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海と水着と浜辺の華

 緊急依頼として強引に駆り出された竜閃の二人は、猛吹雪の中を進んでいた。

 港町フロントの南側は、強く吹き付ける潮風のせいで草木が生えず、一面の砂丘と化している。砂と雪が入り混じった強烈な風に辟易しながら海岸を目指していた。


「くそ割に合わねぇ! あのイカ野郎、見付けたらぜってぇぶちのめしてやる!」


 気炎を吐きながら鎧の小手で顔を覆い、前に進むナイン。


「こういう時だけは図体のでかい奴が相棒で助かるわー」


 ナインの陰に入り風除けにしながらアルトが続く。


「この理不尽……」

「何よー。あんたの鎧、耐熱と耐冷かかってるんでしょうが。こういう時に役に立たなくてどうするのよ」


 ぼやくナインにアルトが喝を入れるようにその背中を叩く。カンカン、と金属の音が響くが、すぐに風の音に吹き消される。


「寒くなくても砂がめちゃくちゃ入ってくるんだよ! あ~防塵加工も考えなきゃな」

「魔術が使えないと大変ね~? ご苦労様ー」


 そう言うアルトは普段の軽装と大して変わりが無い。せいぜいが長いマントを身体に巻き付けている程度だ。

 自分だけ防風の魔術で守られているのだ。


「まったく嫌味な奴だ……」


 ぶつくさ言いながらもナインは砂をかき分けるようにして進む。大きな砂丘を一つ越えると、一面に広がる海が視界に入ってきた。


「広いなぁ、おい」


 見渡す限り海と砂浜しか無い。砂嵐で多少視界は悪いが。


「これだけ何もねぇってのはいっそ気分が良いよな」

「……ちょっと待って。あそこなんか変じゃない?」


 双眼鏡を持ち出して周囲を見回していたアルトが一点を示す。

 言われるままにナインも双眼鏡を覗き込む。

 波打ち際。一面の砂浜。特に代わり映えのしない景色だが……


「……はぁ?」


 間の抜けた声がナインの口から漏れる。

 まだ距離が有るが、なんとなくの形状が見て取れる。


「ビーチパラソル……か?」

「……にしか見えないわね」


 お互い顔を見合わせる。


「夏の海水浴客の忘れ物か?」

「こんな風で飛ばされない訳ないじゃない」

「それもそうだが、じゃあ何だ? 化かされてるのか?」

「こんな所で幻術? 誰に対して?」

「誰って言われてもな……」


 真夏の炎天下であれば、蜃気楼かとも思うだろう。

 しかし猛吹雪の中で微動だにしない一本のビーチパラソルを思い浮かべて欲しい。

 ……どう考えても怪しい。


「まあアレだ。一応確認しておかねぇとな」

「……そうね。後で何か文句言われても嫌だし」


 今回の依頼ではこの区域は二人の担当だ。何か問題が発覚すれば当然矛先はこちらに向く。

 警戒しつつ、ゆっくりとパラソルへと近寄って行く。

 肉眼でも確認できる距離になった頃、更なる異変に気付くアルト。


「ちょっと、あの周りだけ晴れてるように見えるんだけど……気のせい?」


 そう言って示す先。パラソルを中心とした何十mかの範囲だけ、明らかに他と景色の色が違う。

 台風の目のように、そこだけ青空が覗いて日が差しているように見える。パラソルが微動だにしないのは、その周辺だけ風が治まっているからだろうか。

 そして近寄るにつれ、段々と気温が高くなっている。


「おいおい、どうなってんだこりゃぁ……」


 すでに汗だくになっているナインは兜を取って汗を拭う。

 鎧の耐熱は火炎やブレス等を遮断する物であり、気温には無力なのだ。


 すっかり風の無い範囲に入り、陽射しは真夏のように照り付けている。


「見て、誰かいる!」


 今までパラソルで陰になっていた向こう側が、近寄ったことで見えるようになっていた。

 そこにはビニールシートを浜に敷き、うつ伏せに身を横たえている女がいた。そしてもう一人、小柄な影が近くに膝を付いてその背中に手を伸ばしている。


「……うおおおおお、姐さん!?」

「エミリーさんも! こんな所で何を!?」


 二人が目にしたのは、それぞれ大胆な水着に身を包んだサンデーとエミリーであった。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になれば、ブックマークや評価等を頂ければ嬉しいです。

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