大理石の町
金毛村から更に東へ街道を進み、少し北へ外れた先に、切り開かれた小高い山がある。
大理石に良く似た、白地に金や銀の模様が混ざる美しい石が発見され、大規模な採掘が進む山だ。
フロンティアマーブルと名付けられたこの石は、美しい上に頑丈で、非常に高値で取引される。領事館の外壁もこの石で建てられていた。
麓には採掘を目的とした町が作られ、最盛期には1000人を超す人口で賑わっていた。名を大理石の町と呼ばれる。
山の頂付近には、いつ建てられたのか不明な大きな館がある。件の大理石をふんだんに使われた、城のように壮麗な館だ。
開拓当初に騎士団と冒険者が乗り込み調査を終えており、危険が無い事が確認されている。
所有者に繋がる痕跡は一切見付からず、来歴は謎のままだった。
材料に使われている石材は非常に頑丈で、劣化具合から経年を測ることができない。
どこも破損した様子はなく、綺麗なままで佇んでいる。
少なくとも、開拓が始まる以前からそこに在った事だけは間違いが無い。
優美なその威容は麓からでも視認でき、朝日で照らされる様は神秘的の一言に尽きる。
それを目当てにする観光客も多く訪れ、採掘の為に建設されながら、観光地としても成り立つ異例の町だった。
しかし1年程前から、町は怪異に襲われる事になる。
町の住人や観光客を問わず、忽然と人が消え去る事件が次々と起こったのだ。
いなくなるのは決まって若い女性。特に容姿が優れた者にその傾向が多い。
1年の間に出た行方不明者は実に30名。未だに一人として発見されていない。
誰も住んでいないはずの件の館に、夜になると明かりが灯っただの、冒険者が探索に行ったきり戻ってこない、等という噂も流れ始める。
亜人種への対応に追われ、フロントから派兵をされる事もなく、真偽を確かめる術もない。
観光客はほとんど寄り付かなくなり、若い女性を含む世帯は他の町へと出て行った。
そうこうする内に街道が封鎖され、町には老人や独り身の鉱夫のみが残り、細々と生活しているのが現状だった。
「……お客さん、やっぱりやめといた方がいいんじゃないですかい?」
馬車を駆る御者が、背中越しに幌の中の客に問いかける。
「あの町の噂は聞いてるでしょう?」
「若い女性が消えるとかいう話かね?」
それに答えたのは馬車の中に座る黒いドレスを着た美女だった。
「そうでさ。お二人みたいな美人が行ったら真っ先に狙われちまうんじゃないですかね」
「いや~美人というのもなかなか大変ですよね~サンデー様~」
ふわりとした金髪を揺らしながら、隣に座った細い目の少女が大げさに溜め息を付いて見せる。
「ふふ、まあまあ。有名な館を見物したらすぐに移動するつもりだよ。そこまで心配する事は無いさ」
エミリーの頭をわしわしと撫でながら御者に言葉を返すサンデー。
「本当に気を付けて下さいよ? 運んだ客が行方不明になんてなったら、寝覚めが悪いったらないんで」
渋い顔のままで正面に向き直る御者。本当は行かないで欲しい、と言い加える。
「心配は有難いが、自分の面倒は自分で見るさ。気にしないでくれ給え」
サンデーは羽扇を扇いで窓の外に目をやる。
雪は降っていないが、どんよりとした雲の多い空だ。目的地に着く頃には日が暮れるだろう。
フロントの兵力が充実し、街道の巡回へ兵を多少回せるようになったため、本数は少ないが馬車の運航が再開されていた。
そのうちの一つにサンデー達は乗っている。
とは言え、未だ街道は警戒中である事に変わりは無く、馬車には二人の他に客は無かった。
馬車はゆっくりと速度を落とし、街道の分かれ道にて轍を止めた。
「大理石の町 この先2㎞」と書かれた看板が脇に立ち、矢印と共に長い道の先を示していた。
道は林に囲まれ、奥にあるだろう町までは見通せない。
「じゃあお客さん、馬車はここまででさ。その矢印通りにまっすぐ歩けばすぐ着きますよ」
この馬車は街道沿いのルートしか走らない便のため、御者が申し訳なさそうに下車を促す。
「本当に気を付けて下さいね。それじゃあ」
「ああ、ありがとう。良い旅だったよ」
後ろ髪を引かれる様子の御者は、何度かこちらを振り返りながらも馬車を走らせ去って行った。
「さてさて、それでは町まで散歩と行こうか」
「は~い~」
悠然と歩き出す二人の頭上には、黒い雲が立ち込めつつあった。
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