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ただいまもおかえりも

 

「よし! お弁当完成! リータさん、私ちょっとお弁当届けに行って来ますね」

「はいよ、気をつけて行くんだよ」

「はい!」

 

 王都の瓦礫撤去が終わり、ユオグレイブの町に帰って来た(リョウ)

 レオスフィードの希望通りに家庭教師としてウォレスティー王国預かりとなったリグとは違い、[異界の愛し子]であることも伏せられてカーベルトに戻ってこれた。

 ただ、(ジン)はノインとともに自由騎士団(フリーナイツ)の入団試験を受けるために総本山本部へと旅立ち、シドはいつの間にか姿を消している。

 シドは今まで通り、リグを影から守ることにしたらしい。

 フィリックスも召喚警騎士団に残り、王都の再建が終わるまで避難している貴族たちの世話を貴族の召喚警騎士に丸投げしてハロルドを取り逃がした責任を取ってクビになった署長なきユオグレイブの町の召喚警騎士団を支えている。

 最近はレオスフィードの授業以外に“社会勉強”として召喚警騎士団の手伝いにやって来ているリグの教育係も務めており、以前にも増して忙しそうだ。

 ただ、やはり生き方を導いたリグと一緒に働けるのは大変刺激的らしくて楽しそうではある。

 フィリックスもリグの分、そしてスフレ、ミルア、オリーブの分もお弁当を収納宝具に入れて召喚警騎士団ユオグレイブ本部に向かう。

 毎日ではないけれど、お弁当の依頼は定番化しつつある。

 

「こんにちは〜」

「あ、お弁当……じゃ、なくてリョウちゃーん!」

「こんにちは、ミルアさん。お弁当の配達です」

「やったー! ご飯っスー!」

 

 ミルアとスフレに泣いて喜ばれる。

 作った甲斐があって嬉しいけれど、泣くほどか? と不安にもなるので半笑いだ。

 

「あれ、リグとフィリックスさんは……」

 

 第七部隊事務室にいないので、キョロキョロと見回すとオリーブが弁当に張りついたミルアを引き剥がしながら「仮眠室にいるわよ」とウインクして教えてくれた。

 仮眠室、と聞いて嫌な予感がしてくる。

 

「えーと、じゃあ……」

「起こしてきてくれると嬉しい!」

「……わかりました」

 

 これで、と逃げようとしたがミルアにもウインクして頼まれてしまう。

 逃げ場がないようだ。

 仕方なくおあげとおかきを一度肩から床に下ろして、仮眠室に向かう。

 もしかしたらアレな展開になっているかもしれないので、二匹には待っていてもらった方がいいと思ってしまったのだ。

 

(いや、まあ、二人のことは……二人とも、好きだけど……)

 

 だからもし、二人の仲が上手くいっていたら素直に応援しようかな、と思っていた。

 扉を開けてソロリ、と中を覗く。

 すると、電気はついている。

 リグがソファーに座って本を読んでいた。

 その隣のベッドで、ぐっすり眠るフィリックス。

 

「あ……リグは寝てなかったの?」

「僕はさっき起きた。お弁当か?」

「うん。今日は栗おこわのおにぎりときんぴらごぼうだよ」

「どちらも好きだ。ありがとう」

 

 ぱち、と瞬きする。

 リグが「好き」と自分の好みを口にした。

 ああ、この短期間でよくぞ、と嬉しくなってしまう。

 

「フィリックスさんは私が起こすから、リグは食べてて」

「うん……あの、リョウ、けれど」

「ん?」

「僕のせいでとても疲れさせてしまったから、もう少し寝かせてあげてほしい……かもしれない」

「なにかあったの?」

 

 聞くと、貴族たちに絡まれたらしい。

 リグを[異界の愛し子]として、というよりもハロルドの息子として無理矢理言いなりにさせようとした者たちからフィリックスが庇ってくれたと。

 現れるだろうと思っていたが、やっぱり現れたのか。

 呆れてものも言えない。

 

「レオスフィード様のお耳に入れるんでしょう?」

「そのように言われているから、無論報告は上げる。けれど、せっかく召喚警騎士団に残ったのに、仇のように責め立てられて申し訳がない。僕のような者と一緒にいるから……」

「そんなことはないよ」

 

 (リョウ)ではなく、ベッドに寝ていたフィリックスが上半身を起こして否定した。

 リグが目を細める。

 

「フィリックスさん……」

「大丈夫だよ、このくらいでへこたれたりしない。リグのこともリョウちゃんのこともユオグレイブの町も、全部守る。でないとシドに叱られそうだし、おれが召喚警騎士団に残った意味がない」

「ウキ!」

 

 よいしょ、と起き上がり、髪をガシガシと掻くフィリックス。

 お弁当を手渡すと嬉しそうに受け取る。

 

「うん、やっぱりおれが守りたいものってこういう生活なんだよね」

「私の今の生活はフィリックスさんが守ってくれているんですもんね……」

「そう? ちゃんと守れている?」

「はい」

「じゃあ、今度の休みの日も起こしに来てくれる……?」

 

 え、また休日出勤なんですか? と、ジト目で見ると乾いた笑いで手を背けられる。

 けれど、この人のおかげで日常を過ごせるのだから断れるわけがない。

 だから、狭いワンルームのキッチンで朝ご飯を作ってあげるのも、「行ってらっしゃいって言って」とお願いされたりしたら「行ってらっしゃい」と言ってあげたくなる。

 きっと近いうち、「おかえりなさい」も言うようになると思う。

 もちろん失った彼の家族の代わりにはなれないけれど、新しい家族にはなれると思うから――。






フィリックス 残留エンディング

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