ボール奪い遊びは意外な展開に……
乗馬とピクニックを通じて距離を縮めたシャルルとヴィクトリアーヌの二人
僕は帰宅後に仮眠をとって少し身体をあっためる為に浴槽に入る。
気持ちのよいお湯に気分がいい。肩までお湯に浸かり身体をあっためる。
今日の一日の収穫
乱暴だと思ったトリアは意外と冷静で冷めた所が僕と似ていた。
あの邪魔しないでは覚えていない?いないのか?そうかそうなのか?
これは気になる所だが今は保留にしておこう。
家庭関係に問題があるのはある意味同じだ。
そりゃ正反対な理由だけど、問題があるのは事実だし。
見合いは断ってというのもトリアなりの理由がわかったし。
最後のあのトリアの無言が気になるけどそこはおいおい話してくれるまで待てばいいさ。
アレ………僕すごく気になってない?
一方僕のいないトリアの部屋では。
「ふゥ~ 邪魔しないで。言っちゃったよね。
だってついついあの鹿大物だったもの……。結局仕留められなかったけど
まさか大公子殿下だったなんて。別荘で初めてわかったわよ。
知らん顔したけど………。言ってもよかったのに……言えなかった。
わざと嫌われるのも…外交問題になっても困るしね。
はアア~どうしよう。
意外と大公子殿下噂通りの極冷淡でもなかったし。氷の大公子殿下っていうから。
はぁ~予想外。だってこんなお転婆ならあっちから私を見てすぐに断ると思っていたもの。
それなのに……。表向きは交流だなんて。はぁ~~~」
頭を抱えるヴィクトリアーヌはどうして家庭の事まで話したのか。
なんで言っちゃったのかしら。
部屋で一人後悔していた。
いままで友人にも打ち明けてこなかったのに。
まあ大体の子は知っていたけど。
自分から告発した事はなかったのに。
なんでかしら……。はぁ~~。
一人ため息をつくヴィクトリアーヌをシャルルは知るよしもない。
自分の行動とは違う違和感をどうしても理解できずにいた二人。
今夜は二人疑問と理解と複雑に絡みながら寝台で眠りについた。
明日は二人でボール奪いゲームだ!
絶対に楽しいぞ!
朝食の後はそれぞれ自由に過ごして庭のボール奪い合戦用コートへランチの軽食を運びだす。
雲に太陽が隠れ日差しがない分焼けなくていいかも。
トリアは長い髪を頭のてっ辺で結んでピンクのリボンを結んで風に揺れている。
颯爽としたその姿は本当に美しい。
「シャルル!
今日は何で遊ぶの?」
「あぁ。ボールを奪い合ってあの囲いに入れるんだ。
多く入れた方が勝さ」
僕は手にしたボールをトリアに見えて、庭のコートに造ったグランドを指さした。
「へえ~面白そう」
「したことない?」
「運動は乗馬と弓かな。
でもすごい楽しそう」
キラキラした瞳が好奇心を刺激しているのがわかる。
「じゃあ僕がボールを蹴るよ。
左が僕の囲いだ。右がトリアの囲い。
足で蹴ってあそこにいれるんだ。
お互い邪魔をしてボールを奪い合うんだ」
「うん。わかったわ。
手加減禁止ね
苦笑いの僕。
そうだって体力的には絶対僕が上だし。
「さあ~行こう」
僕は意識してトリアの手をとった。
総意識してだ。
トリアは恥ずかしそうに隣にいる。
コートの中央に二人向き合う。
真ん中にボール。
「僕が蹴ったら。開始ね」
ポン~と蹴る。
トリアは飛び跳ねるボールを追いかける。
僕を追いかけているのかボールを追いかけているのかわからない感覚。
すごく嬉しくてテンションが上がる。
トリアは僕をめがけ、いやボールをめがけて奪いに来る。
さすがは運動好きだけあって女子の中ではなかなかの腕、初めてとは思えない動き。
左右に身体を振りながら僕は自分の囲いに突進する。
リアは後から必死に追いかける。
追いつかれそうになりながら振り切る。ゴール手前で突然足が絡まる。
えEEE~~
地面に僕が顔事突っ込んだ。
「いった~~~痛~~~い!」
トリアはここぞとばかりに。
「駄目よ。戦争中だったら即死よシャルル」
そう言ってボールを奪い去り、さっさと自分の囲いにボールを入れてしまった。
本当に容赦がない。
痛いのと苦笑いが……。好きになった方の負けか……。
身体に付いた土をたらいながら、トリアが僕に近づいて土埃を払ってくれる。
「大丈夫?」
こういうツンデレがきゅんとくるんだ。
こんなことを繰り返し勝負がつかないさすがにお腹が減ってきてしまった。
「トリアお腹減ったからちょっと休憩」
「いいわよ」
召使が二人の前にアファルキア茶をカップに注ぐ。
軽食もいろいろ用意され準備万端!
