酸水にした。
食事をしながらナオミさんに海外で乗る自転車がこんなにも楽しいものなんて想像もできなかったと言った。ナオミさんはうんうんと頷き、わたしもそうだった、初めての時は本当に感動したと答えた。僕には旅をする才能が本当にない、と打ち明けた。
『実は旅をするって少しバカにしていました。』
『たしかに、みんな判を押したように同じような旅をするもんね、私も人のことは言えないけれど。』
ナオミさんがクレープにたっぷりと生クリームを塗って口に入れる。とても美味しそうに食べる。
『死んだ魚の目をしているワーホリは同じ行動をする。だっけ?』
ナオミさんが続けた。僕はケンさんのことを話した。この国でもっとも影響を受けた人だ。
『手紙を書くといい。君の心の中にあるモヤモヤしているのも整理できるかもしれない。』
その発想はなかった。男に手紙を出すなんて考えもしなかったと言ったらナオミさんは微笑んでお礼のキスをせがんだ。僕たちはキスをした。
湖半周旅行を4時間ギリギリで終えた僕たちは自転車を返し、ホテルに戻った。流石にヘトヘトだった。
『シャワーを浴びて少しお昼寝しましょう。そのあとは街を歩きながら夕食を探しましょうね。』
ナオミさんの言う通り僕たちはシャワーを浴びて2人で抱き合って昼寝をした。とても深い眠りだった。
夕方前に起きるとシャワーを浴び直し、歯を磨いて外に出た。観光地らしくお店はまだ開いており、2人でお土産を探した。蜂蜜やお酒などの定番品や、アクセサリーなどを見ているとナオミさんが絵はがきを手に取り、僕にお願いがあると言った。
『さっきケンさんに手紙を出すって言ったわよね?お願い、私にも手紙をちょうだい?一度でいいの。』
『なんどでも出します。』
僕は本心からそう言った。ナオミさんは嬉しい、でも一度でいいのと言ってこの街の湖の写真の絵はがきを一枚買って僕にくれた。この絵はがきがいい。これを送ってくれたらとても嬉しいと言った。
『絶対に送ります。約束します。』
ナオミさんはとても嬉しそうだった。
夕食を済ませたあとふたりで部屋のジャグジーを使った。石鹸をたくさん入れすぎて泡が溢れそうになった。ふたりは裸で抱き合い、湯船につかりながら色々な話をした。話をしながら僕たちはたくさんのキスをした。お互いの存在を唇で確かめるように細部まで唇で確認した。ナオミさんは何度も僕を求め、僕も何度もナオミさんの中に入り、求め答えた。ナオミさんが両手で僕の頭にしがみつく。耳を噛みながら囁く。
『私の恋人。』
僕の体はもっと激しく躍動する。もっともっと答えてあげたい。
いつも僕の作品を読んでいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ、作品の評価、アドバイスをして頂けたら嬉しいです。
より良いものにしていきたいと思っています。
作者
遠藤信彦




