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研鑽

「……ぶはぁっ!!」


 サンデーの釣り竿によって湖へと投げ落とされた狂犬は、なんとか付近の浮島へと這い上がって荒い息を吐いていた。


「クソッ! クソがっ……!! マジで何なんだあのアマ……!!」


 拳を地面に叩き付けながら、罵声を繰り返す狂犬。


「──クッソがぁぁっ!!」


 怒りが収まらずに、思い切り振りかぶって地面を叩き割る勢いで拳を繰り出した。


 ズズンッ!!


 浮島が割れかねない振動が響き、周囲の樹々から鳥達がばさばさと飛び立っていく。


 狂犬の腕の半ばまでが地面に埋まり、周囲がすり鉢のように陥没していた。


 地面に突き刺さった自分の拳を見詰め、狂犬の頭に何かが閃いた。


 サンデーの肌に拳が触れる寸前の、破裂音と拳に伝わった感触を思い出したのだ。


 今のように、何か硬い壁のような物を突き破って、その途中で腕が挟まったような感触だった。


「……そうか。あれが魔力障壁ってやつかよ」


 狂犬が記憶を手繰り寄せてその概念に辿り着く。


 熟達した魔術師が常時身に纏うとされる、魔力による防護壁の事である。上位の魔術師となれば、ほとんどの物理現象を無効化すると言われている。


 狂犬が今まで対峙してきた魔術師は、そこまでの魔力が無いか、あったとしても容易く打ち破れる程度の強度しか持っていなかった。そのため、存在自体を忘れていたのだ。


 あれ程不気味な魔女だ。強大な魔力障壁を持っていても何の不思議もない。


「だが待てよ……? あの感触は確かに何かをぶち破った感じだった。途中までは壊せたって事じゃねぇのか?」


 狂犬は仮説を立ててみる。


 例えばサンデーの魔術障壁は分厚く、何層もの壁が重なっているとして、その何層かまでは自分の拳は貫いたのではないか、と。


 地面から引き抜いた拳を見て、狂犬は思案を続けた。

 分厚い壁を打ち抜くには、どうすれば良いか。


 鎧であれば、「通し」で内部に衝撃を伝える事ができる。

 しかしそもそも身体に触れられもしない上に、魔力障壁自体にも気功が通るかは疑問が残る。


 狂犬は手近な樹に近寄り、腰溜めに構えた。


「ふっ!!」


 パァンッ!!


 しっかりと体重を乗せた正拳突きは樹の幹を破裂させ、樹はその部分から倒壊していった。


「こうじゃねぇ……」


 別の樹の根元へ向き直り、再び構える。

 そして繰り出したのは、拳ではなく手刀だった。


 ズシュッ……!!


 気功を乗せて鋭利な刃と化した手刀が、幹を貫通して向こう側へと指先を覗かせた。


「これだ……!!」


 面ではなく、点に集約した一撃。

 全てを貫く究極の槍を作り出せばいい。


 すぐにでも試しに行きたい気持ちを抑えつけ、狂犬は今の感触を身体に刻み付けるために型を繰り返した。


(今はだめだ……完璧に仕上げてからだ。次は絶対にしくじらねぇ)


 焦りは禁物と己に言い聞かせると、狂犬は新たな目標を持って修行を再開するのだった。


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