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こんな近くに白藍の姫がいる。旭は幻かと疑った。
それと同時に過去の記憶が頭の中に流れだした。幼子だったときの白藍の姫とその祖母との会話が蘇ったのだった。旭は赤子のころ白藍の姫と同じ乳母に育てられていた。まるで兄妹のようでもあったが、幼いながら身分をわきまえていた。
旭と白藍の姫は庭を駆け回り、落ちている枝を振り回して遊んでいた。白藍の姫は祖母をみつけると膝に抱きついた。祖母は可愛くて仕方ない様子で白藍の姫の肩に手をまわした。白藍の姫の大きな瞳は祖母を見上げた。
「藍と旭は、ほんにやんちゃだこと。赤子のときは二人ともおとなしゅうて良い子だったのに」
白藍の姫は興味津々に祖母に旭の赤子のときのことを聞いた。
「おばあ様、旭はどんな赤子だったの。今みたいに可愛いい?」
「ほんに可愛い赤子で、乳母のいうには、発育も早く泣きもせず手がかからなかったそうだ」
「大方様、旭は可愛いは嫌でございます。男として藍姫様を守るのに可愛いでは守れないのです」
「まあまあ、男らしいのう」
「藍は旭が可愛いし美しいと思う。旭は藍の者じゃ。ずっと一緒にいてくれるか?」
「はい、藍姫様。旭は藍姫様とずっと一緒です」
白藍の姫は旭に抱きついた。二人を見て祖母は目を細めて微笑んだ。
虚ろな瞳は、いま目覚めたように、しっかりと瞼を開き旭は藍をみつめた。頬にあてられた手を、藍は優しく外しタオルを渡した。受けとったタオルを持ったまま、旭は藍から目が離せないでいる。
「白藍、やっと逢えた。待っていました」
「あの佐藤先生。私は大林藍と申します」
藍は名刺を旭に渡した。名刺には双栄社とあり、大林藍の名前が書かれていた。その藍という字に旭は反応した。
「やはり白藍に違いない」
「あの佐藤先生、しらあいとは何ですか?」
永田は忙しなく狭い通路を通って現れた。
「佐藤先生、なかなか帰って来ないので大林君を行かせたが、何か不備でもありましたか?心配で私も来てしまいました」
「いえ、別に何も」
「ああ、そですか。あのー、佐藤先生、大林君を紹介します。新しく先生の担当になりました」




