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  最寄りの駐車場から車を出した藍は、交差点から左折して店の前で止めた。その車のドアを開けた永田に急かされて旭は後部座席に乗り込んだ。永田はアルコールが入っているせいか、上機嫌で旭に手を振った。


「永田さん、今日は早くに失礼してすいません。それではお元気で」


「佐藤先生もお元気で、また会いに行きます」


「はい」


「大林君、安全運転で頼んだよ」


「はい、任せてください」


「じゃ、先生また」


旭が一礼すると、ゆっくりと車が動き出した。

  旭は店での少しの滞在で何もしていないのに疲れを滲ませた。車の中の狭い空間で藍の存在を大きく感じていたせいだろう。藍がいるだけで前世の様々な出来事が浮かび上がる。車の揺れが気持ちいいせいで、夢うつつか旭は瞼を閉じていた。



 白藍の姫は旭のことを好意に思っていた。何をするにも旭を1番に呼び、何処にでも必ず連れて行った。今日は朝日を見に行くために2人は一緒だった。朝日は白んだ空を明るく照らし始め空は薄い藍色と変わった。


「旭、空を見よ。空は白藍色で綺麗だ。藍は白藍色が好きだ」


「だからいつも着物の色は白藍色なんですね」


「そうだ。朝日の黄金色こがねいろの太陽とよく似合う色だからだ」


「本当に太陽と白藍の空は綺麗です」


「そうか。旭はこの太陽のようだ。真っ直ぐに照らし暖かで優しく藍を見守ってくれる」


「姫様、旭は命を懸けお守りします」


「ありがたい」


「旭は親方様に拾われて幸せです。旭の人生の漆黒の夜を姫様が金色こんじきの月のように照らし明るい道にしてくださいました」


「そうか、旭も藍を好いてくれるか?」


「勿論です」


「では旭、今日から姫でなく白藍と呼んでいいぞ。旭だけに呼んでもらう名だ」


「でも親方様が」


「じゃ、2人の時は必ず白藍と呼べ。命令だ」


「はい、姫様」


「旭、白藍だ」


「白藍」


「なんじゃ!」


笑いながら白藍の姫は旭に抱きついた。旭は小さく華奢な体を壊れないように優しく抱き締めた。



「先生、着きましたよ」


遠くから高く元気な声が聞こえる。白藍の姫の声だと旭は思った。


「佐藤先生、着きましたよ。佐藤先生!」


我にかえた旭は車の中にいたことを思い出した。後ろを向いて旭に呼びかける藍が運転席に見えた。

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