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湖畔の町 6

 宿に戻ったサンデーを、ハルケンが満面の笑顔で出迎えた。


「サンデー様!! お出かけでしたか。実は報告したい件がございまして!」


 徹夜をしていたのだろう、目の下には大きな隈ができていた。

 しかし疲労より興奮が勝っているようだ。眼鏡の下で目をぎらぎらとさせて話し続ける。


「昨晩村の者の理解を得て、解剖を実施したのです! そうしたら貴方の予想通り、寄生虫が出るわ出るわ! しかもただの寄生虫ではありません! なんと、体内で人間の魔力を吸い取り、それを栄養として成長するばかりか、魔術障壁として利用するという恐ろしい虫だったのですよ! 道理で魔術による検査で引っかからない訳です!」


 興奮のあまり唾を飛ばしながら叫ぶハルケンから、サンデーは羽扇で顔を覆いながら一歩後ずさった。


「それは良かった。そんな頑張り屋の君へ贈り物があるのだが、受け取ってくれるかね」


 指を示した先、何も無かった地面の上へと唐突にどさりと何かが降ろされる。


 苦悶の表情を浮かべ、氷漬けになった老人だ。


「こ、これは?」


 異常な物を見せられて、流石に我に返るハルケンが尋ねた。


「今回の病を撒いた当人さ」

「なんですと!?」

「仮死状態にしてある。君達なら蘇生は可能だろう」


 それだけを言って、後をエミリーに丸投げにする。


 引き継いだエミリーから詳細な説明を受けると、ハルケンは改めてサンデーへと向き直った。


「事情はわかりました。本来であれば我々が対処しせねばならなかったものを、代わりに片付けて頂き、誠に有難うございます。お陰様で、これ以上撒き散らされる懸念がなくなりました。感謝に堪えません」


 深々と頭を下げるハルケン。


「お二人の証言と、残った資料を見る限り……この男はある者から譲り受けた『妖虫』と呼ばれる寄生虫の発育過程と、罹患者の症状を観察していただけのようですね」

「ああ。初めから治療法は考えていないようだ。君を焚き付けておいて、あっさり治す術が見つかったらどうしようかとも思ったのだが」


 サンデーは肩を竦めてから、改めてハルケンへと目を向ける。


「君の解剖は無駄では無かったということだね。その子の情報と合わせて、今後の治療に活かすと良いさ」

「はい……!」


 サンデーの言葉を心に刻み付けるように噛みしめるハルケン。


「……しかし、謎が一つ増えてしまいましたな。『あの方』とは一体……」

「以前のマフィアもですが~、開拓の妨げになるような勢力が潜り込んでいるのは間違いなさそうですね~。領主様にご相談されたらどうでしょう~」

「そうですね。現時点で我々がどうこうできることはなさそうです。領主殿へ報告し、我々は引き続きこの虫の撲滅に努めます」


 エミリーの提言に、ハルケンは自分の本分を取り戻して頷いた。


「もう昼近くです。宜しければ、この宿屋自慢の魚料理を召し上がって行ってはいかがですか?」

「良いですね~。サンデー様~ご馳走になりましょう~」

「ふふふ、そうだね。散歩のお陰で、程良く空腹だ」


 サンデーはエミリーに引っ張られるようにして、宿屋の食堂へ向かうのだった。


お読み頂きありがとうございます。


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