帰阪
登山の翌日は帰阪の予定だったが変更した。登山途中で見たパラグライダーや、ハンググライダーをやっていた高原まで足を運んでみることにしたのだ。実は昨日の登山まで地元でハンググライダーや、パラグライダーができるなんんて知らなかったし、考えもしなかった。場所もなんとなくしか分からなかったので、父に聞いてみると教えてくれた。あの場所は昔から有名だと笑われた。僕は何も知らなかったみたいだ。あの高原までは直線距離で言うと家から遠くないが、高原に出るまでのアクセスがめんどくさいらしい。それでもあの重たそうな機材を持って高原に出れるんだから、大丈夫だろうと高をくくって家を出た。
両親から借りた車で近くまで行ってみたのだが、高原まで直接車で行けるわけではなく、歩いて行くしかなかった。
『なるほど、確かに楽ではないな。それなりに重い道具を担いで高原まで行かないといけないのか。』
横を見ると40代の夫婦とみられる2人組が重たそうな荷物を持って歩き始めたので、女性の分を持ってあげた。ありがとうとお礼を言われた。見学しても良いかと聞いたら、もちろんと良い返事がもらえた。
『空を飛ぶのってどんな気持ちですか?』
と女性の方に聞いてみた。
『そりゃぁ、気持ちいいさ!俺は足を2回も折っているけどね、やめられないよね。』
男性が横取りして答えた。心から楽しそうだ。はぁはぁ言っていて、しんどそうではあるけれど。
『俺も妻もすっかり虜になってね、もう7年も続けている。道具も安くないのを揃えた。もう戻れない。』
よっこらしょっと荷物を持ち直して奥さんの方を向く。奥さんが頷いた。どうやら旦那がおしゃべり役の外交官で、奥さんが寡黙な総理大臣といったところだろうか。
『やめてって散々お願いしたのに、やめないもんだから。試しに私もやってみたら・・・。』
『妻の方が100倍才能があったんだ。』
夫婦はお互いを見合って爆笑した。とても仲が良さそうだ。
『妻は年齢別の大会で2度入賞した。』
旦那さんが大汗をかき、メガネを曇らせなら誇らしげに言った。よっぽど奥さんが自慢なのだろう。
『私の道具、旦那のより少し高いんです。』
もう一度夫婦で見合って爆笑していた。素敵な夫婦だ。
10分ぐらいで高原に出た。たったの10分だったが、荷物が重かったので、汗でびっしょりだった。お礼にと奥さんからスポーツドリンクを貰った。邪魔にならないようにと隅っこに陣取り、座って2人の準備を眺めていた。旦那さんは黄色の派手なパラグライダーで、奥さんの方は可愛らしいピンク色だった。この日はハンググライダーが3名、パラグライダーが夫婦を入れて5名いた。インストラクターらしき人も混じっていた。
夫婦が飛び始めた。風を操ると言う表現がぴったりで、彼らは鳥そのものだった。奥さんはとても上手に飛び、旦那さんの方もとても上手に、豪快に飛んでいた。どうやら謙遜していたみたいだ。2人とも素人目から見ても凄かった。
1時間ほどでみんな帰り支度を始めた。僕にはよく分からなかったが、どうやら風の調子が悪いらしい。みんな上手に飛んでいたのにというと、
『こういうのはね、執着しちゃダメなの。少しでもマイナスな条件ならスパッとやめちゃうの。』
奥さんが説明してくれた。
『楽しい!って思っている時にストップをかけるのも良いことなのよ?楽しさを次回に持ち越せるからね。事故防止にもつながるしね。』
僕は帰りも荷物を持たしてもらった。相手が恐縮していたが、とても良いものを見せてもらったし、素晴らしい夫婦仲を祝福したい気持ちでいっぱいだったからだ。
荷物を車に乗せたところで次回の講習会について教えてもらった。残念だけど大阪に帰らないといけないので、それには参加できないと伝えた。だが、僕もいつか空を飛びたいですと伝えた。夫婦はにっこり笑って、別れの挨拶をしてくれた。
『僕もいつか空を飛びたいです。』
帰り道、車の運転中に何度も反芻した。僕もいつか空を飛びたいですと。何度目かの繰り返しの後言い直した
「僕は空を飛びたいです。」
家に帰ってからすぐに帰阪の用意をした。実家には1日多く滞在したかたちになった。両親も喜んでくれたし、何より素敵なパラグライダーの夫婦も見ることができた。満足だった。すぐにでもリカさんに会いたかった。会って抱きしめたかった。あの夫婦の影響だろうか?僕の方から彼女を抱きしめたかった。
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作者
遠藤信彦




