仮 無題2 告白
『それで君は海外に出たいのね?』
僕の寮に近い町中華で2人で夕食を食べている。エビチリと餃子が自慢のお店だった。こじんまりとしたお店で、カウンターやテーブルは赤基調というか、紅色基調のよくあるタイプで、壁一面にメニューの札がが貼ってある。”当店自慢の〜”とか、”伝統の〜”とか、いちいちうるさい。が、味はとてもおいしい。リカさんは滅多に中華を食べないらしく、しばらくメニューと睨めっこをしていた。エビチリと餃子が自慢らしいですよと僕は繰り返したのだが、聞く耳持たず、考えながら唸っている。
『オーケー、このお店のメニューの並び、値段から鑑みて本当に売りたいのは麻婆豆腐と酢豚ね。餃子は5番目くらいに売りたい商品のはずだわ。エビチリは利益が出なさそうだから注文したら可哀想。』
『なに分析しているんですか! ”鑑みて”なんて久しぶりに聞きましたよ!食べたいものを食べたらいいんですよ!』
『シャラップ。酢豚プリーズ。』
僕は酢豚と麻婆豆腐と白いご飯を注文した。被せるようにサンラータンも!と、リカさんが注文した。悪くない組み合わせだが、食べ切れるのかなと心配になった。
今日のリカさんはとても大人びたお化粧をしていた。僕にはそれが何かはわからない。アイシャドウ?というのだろうか、リカさんの目の周りには紫色のお化粧を少しだけ使っている。かっこいいロックバンドの歌手みたいだった。いつもとは違う雰囲気ですね、と僕が尋ねると、彼女は強い目線で僕にロッケンロールとだけ言い放った。全くもって意味が理解できなかったが、こういうところがリカさんと一緒にいて飽きないところだった。
あの日あの部屋で、2人きりで抱き合って寝たんだなと思い出すと、なんだか不思議な気持ちがした。2人の間はごく自然だった。ぎこちなさもない。むしろ今までよりもスムーズにコミュニケーションできている。お互いに壁を取り払って、向き合うってこういうことなのかな?と思えてきた。とても素晴らしいことだと思った。以前よりも100倍楽しく感じた。そしてリカさんのことを1人の人間として100倍好きになっている。以前は僕のことを男性と思ってくれなくて、少しだけ残念な気持ちがあったが、今ではそんな気持ちは全くなくなっていた。付け加えるともう一度リカさんを抱きしめたいという気持ちも全くなかった。これが一番不可解であり、謎だった。
100倍好きになったのに、全く体に触れたいと思わないのは何故だろうか?これがもしかして性別を超えた”尊敬”という気持ちだろうか?あくまでも推測ではあるが、僕が彼女を抱きしめる行為を求めたのなら、彼女はそれに嫌な反応は示さないだろうと思う。素直に受け入れるだろう。僕が抱きしめる行為以上のことを彼女に求めないことを知っている筈だから。でも僕は求めない。理由は自分でもわからない。
『海外で何をするの?』
リカさんは重ねて聞いてきた。リカさんの表情がとても明るい。きっと僕にやりたいことがあるのが嬉しいのだろう。目がキラキラしている。とても綺麗だ。
『高校の時になんとなく、ぼんやりとした目標があって、それは大学に行くことと、一年休学して海外に挑戦することでした。』
大学には行けなかったけれど、と付け加えた。進学をしなかったことを思い出すと、悲しんだ顔の両親の顔が思い出される。とても辛そうだった。僕がすこし暗い顔をしたのを見てリカさんは頷いた。
『夢があって、それを叶えるために大阪まで来たのね?』
『今まで言えなくてごめんなさい。恥ずかしくて。』
サンラータンが最初に運ばれてきた。まずはスープなのね、とリカさんは嬉しがった。僕はスープを取り分けた。
『本当に気が利くわよね。もしかして心は女の子なの?』
『女性が好きです。今のところは。』
僕はサンラータンが激熱なのを知らないで口に入れてしまい、口をハフハフさせながらお水をくださいとジェスチャーでリカさんに頼んだ。
『うわぁ、すっごく美味しいけど、マジで熱い!口の中がヤケドしたかも』
リカさんは笑ってくれた。
『この店はサンラータンが美味しいんじゃないか?って睨んでたんだよね。私の勘は当たったわ。』
『?メニューを戦略的に解剖して、科学的に答えを導いたんじゃなかったんですか?』
僕はびっくりして聞いた。
『馬鹿ね、そんなの分かるわけないじゃない。勘よ、勘。私はね、エビチリが好きじゃないのよ。』
リカさんが笑って言った。僕も笑った。信じた自分が馬鹿だった。
『酢豚と麻婆豆腐は好きなんですね?』
『大好きなの。中華はめったにこないけど、その二つはよく食べるわ。』
メインの酢豚と麻婆豆腐が運ばれてきたので、話は一旦中断し、食べることに集中した。このお店のおすすめのエビチリが嫌いと言われた時には、お店のチョイスを間違ったと気が気でなかったが、酢豚も麻婆豆腐もとても美味しかったので、リカさんは満足してくれた。
お店を出てから公園を散歩をした。リカさんがそう望んだからだ。
『本当は家でケーキでも食べながらお話したいんだけれど、ケンヂが私に何をするかわかったもんじゃないんで、怖くて招待できないのよ。』
リカさんは困った顔ををしながら僕の顔を覗き込んだ。腕を組んでピッタリとくっ付いてくる。ダメだ、この人はぶっ飛んでいる。頭の良い人ってみんなこんな感じなのかな?
『怖いのにくっ付いてくるんですね?、新しい詐欺師の手口ですね。』
『嬉しんやろ?もっとくっ付いたろか?』
そう言ってもっと強く腕を組んでくる。
『こんなに関西弁が似合わない人も珍しいですね。』
『仕事場ではもっと上手に関西弁を喋るのよ?信じられないでしょう?」
自動販売機でホットコーヒーを買い、ベンチに並んで座った。
『もっと少年の夢を聞かせて?』
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遠藤信彦




