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第一話 勇者になる

ミスリル大陸帝国に所属する、ローランド王国にかがやく大きな屋敷では、その日少年がある決断をしようとしていた。


金色に輝く髪、エメラルドグリーンの目をしたクリスは緊張していた。

その日、初めて剣士として実戦に出る。

息を呑んだクリスは自身が持っているロングソードをみつめた。



「重い…。」



クリスはおもわず倒れそうになったが、耐えた。

彼の父親はかつて大魔王サタンを倒し、封印したことがあった。

その後、父は若くして病に倒れ死んだ。



だが、クリスの決意は固かった。

勇者になりたいと…。




そんな時だった。

クリスの部屋のドアを叩く音が聞こえた。




「入っていい?」



女性の声。

クリスはこの声の主を知っていた。

シンディ・アシュクロフト。

このローランド王国で一の剣術の実力を持った女騎士。

黒い髪をポニーテール状にして、褐色の肌をした、シンディは胸元を隠しながら、二の腕を露出したアーマーを羽織りクリスの近くにきた。



「…先生。」



クリスはシンディをみつめた。

あまりの奇麗さにおもわずうっとりしてしまう。

胸が高鳴っていく。

初任務としての、興奮・緊張ではない。

彼女への恋心が故の胸の高鳴りだ。



「…準備は良さそうね、クリス。今日、あなたは今から騎士の一人になるのよ。今からの任務はスラムにいるギャングの観察及び鎮圧よ。」

「…最初からハードな任務ですね。」

「そうね。」



シンディはクリスに近づいた。



「あなたは、怖かったら最悪何もしなくていいわ。」

「でもそれじゃ、勇者になれませんよ。」

「…そうね、じゃあ私のそばでみていなさい。」



シンディはクリスの頭を撫でた。

クリスはむすっと頬を膨らませた。

そうか、僕はこの人にとって「子供」なんだな‥。



「…。」



クリスは黙ってシンディの後をついていった。

二人は城門を抜け、草原を巡った。

草原をこえると二人は岩山の近くにきた。


途中で魔物や盗賊に出会わなかった。

珍しいこともあるものだ。


するとやがて、大地は荒れ果てていった。

草原も消えて、砂ばかりの大地にきた。



そこには、集落があった。




「あそこがスラムよ。」



シンディは大きなクレイモアを担いだ。

そして、睨みつけた。

クリスはなかなかみれないカッコイイ、シンディをみて少し顔を赤くした。



「…先生。」

「何?」

「カッコイイ。」



クリスの想像以上に間の抜けた発言に少し顔を赤くしながらも、シンディは剣を強くもった。



「い、いくわよ!」



シンディはクリスを連れると、スラムの近くに寄っていった。

クリスは驚いた。

そこは悲惨な状況だった。

荒れ果てた鎧に身を着けた騎士崩れの盗賊や、生まれついてここにいるのかのような賊たち、そしてみすぼらしい娼婦たちがいた。



クリスは震えるとシンディの近くにより、彼女の服のすそをギュっと握った。




そんな時だった。




「女騎士か。」

「けっ、ズベタの騎士たあきに食わねえぜ!」

「金だけおいてどっかいきな!」

「それとも、服を脱いで踊ってくれんのかなー!?」



酔っ払った騎士崩れの盗賊数人が近寄ってきた。

クリスは慌てていると、シンディは冷静に男たちをみた。



「…大したことがなさそうね。剣なんて使わなくてもいいわ。素手でやってあげる。かかってきなさい!」



彼女は自身満々に言った。

すると男たちは怒りの唸り声をあげ、保々に飛び掛かってきた。

シンディはその長い脚を動かすと、男の二人を蹴り上げた。

そして、もう一人の顎に一撃を加えると、打ち倒した。

賊は一人だけ残った。



「ここにパゾリーニがいると聞いたわ。案内しなさい。」



シンディは冷酷に言った。

男は黙って首を縦に振ると、スラムの奥にある酒場に案内した。

酒場の前には大きなモヒカンヘアーの用心棒が立っていた。



