待ち受ける者
黒い液体と共に。切り裂かれた布の破片が舞い上がる。
ソルドニアの剣は黒ローブの背中を斬り付けただけに終わり、肝心の敵は大きく跳躍して正面の門へと駆けていく。
「おのれ、まだそんな余力が!」
ソルニドアが追い始めると、騎士達もそれに続いて列柱の間を走り抜けて行った。
サンデーはその後をゆっくりと追いながら、周囲を興味深そうに見回している。エミリーもタブレットを構えて周囲の撮影に余念が無い。
黒ローブが背中から黒い血液を撒き散らしながら向かう先。
静かに鎮座していた巨大な門が、不意にその口を開き始めた。
ズズズ、と重厚な音を立てて開いた扉からは、黒いローブを着た者達の集団が、ずらりと列を成して現れた。
その中からリーダーと思しき一人が進み出て、傷を負った同胞を背中に庇う。
「すまぬ、しくじった」
「いや、問題は無い。ただこれ以上奴らを進ませ、御座を汚させる訳には行かん」
その集団の手前で足を止めたソルドニアは、鋭く視線を送りながら問い質す。
「貴方達が邪教の信徒なのですか」
「そう呼びたければ呼べ。我らは名も無き神に仕える名も無き者」
邪教の信徒がそう言葉を返している間に、背後に立つローブ姿が、一つ、また一つと、支えを失ったようにばさりばさりと地に伏していく。
そしてその布地の間から、じわじわと黒い粘液上の物が大量に溢れ出てくる。
「何をするつもりですか……!」
ただ事ではない殺気を感じ、騎士団が戦闘態勢へと移行する。
「一度だけ告げる。ここより素直に立ち去れば見逃そう」
ソルドニアの問いを無視し、邪教徒のリーダーが警告を発する。
「しかしこの奥へ進もうとするならば、我らは全力で阻止するものと知れ」
その言葉に続くように自身も形状を失い、地面に液体となって広がった。
そして見る間にそれらの黒い液体が一つ箇所に集合し、巨大な何かへと変貌していく。
「最早人の身を捨てた者共だったとは!」
ソルドニアの叫びが、列柱の間の闇へと吸い込まれていく。
果たして、黒い液体が寄り集まって生まれたのは、巨大な体躯を持つおぞましい怪物だった。
竜のような無数の鱗に覆われた胴体に、大きく鋭い爪を備えた太い四肢。
長い尻尾は途中から無数に枝分かれをし、触手のように蠢いている。
何より異様なのは、首にあたる部分が9つに分かれている点だった。
ヒュドラという多頭の竜種に酷似しているが、大きく違う部分がある。
9本の長い首の先にある頭全てが、老いて干からびたような人の顔を持っていたのだ。
まさに邪竜と呼べるおぞましい威容である。
『選択せよ!! 退くか、ここで果てるか!!』
9つの顔が同時に叫ぶ。
「どちらも御免です。我らの使命は、貴方を退けて進む先にのみ有ります」
ソルドニアの言葉が引き金となり、戦闘が始まった。
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