地獄の入り口
緑が事件の真相にたどり着きそうになった時、テリーザがいなくなってしまった。
テリーザは誘拐されたに決まっていると踏んだ緑は、双子騎士を連れて犯人の巣に乗り込む。
捜査協力をテリーザに頼むと、彼はマイロンのためにも!!と快く承諾してくれた。
「テリーザ、まずは被害者の出身地のイースに行くよ!!」
「はぁ、お前みたいなか弱い女、何らかの事件に巻き込まれるぞ」
「それを守ってくれるのが、貴方の役目なんだよ、テリーザ」
そう言って、私は小屋の扉を開けた。
~イース1番地~
酷いゴミの匂いと、不衛生な人々の体臭。
それが混ざった死の匂いがこの地区の空気を包んでいる。
「なぁ、やっぱりここに来るのは…」
「いや~私の世界はここよりもっとひどい所もあるよ。」
「まじか…ここより劣悪なのかよ。俺まだましなのか?」
そうテリーザはぶつぶつと何かを呟いていた。
すると何人かの痩せこけた綺麗な女性が、道行く男性の腕にしがみついていた。
「あの人たちは?」
そうテリーザに聞くと彼は怪訝な顔をしてこう言った。
「あれはこの町の娼婦。容姿のいい娼婦はもと高級娼婦。俺の母親だった人も元は高級娼婦。」
テリーザまるで唾を吐くように答えた。
まって、高級娼婦…そこから生まれた子供テリーザ…もしかしたら。
「ねえ、マイロンも高級娼婦の子供だった?」
「マイロンの母さん…確か、ニコルズって名前だ!!すんげー綺麗な女だったけど、マイロンを妊娠したことで下級娼婦になったんだ。」
「じゃあ、テリーザのお母さんも?」
「いや、俺の母さんは死んだ父さんに見初められて中流階級になったんだ。でも俺を捨てることが条件だったんだよ。その後、メモネ教会に預けられた。」
「そっか…つらい過去を思い出させちやったね。」
母親がこんな酷いことできるのかな。
「そんなことねーよ、教会のシスターも神父もいい人ばかりだったし。父さんも少しばかり金はくれたし。」
「そうなんだ。じゃあ次は2番地に行こう!!」
なんだって…という顔をして彼は私を見ていた。
~二番地~
やはしこのイースはどこもかしこもアングラな世界なんだなと再確認させられる。
娼婦の嬌声と汗と精の匂いに混ざって香る、死の匂い。
ここで15人もの少年少女が王宮にスカウトされ…スカウト。
「ねえ!!テリーザってどこで王宮にスカウトされた?」
「スカウト?なんだそれ?」
「勧誘だよ!!」
「それなら、イースと中央通りの間の架け橋って呼ばれる橋だよ。マイロンもおんなじ所。」
成程…王室が怪しいのかな。
こうして私とテリーザの調査1日目が終了した。
その日私は小屋に泊まり込んで調べた。そしてある法則が分かった。
残りの13人も全てイースの高級娼婦の娘か息子で、容姿がいい。そしてなにより、一人目が失踪した4週間後に二人目が失踪した。
三人目も四人目も同じ四週間で失踪。四週間って、熟成肉の作り方じゃ…。
そう考えているうちに眠ってしまった。
「起きろよ、起きろよ。朝飯だぞ!!」
テリーザの怒鳴り声で私は目が覚めた。
「おっ…おはよう。アッごめん。」
「おはようって…もう昼だぞ。」
そんな呆れ顔を拝まされ、私は苦笑いで返した。
朝食は、卵焼きに肉のグリル、サラダとトウモロコシと小麦を混ぜたパタ。この国の日常的な朝食だが美味しい。
「美味しかった!!」
「そうか、ありがとう」
「この朝食って、まさかテリーザが作ったの!!」
「そうだよ、うまいだろ!!」
そんな軽口を叩きながら、私はテリーザにあることを聞いた。
「そういや、テリーザってここにきて何週間?」
「俺か?えっと…確か、3日後で四週間だな!!」
これは非常にまずい…
「そうなんだ、でももし誰かに城の外に行こうと言われても私と調査があるって言って、行かないでね。」