一旦手を休めて軽食を食べる。
紅茶は冷たくなってしまっていたけど。
そこはよい茶葉なので冷めても美味しいんだ。飲み終えて召使が熱い茶を溢れてくれる。
僕がバゲットにトマトとアンチョビを乗せていただく。美味しいィ~
トリアは少し恥ずかしそうにしている。
「どうしたの?」
少し下を向いて目線を外して小さな声で言う。
「お皿がないし手で食べた事ないの。はしたないって…」
僕はにっこり笑ってみせる。
「これはね。こう食べるのが美味しいんだよ」
そう言って切ったバゲットにバター、トマトのソースとガーリック、オレガノを塗ってアンチョビをのっけてそのままトリアの唇に押し当てる。
トリアが頑張って少し口を開ける。
かりッとパンの噛む音が聞こえたと思ったら。
「美味しい~~本当に美味しい」
そのまま手渡して手でぱくっと食べた。
「うん。うん。美味しい」
瞳がキラキラしてこんな感じで笑うんだね。
今度は自分で作りはじめてぱくりと口にほり込んでまたにっこりわらってる。
まあ確かにはしたないかもしれないが、これはこう食べるのが美味しいんだ。
最近僕は父上の仕事の手伝いをしていて忙しいとこれですます。
これが意外と美味しいんだ。
「美味しい……本当に美味しい」
でもえ~~~~
笑ってたのに笑ってたのにいきなりぽろぽろ泣き始めた。
えっ????トリアどうしたの~~~。
ヴィクトリアーヌも理由はわからないただポロポロ止まらないのだ。
私の意思とは反して……
さすがに僕もオロオロしちゃいます。だってさっきまで笑ってたのに。
なんですかその情緒不安定なやつ?情緒不安定なやつ???
僕よくわかりません。どうしたらいいんですか??
何なんなのかな??
こういうの経験ないので本当に狼狽してしまいます。
どうしたらいい?
トリアはそのまま泣き止まない。
えんえんなくわけでなく、ただただ涙が勝手に流れてきてるだけだけど。
それが余計気になる。
訳は聞かない方がいいんだよね。
じーとトリアを見つめてみる。
こういう時は理由は聞かない方がいいよね。
うんうん。
優しく肘を顎に乗せて泣き止むのをずーと待つことにする。
そうしているといつの間にかひかえていた副執事長と召使がいなくなっています。
これは気を利かせてだよね。多分。
何故か僕の椅子の傍にリュートが立てかけています。
あ~これ弾いてみてあげてくださいってやつですか?
はいはい弾きますよ。
と言葉にせずに今巷て流行っている流行曲を弾いてみた。
割と明るめの曲を選択します。
ちょっと耳を傾けて聞いている。
よかった。
トリアは涙を手で拭った後、紅茶を口にして一呼吸して落ち着いたみたいです。
ここで曲を弾き終わった僕が一言。
「ボール奪い合いゲームは終わりだよ。
僕の負けだ。
だからトリアの勝ちだよ。
トリアの言う事をなんでも聞くよ。
一つね」
トリアがにっこり少し悲しそうな真剣な顔をしてこう言った。
「じゃあ私の話を聞いて。
だまってただ聞いてほしいの」
僕は頷く。
「昨日我が家の話はしたよね。
実はね子供の頃御父様に言われたの。
御前が生まれていなければ、絶対にあの女と離婚するつもりだったってね。
その後弟が出来たから結果私のせいじゃないじゃないとは思ったけど。
なんだかそれ以降結婚にはあまり期待してなくて消極的になっちゃって。
来る縁談来る縁談断っていたの。
でもさすがにフェレイデン帝国の皇后陛下と御祖母様が進めてきた縁談を断るのは出来ないから。
だからあんな「縁談そっちから断って」って。
失礼な事いっちゃってごめんなさい」
なるほどね。
じ~~~とトリアを見てる僕。
「それとね。私達の縁談の事だけど。
実はエルミエ皇后陛下と私の母方の御祖母様は昔とても親しい時期があったそうよ。
御祖母様が皇后陛下の講師をしていた事があったんですって。
詳しくは話で下されなかったけれど。
今回のお話は……これ言うと強要に聞こえるし、それで結婚決められるのもいやだし。
シャルルが嫌だといやだと思うし。
言えなかったのだけど。
エルミエ皇后陛下は実はアフェルキア公国の傍流の公子
つまり私の父方の高祖父と旧フェルキア公女だった高祖母との間に生まれた実子だったそうよ。
訳あってヴェレイアル王国の王女として育てられたってお祖母様がおっしゃっていたわ。
更にちょっと複雑で皇后陛下の実母は本当はフェルキア大公とフェルキア大公妃の実の妹との子供だっ
たの。
さらに複雑なのはその妹公女殿下の婚約者と私の祖母が結婚したの。
つまりハドルヌス侯爵は妹さんの元婚約者で私の祖父様なの。
御祖母様は親友の元婚約者と結婚したの。
ただ信頼しあっていたし、御祖母様は幸せだった。っておっしゃっていたけど。
血統を戻したいエルミエ皇后陛下とあの家で育った私の将来の心配をした御祖母様の相談で始ま
ったんですって。」
僕は初めて聞く話をだまって聞いていた。
ちょっとややこしいなぁ……くらいで。
あの御祖母様にそんな秘密があったなんてびっくりだけど……。そういえば御祖母様の幼い頃の話とか詳しく聞いた事ないよね。
宮殿に行っても幼い頃に贈られるお見合い的な肖像画もなかったな。
くらいにしか思わない。
正直どこの王家も皇家もなんだかんだいろいろ醜聞はあるものだし。
こういうのは氷の大公子がいい面かなあ。
「別にそう聞いても結婚の強要とは思わないよ。
ていうか。
それはそれでいいんじゃない。考えすぎだよ。
僕は自分の事は自分で考えるし。強要って考えすぎだよ。
だから考えすぎなんだよトリア!」
トリアは目から鱗って感じで瞳を丸くして僕をみている。
その顔はまるで初めて人に認めてもらったような何かが開いたような、殻を破ったような表情だ。
にこやかに笑う僕を見て少しほっとしているトリアになんだか僕もほっとする。
と突然テラスに副執事長が現れた。
走って息が切れているそんな慌てた姿は見た事がない。
「シャルル大公子殿下
大変です」
ヴィクトリアーヌは悩んでいたんですね。
本当に結婚する相手が自分でいいのか?
トラウマを抱えた過去からさて二人はどうなるのでしょうか?