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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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1996年 8月 帰郷②

久しぶりと言っても半年足らずだが、実家に帰省した。


両親は僕の帰省を喜んでくれた。土産話をしてくれとせがまれた。とても良い気分だった。僕は自動車を作る仕事がどれだけ大変かを滔々と語った。両親は嬉しそうに聞いてくれた。母は息子が病気前のように元気になっているのを見て安心したようだ。少し痩せたようだが食事はできているのかと心配してくれた。僕は今の仕事場で痩せないやつはいないと答えた。少なくとも組み立てのライン工員で太った人は見たことがないと答えると、そんなキツい仕事が続いているのは立派なことだと褒めてくれた。


母がお好み焼きを作ってくれた。専門店よりも大きなサイズのお好み焼き。大好きなお好み焼きだ。具は日によって違うが、肉は豚肉でキャベツがたくさん入っていて、蕎麦かうどんが入っている。大阪風と広島風の合いの子みたいな作り方だ。たっぷりのソースに青のりとおたふくソース、鰹節がのる。マヨネーズか、辛子マヨネーズを付けて食べる。とても美味しい。

母は特別な日にはお好み焼きを作ってくれる。ステーキとかすき焼きとか値段が張るものじゃなく、庶民的なお好み焼きなのが母らしい。

いつものようにその巨大なお好み焼きの2枚目をペロリと食べ終わると、母がとても嬉しそうにもう一枚焼くか?と聞くので、もちろんと答えた。自分でも食べ過ぎだと思ったが、母の嬉しそうな顔を見ると不思議ともう一枚食べたくなった。


食事の後は家族会議になった。僕の今後のことだ。両親は僕の進学のことは既に諦めていた。父は大阪の仕事がひと段落したら地元に帰って就職して欲しいと言った。母は今の仕事を続けて期間工から社員の道を目指しても良いのじゃないかと言った。どちらも興味がなく、どうしても海外に挑戦してみたいと改めて両親に伝えた。今、大阪で働いているのもそのためだと。


僕は正直に伝えた。今の期間工ではとても良いお給料を頂いている。周りの19歳と比べるととても多い。だが、想像以上に寮費や食費などにお金がかかっている。貯金も期待ほどできてはいない。実家に帰ってくるかもしれないと。

両親は結論を出すのは今日である必要はないといい、期間工としての契約もまだあるので、しばらく様子をみることになった。旅疲れもあって初日はそのまま寝てしまった。


翌朝は早く起きて草むしりをやった。朝とはいえ既に蒸し暑かったが、草を抜くという単純作業に夢中になった。気持ちが良かった。

実家は大工だった祖父が建てた。父方、母方、両家とも巨人一族であったので、祖父は天井はもちろん、台所やドアノブの位置なども全て高く設定して建てた。庭も広く、小さな畑やチャボが飼える鶏小屋、焼却炉などがある。その広い庭にたくさんの雑草が生えている。帰阪までにこの草を全部抜こう。両親も喜ぶはずだ。僕には特に会いたい人がいなかったし、草むしりは考え事するにはとても良い作業だった。



リカさんのことばかり考えていた。草をむしりながらリカさんは今頃何をしているのだろうと考えた。一昨日会ったばかりなのに、もう会いたかった。あの日、星の形をした新しいピアスをもっと褒めれば良かった。バイクの運転が大人しくなりましたねと言えば良かったと後悔した。今日も素敵ですねが言えなかった。一瞬電話をしようと思ったが、思いとどまった。彼女は今頃映画をみたり、本を読んだり、料理をしているだろう。もしかしたらボーイフレンドと会っているかもしれない。


リカさんがボーイフレンドと会っているところを想像する。ボーイフレンドがリカさんと楽しそうに喋っている。彼の腕はリカさんの肩を抱いている。リカさんは喜んでその顔を彼の胸に埋めている。


いつも不思議に思う。僕は全く腹が立たない。こんなにも彼女を求めている。今すぐにでも会いたいのに。


どうしてだろう?と何度も考えてみたが答えはわからない。この気持ちの根底にあるものは何だろう?草を毟ってみた。たくさんの土と共に根っこから取れた。あと1000本も草を抜けば答えは分かるかもしれない。

ご拝読ありがとうございます

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作者

遠藤信彦

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― 新着の感想 ―
食べ物の描写もすてき。 ホカホカのお好み焼きが脳内から離れない。 ケンヂとリカさん、うまくいくといいなー。
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