「なんだそれ…」
そう言って彼は顔を逸らした。
~訓練場~
「あっ、緑~おーーい!!」
「あら、緑!!今何をしているの?」
声のする方を見ると、そこにはエミリーとアシュリーがいた。
「二人とも~元気~?」
「元気ですよ。そういえば貴女、テリーザとなにか調査しているんですか?」
エミリーは情報がとても速い。
「ここ最近15人の美男美女が相次いでいなくなる事件なんだ。」
「成程、あれ。この人達って…失踪前に女王の部屋に呼ばれていた人だ。」
「なんですって?あら、確かに」
「待って、この15人は皆城の外でいなくなって。」
でも…お城なら抜け道も。
「抜け道ならありますよ。」
突然エミリーがそう言った。
「前にエリックが嬉しそうに言っていたんです。この城の城壁に少し空洞がある、そこから風の音がすると」
成程、その隠し通路の上の部屋がこの事件のカギになるかも。
そして二人を連れて、より詳しい資料を見せるため資料小屋に入ると、そこにはテリーザの筆跡で書いてあった。
(今日女王の部屋に呼ばれたから、調査には行けない。 テリーザ)の文字があった。
「まって…エミリー、アシュリー。テリーザが王宮にきて...何週間?」
「そうね、確か四週間になるわよね、アシュリー?」
「うん、確かマイロンと仲が良かったからよく覚えてる。」
なんてこと…犯人は、何となく予想できてしまった。
「二人とも、女王の部屋まで付いてきて…」
そう言って私はいち早く駆け出した。二人は何が何だかわからない様子であったが、何も言わず私に付いてきてくれた。
約5分後に部屋の前までたどり着いた。
私は部屋の取っ手をひねり、部屋に突入した。しかしそこには誰もいず、何もなかった。
「緑、何もないよ?気にしすぎじゃ?」
「違う、違うのよ。どこかどこか…」
地下空間と上を結ぶ、部屋は完全に女王の部屋だ。隠し階段。どこかに謎の置物が…
ドレッサーに燭台。なんで。
そう思い私は回した。すると、近くの暖炉から階段が覗いた。
「なに...この階段」
「とりあえず…行こう」
こうして私達は階段を下って行った。長い階段を下っていく途中、テリーザのうめき声が聞こえ、その後に女の人の高笑いが聞こえる。
「ねえ…エミリー私…嫌な予感してきた。」
「ええ、私もよ。アシュリー」
さらに下に進むと、血の匂いと強烈な腐乱臭が私達の鼻を衝く。
そしてとうとう下の扉のノブに手をかけ、私はそのノブ勢い良く回した。
「そこで何をしているの!!」
私が部屋に入ったとき、その部屋は狂気と神秘が入り混じっていた。
テリーザはまだ息があり、私はエミリーに連れて行かせた。テリーザがいた場所は正体不明の血しぶきと肉片がそこら中に散乱しており、ひどい悪臭を放っている。
しかし、女性が座っている場所はとても綺麗で洗練されており、燭台だと思っていた物は人間の手であった。
「おや、ここを見つけるとは。やはり組織など作らせなかったらよかったかの。」
そう言いながらクツクツ笑っていたのは、紛れもなく女王であった。
するとアシュリーが女王に怒鳴った。
「何故、使用人の子供達をこんな目に合わせる!!貴女は仮にもこの国の女王だろ!!」
「何故?何故と聞かれるとその答えはこれだけだ。美味しいから。」
まるでそれが自然かのように、歌うように彼女は話した。
アシュリーはまるで怪物を見つめるかのように女王を見つめていた。
「何を言ってるの…この人は。貴女はこの子達から生きる権利を奪える立場なの!!」
それは普段温厚で間延びしたアシュリーからは想像もつかない怒りの声だった。
「何を言ってるのアシュリー?私は貴方達国人をどんな使い方をしてもいい立場なのよ?
