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01 THE クラウチングスタート

「ねえ、菅野、生徒会やんない?」

担任の先生のその一言が、私の人生を大きく揺るがしたのであった。




「は?^^」

私は訊き返す。だが先生は、

「だから、生徒会。ちょっとやんないかな~って、誘ってみようと思ったんだけど。」

と、スラスラと答える。畜生想定の範囲内ってとこか。

「・・・まあ、考えておきます。」

私はうつむく。


2年の秋と冬の境目。校庭の木がハゲて来る頃。in三者面談。

予想外だった。1年ちょっと先の高校受験のお話で私の頭はいっぱいだったから。

わかんなかった。そんな、急に生徒会のこと、話されるなんて。


寝る前、私は暗い天井を見つめながら 先生に言われたことをぼんやりと思い出す。

生徒会ね・・・。

思ってもいなかった。


私は生徒会本部、の下の給食委員に所属していた。

給食委員は1年生の時からやっていて、2年生も仕事に遣り甲斐があると思ったので続けた。

私は給食委員の個人的な活動として、「完食」という運動を掲げている。

書いて字のごとく、「給食をすべて食べ切る」活動である。

私がこの運動をしている理由、

 世界には飢餓に苦しんでいる人々もいる、その人たちのことを思うと残飯を残すのはもったいないと思う。

 給食を作ってくださっている方に、感謝の気持ちを込めて残さず食べる。

 給食は義務教育9年間が終われば、もう一生 給食を食べないという人も少なくは無いので、給食を大事にしてほしい。

主な理由は、こんな感じだ。

私のクラスの2年3組では、この活動がだいぶ普及してきてくれて嬉しく思っている。


そんな、給食委員。

それを手放すのは、少しばかり惜しい気持ちがするけども。

どうしようか・・・。






寒い。

最近、どうもおかしい。

地球温暖化とか、どこ行ったんだよ、ってくらいに、今朝は寒い。


そんな朝。私はだらだらと歩く。

生徒会のことも、ちょっとは頭の隅にあるけど。

立候補期間は あさってまで。

いきなりだよなぁ・・・。と、私はマフラーに顔を埋める。


国道の横断歩道を渡ったとき、ふっと私の前を人影がよぎる。

私は顔を上げる。横顔が見えた。

「あっ、松本」と、私は声を上げる。

その瞬間、通り過ぎようとした横顔は私を見据えて、「おう。」と言った。


「相変わらず無愛想だな。」と、私はニヤニヤする。

松本はむっとしたように私を睨み、「黙れ、カツラ。」と言った。

はいはい、カツラね。と、私は流し目になる。


カツラ、というのは私のあだ名である。

私の前髪(猫毛)がニョロニョロしていて、エクステのようになっているから。

エクステ・・・から、カツラ。なんともダサいあだ名である。

しかし私はそんなことはどうでもいい。なんと呼ばれようが私は私なのである。


松本は嫌そうに足早に歩く。

私はホントかわいくねーなコイツ。と、松本の後姿を見る。

松本、何か用があったような気がする。なんだっけ。

余計なことが脳の中で渦巻くから、私の歩くスピードは、緩む。


「あッ、」と、私は声を上げる。

でも、もうその時には、松本は30メートルほど先を歩いていた。

「松本!」

私は松本を呼ぶ。確かに、冷たい空を切り裂く空。

だけど、届かなかったのか。もう一度、「松本ぉ!」


松本はしぶしぶ私を振り返る。眉をひそめて、「何?」と私を見る。

「お前さ、今年も生徒会やんの?」

松本は、いぶかしげに私を見る。

「は?」松本は顔をしかめた。

「・・・んー。」と私は うなる。次の私の言葉が出る前に、松本は、

「・・・わかんねえ、」と、それだけ告げて、歩き始めた。




松本。

2年2組。隣のクラスで、生徒会役員。

新しく生徒会に入る(まだ決まってはいないけど)私にとっては 先輩となる。

顔立ちもそこそこよくて、勉強の成績は定期テスト常にTOP10をキープする。

しかも、運動神経もよくて、サッカー部部長。で、生徒会。

ありえん。裏番みたいな感じ。と、みなさん思ってらっしゃるかもしれないが、

こいつ、ドスケベである。


ドM。

しょっちゅうクラスのDQNに手足を縛られて ニヤニヤしている。

しょっちゅうトイレでDQNにズボンを脱がされて、ニヤニヤしている。

しょっちゅうエロ話を耳打ちされて、ニヤニヤしている。

ちなみに、この間は同学年の某男子にキスされたらしい。そのときもまた、ニヤニヤしている。


もったいないなー・・・と私は思う。

ちなみに、彼の友人いわく、「松本のプロフィールに書くことといったら『生徒会』か『エロ』しかねえ」らしい。

禿同である。




松本と同じクラスの友人に、昼休み 有力な情報を伺えた。

「えっ、立候補するって?」と、私は水道の蛇口を閉めながら言う。

友人はこくこくと頷いて「うん。」と言った。

「訊いたの?松本に。」

「いや、見た。」

「はあ?」私は顔をゆがめる。そして、手のひらをグーパーしながら、指先から水を飛ばす。

「うん、あの、立候補の決意表みたいなの。あれ、選挙管理委員会の人に提出してたし。」

「ふ~ん・・・」と、私は頷く。やはりな、と、心のどこかで頷く自分と重なる。


今朝、松本に生徒会をやるかどうか尋ねたのは 別に、松本がやるから私もやる。とか、そーいう意味ではない。

超エリート(スケベなことを除けば)の松本が魅かれる生徒会とは。と、私は思い始めたのである。


実は 私と松本は1年生のとき 同じクラスで一緒に給食委員を担当していた。

私が完食という運動を始めたのは 彼が生徒会で給食委員を抜けてからである。

だから私は 給食委員から生徒会に入り、松本と一緒に完食活動を全校に・・・。

という 考えがふと頭を過ぎる。いいじゃない。それで。


新しい伝統を 私たちの学校に創ろう。

それでいいかな。立候補した動機。


「でね、松本しかも会長だって!」と、友人は私を見る。

「は?」私は顔をしかめる。

なんだと。生徒会『長』の座まで、松本は狙おうとしているのか。セコい。内申が素晴らしいことになる。

「すげーな。」と、私は続けた。羨ましいな。という言葉も、一緒に喉から出そうだった。


松本が会長をやろうと言っても、私は会長には立候補しないつもりだ。

役員で十分である。(うちの学校は役職が会長しかない。ほかの役員は全部役員である。ある意味楽。)

なぜか。

私は別にそんな目立ちたくないし。内申は惜しい気もするが、私だって美術部部長である。

それに、『生徒会長』というのは堅苦しくて、真面目クンではないといけないような気がする。

年がら年中教室でギャアギャア騒いでいる私には向いていない。


それに、松本はモテるから。

女子の票もとられて 私は落ちるということになる。多分。

やってみないとわかんないけど、やったら95%そうだから。怖くてやらない。




「先生、私 生徒会やります。」

そう、先生に告げたのは 立候補期日最終日の放課後であった。




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