表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

序章

 私と彼と、多くの人たちを巻き込んだ長い物語は、私のこの暴言から幕を開ける。

「あなたが……あなたたちが姉様を殺したのっ!」

 娘の場と身分を弁えぬ、信じがたい発言に、母は蒼白となり、父は息を呑んだ。

 つい一月前、ここで戦いがあったとは思えぬほど美しく清められた謁見の間。けれどもここで殺されてしまった人のことを思い、私は声を限りに叫んだ。

「私はアイラ姉様を殺したあなたたちを、絶対許さない!」

 私が怨嗟をぶつけたのは、至尊の御位につく一対。一人は玉座に悠然と座り、跪こうともしない私を、頬づえをつきながら見つめている。

 そうしてもう一人は、そんな王のかたわらに立っている。謁見という場にふさわしくない黒い長衣を身につけた若い男は、まるで死神のようで。

 この二人が、革命の名の下に私の大切な人を殺した。国のため、民のため、身を削って戦い続けていた人を、亡国の魔女と罵って殺したのか。

 そうして王と宰相となったこの男たち。こいつらに従ってあの人を裏切り、領国の安定と副宰相の地位を手に入れた父。あの人を利用したことなど、まるでなかったかのように振る舞う母。そのすべてが許せなかった。許せるはずもなかった。

 だが、それなのに。

 そんな私の罵詈をぶつけられた男は、笑ったのだ。小さな手を握りしめて懸命に立ち、己を睨んでいる私を見て、確かに笑ったのだ。

 どこか悲しそうに。

 だが紛れもなく、嬉しそうに。

 その笑顔は、幼い私の目と心に深く焼きつき、生涯離れることはなかった。

 切なさと誇らしさと、それに遥かに勝る自己嫌悪と慙愧の念と共に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