私は貴方達に安心と慈悲を与えている。なのに国民からはなんにもお返しがないのよ?
だから私はこの国で慈悲を一番与えられない娼婦の子供を食べたの。
ママと一緒よ。あと、私だって美しい子供しか食べない。」
そうまくしたてた。
私は初めて生のシリアルキラーを見たが、ここまで怖く薄暗い闇のような目をしているのか。
そう思うと、これが同じ物体なことに恐怖した。
「確かに私達と違い、貴女は支配階級かもしれない。でも、だからといって貴女は神ではない!!」
「あら、この国の神話では私は神ではなくても、この国では絶対的な神なのよ?貴女数か月いてなにを学んだの?」
彼女はあくまで自分の犯行を悪くは思っていないらしい。そしたら女王は、私にこう言った。
「でも貴女は、私が支配者階級であることを口に出した。それって…私の思想と同じ?」
何を言っているんだ?私が…シリアルキラーと同じ?そんな馬鹿な…
「耳を貸すな!!」
そう上から声がした。見てみるとそこには、テリーザを持って上がったはずのエミリーがいた。
「貴女が、マイロンやその他14人の子供を攫い、殺したのね。」
「あら、エミリー。貴女は私のことを多かれ少なかれ、わかってくれているはずだったのに。」
そう言って彼女は少し悲しそうな目をした。
「私の親友も、確かに少しだけ貴女に似ているところがあった、でもそれは…少女みたいな無邪気さと純粋さを重ね合わせていただけよ!!」
彼女はそう言って真っすぐと女王を見つめた。
「上に行きます。衛兵が待っています。」
エミリーとアシュリーは女王の両脇に立って上に上がっていった。
私はもう少しだけこの部屋を見て回ることにした。子供の解体場所には、様々な拷問道具と解体前に必要な道具。
おかしい、食べるだけならこの道具はいらない。
その右側の空間には、簡易キッチンと様々な調味料、肉をひき肉にする棒など。シェフがいない点を見れば、自分で調理していたらしい。
そして、女王の本当の玉座には、白と金色の彫り物をしたこの国最高級の食器達と、切れ味の鋭いナイフ。差しやすいフォーク。人間の手の燭台。
殺して食べた子供達の肖像画などが飾られている。そして一番目を引いたのが、家族肖像画である。
彼女は「ママと一緒よ」といった。
彼女は幼い頃に母親の食人を目の当たりにしたはずだ。
その母を彼女は尊敬しているはずだ。
そしてこの国は代々女王が権威を持つ。なのでこの城には母親の肖像画は大量にある。
しかし父親に関しては全くと言って肖像画がない。
そして、彼女は今年で39にもなる。子供も1男1女設けられている。だから彼女にも旦那はいるはずなのに…私は1回も見ていない。
それは先代の女王にも同じことが当てはまる。夫の肖像画は一枚もない、そして記録もない。
多分父親のことは、彼女の部屋を見ればわかるはずだ。そう思い私は上に上がろうとした。
そしてふと、戸棚を見ることにした。二番目以外は全て空だったが、二番目は立て付けが悪かったのか開かない。
ガタンガタン大きな音を立てて、棚を揺らし続けているとアシュリーが下りてきた。
「まだ見るものがあるの?」
「うん、そういえばアシュリーって力仕事得意だよね?」
「うん。そうだよ」
「この棚の二番目、開かないから開けてくれない?」
そう頼むとアシュリーはすぐさま棚を開けてくれた。ガタンと一際大きな音を立てて板が外れると、そこから男性の首が出てきた。
「なっ…なにこれ…」
アシュリーが絶句していたが、私は何となく目星がついていた。
「この城で、先代の旦那様を見たことがある古株ってだれ?」
「えっ、そうだな…そういえば庭師のアグビがそうだったはず」
「ありがとう、庭園にいる?」
「腰が悪いから、医務室にいるはずだよ」