「なんだ、てめェ…!!!!」




用心棒は大きな棍棒を抱えていた。

身長は190㎝以上はある。



「パゾリーニに会いに来た、あわせなさい。」

「お姉ちゃんよぉー、あいてーなら俺と寝てくれや!」




用心棒は下卑た笑い声をあげた。

シンディは冷静だった。

大きな足をあげると、膝蹴りで用心棒の顎を一撃した。



「うごっ!」



用心棒は悲鳴を上げ、地面に倒れた。



「行くわよ、クリス…。」



用心棒を無視したシンディは酒場のドアを蹴り飛ばした。

その中には一人の中年男と、複数の娼婦がいた。





「パゾリーニという男はご存知?」



中年男に聞いた。

眼帯と義手をつけた男はニコリと微笑んだ。



「俺だ。」

「あなたがパゾリーニ?あなたは違法な奴隷売買をしているそうね、それを今すぐやめなさい!」

「断ったら?」

「拒否権はないの、あなたに。」




パゾリーニは微笑んだ。

そして、義手を持ちギラリとそれをみせつけた。

その先には鋭い爪があった。




「…悪いがお姉さん、アンタに従う気はねえな。」

「だったら実力でわからせるしか、ないわね。」



クリスはその時気が付いた。

自分は蚊帳の外だ。

何かしないと…。

彼はロングソードを構えようとした。


「フッ‥」


パゾリーニは不気味に笑った、そして義手のない方の腕を使い指を鳴らした。

その時だった。

クリスの背中に何かのしかかる感触があった。

娼婦だ。

娼婦の一人はクリスを押さえつけていた。

彼の手からロングソードが落ちるのがわかった。



「!!!」

「動くんじゃないよ!!!」



そして、クリスは女たちに捕まると娼婦に首を絞められ抑えつけられるのがわかった。




「クリス!」



シンディは、すぐさま背後を振り向くと娼婦の顔に蹴りを入れ彼を解放させた。




「…先生!!!」



だが、その時シンディの動きに隙ができた。

パゾリーニの鋭い爪はシンディの背中を傷つけた。



「ぐあッ!!!!」

「よそ見をするんじゃねえ!!!お嬢さん!!!!」




シンディのボディーアーマーが引き千切れた。

そして、下着だけの姿になった。



「先生!!!!」



だが、シンディは冷静だった。



「…面白いじゃない、パゾリーニさん。…私のかわいい大好きな弟子の前で下着にさせて…このことは後悔させてやるわ!!!」



シンディはとうとうクレイモアをもった。

そして、大きくジャンプするとクレイモアを持ちながら斬りかかった。

パゾリーニは義手を使い、それをカバーしようとした。



「…こ、これはオリハルコンでできてる!!!そんじょそこらのなまくらじゃキレねぇぞ!!!」



パゾリーニは虚勢をはいた。

だが、義手はひび割れていった。

そして、彼の動きがゆらいでいった。

やがて‥。



ぱりぃっ…。




義手は砕け散った。

パゾリーニはその時、自分の体が両断される死の恐怖を想像し体が震えた。



その時だった。

シンディはクレイモアを片手で持つと、余った腕でパゾリーニの腹部にボディブローを加えた。

パゾリーニは吹き飛んだ。

彼女はクレイモアをパゾリーニの鼻先につけておどした。



「死にたいか、奴隷売買をやめるか‥‥どっちかにしなさい。もしもあなたがまた何かをしたときいたらその時は命を奪うわ。」



シンディはそういうと、クリスの方に向き直った。

彼は顔を赤くしていた。

そして、目を背けていた。

その時、彼女は自分が下着のままだと気が付いた。



「早く何か着てよ!」

「え?下着に困惑してるの?もっと見せてあげたいんだけどなー私のコレクション。」

「もういいから!!!」



赤く照れるクリスにまとわりつくと、シンディは心底この愛弟子をかわいいと思い頭を撫でながら去っていった。




















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