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橋本ケンヂは飛ぶ  作者: 遠藤信彦
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人生を変えたくてケンヂはワーホリに挑戦した、でも何かになりたいわけでもなかった。僕は僕でいたいだけだったんだ。

エピローグ



『ジョン、早くこいよ!』

『ケンヂ!待ってくれよ!早すぎるって、どんなに早く着いても日の出の時間は一緒だから!』

早朝の5時、アディダスの黒のランパンに青のランニングシャツのケンヂと最新のナイキの上下を羽織ったジョンは未舗装のシングルトラックを山の頂上に向けて走っていた。あたりはほんの少し明るかったが、足元は流石に暗く、ヘッドライトで足元を照らしながら慎重に足を進めていた。歩を進めるうちにだんだんと明るくなってきて、二人が頂に到着すると同時にオレンジ色の眩しい光と共に太陽が現れた。

『俺は生きているぞ!』

ケンヂはそう太陽に向かって大声で叫んだ。

『ん?なんて言ったんだ?ケンヂ! 女の名前か?』

『ちげーよ! 俺は生きているって言ったんだよ。 I'm still alive」

『見たら分かるよ、バーカ!』


そうじゃないんだよ、ジョン。ケンヂは小さくそう呟いて、ニヤッと笑った。

そうだ僕は生きている、まだ僕は生きているんだ

1997年7月13日 20歳


 たっぷりと荷物が入った60リットルのバックパックが小さく見える、大きな体のケンヂは不安を隠せない表情で飛行機を降りた。マーリックビルの空港に着いたのだ。

初めての飛行機、それも1万キロの長旅だ。疲労感ともう後戻りはできないんだなという軽い絶望感だけで、ワクワクすることはなかった。不安しかない。でも大丈夫だ。ケンヂはそう自分に言い聞かせた。なぜなら少し高額ではあったが、ワーホリエージェントに登録しておいたのだ。その方が両親も安心するし、万が一の死亡事故あってはならないがあっても安心して成仏できる(笑)。たしか誰かが空港に迎えに来てくれているはずだ。


荷物を受け取り、チェックを済ませてゲートを出ると


『ドリーム・アソシエーション まどか』

そう書かれたキャンバスノートを広げた30大半ばの女性が立っていた。


『ケンヂくん?こんにちは、初めましてまどかです』

『こ、こんにちは、ケンヂです』


まどかさんは薄く色褪せたジーンズに白いスニーカー、上は黒のダウンジャケットで現れた。髪は少しウェーブのパーマがかかっており、色の白い綺麗な人だ。金のネックレスが良く似合っているなと思った。


『緊張しているの? 海外は初めてだっけ?』

『緊張しています!! さっきの空港のイミグレーションも、荷物の検査でも全く英語理解できませんでした(涙)』

『そんなの初めから分かるわけないじゃない(笑)、いい? 少しづつよ、少しづつ分かるようになるの』

年下の自分がいうのもなんだが、とても可愛い笑顔で一気に好きになった。この人がエージェントなら、きっと上手くいくだろう。足取りも軽くなってまどかさんの車に向かうのだった。


                  


 空港から町に向かう途中でまどかさんはいろんな話をしてくれた。この国のルール、マナー、習慣など。

僕は初めて見る異国の風景を食い入るように見ながら、まどかさんとの会話を楽しんでいた。まどかさんは話が上手だった。人の好奇心を上手に煽り、今後の生活に期待を持たせるような話し方をしてくれた。大丈夫、絶対にうまく行くとあらためて自分の心に言い聞かせているといつの間にか寝てしまっていたようだった。

起きた時はBBベッドアンドブレックファーストと呼ばれる宿の駐車場の前だった。


『起きた?そうよね、疲れるよね』

『ごめんなさい、寝てました、せっかく色々と教えてもらっていたのに、失礼しました』

『何言ってんの、いいのよ、そんな事』


 車のトランクからバックパックを取り出し、2人は宿に入った。ホストの夫婦が笑顔で迎えてくれた。色々話してくれたが、全く理解できない。まどかさんに頼る。ワーキングホリデーをエージェント無しに一人で来る人も多いが、僕とは人生の経験も勇気の多さも桁違いなんだろうな。まあ比べても仕方ない。僕はまだ20歳でできない事、知らない事の方が多いのだ。

『とりあえずここには5日間滞在するわよ、その間にフラットと働くところを見つけるからね。今日はOFFにしておくから、散歩でもしてきなさい。私は他の子のお世話があるから行くわね』

まどかさんはウインクしながらそう言って颯爽と去っていった。外国が長いとウィンクなんて朝飯前なんだろうなとつまんないことを考えてみた。


 まどかさんのアドバイスに従って、散歩をしてみる気になった。正直怖くて遠出をする気にはなならない。

『そうだ、コンビニを見つけよう。地図があるはずだ。地図を手に入れて少しづつでも良いから行動半径を広げよう。

『少しづつ』が口癖になってきていると思いながら、コンビニを探した。

”Can I have a this one please”

(これくださいな)

一番簡単で、一番大きな市内の地図を手に取り、定員に渡しながらなるべくハッキリと発音した

”Sure, it's $2.60 thank you”

(もちろん、2ドル60セントになります)

やった!!通じた!!俺の英語通じた!!

天にも昇る気持ちっていうのはこのことなんだろうな、ケンヂは頬が緩みっぱなしになりながら、自分の英語が通じたことの喜びの余韻にいつまでも浸っているのだった。









この小説を書き上げながら、同時に後書きを書いている。この文章がこのまま載るのか、それとも途中で削除するのかはわからない。僕のこの人生で最初の小説は形になるのだろうか?

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 初めまして、濃州関丸と申します。 私もワーキング・ホリデーに行ったことが有ります。 2008年7月~2009年6月までカナダのバンクーバーで一年間滞在しました。 ただ、語学学校に半年間行ってからアル…
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