アシュリーの言葉を頼りに私は医務室にたどり着くと、そこにいた一人の老人が庭園を眺めて座っていた。
「すみません、アグビさんですか?」
声が届いていないようなので、私は耳元に近づいて同じことを繰り返した。
「聞こえているよ、お嬢さん」
しゃがれた返事が返ってきた。
「一つお聞きしたいんですが、先代の女王の旦那様はどんなお顔でしたか?」
「旦那様はとても優しく、病弱であられた。女王様のことを深く愛しており献身的だった。」
「いつ頃、いなくなりましたか?」
「いなくなられたのは…あぁ、あれは今の女王様が10歳の時だった。」
空を見て彼は更に語った。
「そういえば、今の女王様の旦那様も…娘様が10歳の時にいなくなられた。因果なのかのぉ…」
あの白骨化した頭蓋骨を鑑定できる人物と設備はこの国にはない。しかし黄ばみ具合などから見て、あの頭蓋骨は先代の時代のものではない。
「そうですか。ありがとうございました。」
私は医務室を後にした。
そしてその足で女王の玉座に赴いた。
「あら、いらっしゃい私の神聖な儀式を踏みにじった理解者さん」
悪意を込めた声が地面の簡易椅子に座らされている女王から聞こえた。
「…貴女の一番最初の被害者は旦那様ですね?」
「それをどうやって…知ったの」
「二番目の引き出しを開けて出てきました。」
明らかに女王は動揺していた。人を食べたことは全く動揺していないのに、夫を食べたことには動揺した。
「もしかして、お母様。先代が行ったことを繰り返していたんですか?」
「確かに、私のお母様は私が10歳の時にお父様を私の目の前で食べた。でも…でも…私は望んで食べたのよ!!」
「なら、お母様は他にどんな容姿の人を食べたんですか!!何故貴女は一部の部位しか食べなかったんですか?」
「一部?ほかの部位も食べているんじゃ…」
「一番新しい死体がマイロンなのは…わかるよねメアリー。」
「ええ…全く嫌な話だけど」
「素人目だけど、マイロンの腐り具合から体のほとんどが残っている可能性がかなり高いの。」
人間の体の大半は水分だ。これはほとんどの人が知っている。人間の体の脂肪は女性で20%、~29%、が平均とされている。
マイロンは痩せ型だから21%、辺りとされると切り取られていたのは1%にも満たなかったと思う。
「それに、調理道具は全くと言っていいほど錆びてもいなかった」
「そ…それは、私が手入れしているか…」
「いいえ、手入れ道具は一切なかった。かといって貴女の部屋にもなかった。そして貴女の部屋からシェフ達が使う調理場は歩いて10分はかかる」
私がここまで言うと、女王は観念したように笑い、話し始めた。
「ふふ、貴女そこまでわかっているなら私のこともわかるでしょ?」
「いいえ。いかなる理由があっても私は人を殺すときの気持ちはわからない」
「そうかしら?貴女は私のこと全てを知っているはず。そのうち私のようになるわ」
その言葉を言った瞬間にエリックさんが到着した。
「女王の処罰を告げに来たよ。直接的な処罰は一切できない」
その言葉が出た時、エミリーとアシュリーが怒号をあげた。
「「何故そんな処罰なんだ!!」」
「二人とも落ち着いて。これは仕方ないことなんだ。この国では女王しか王座には座れない。お夜伽様はまだ政治知識など一切ない」
確かに、これで女王を交代させればこの国は傾き始めてしまう。
それに、このことが諸外国に漏れたらなどを考えるとそれが妥当だ。
それでも、この結果はかなり…私もカチンときた。
「重ね重ねで申し訳ない、エミリー・アシュリー。君たちを女王の監視隊に任命する。」
そのエリックさんの声は、どこか無常で無機質な感じがした。
当然二人は少々反論した。なぜ私達がこの命なのかと。
「君たちは僕とともに魔王を倒したほどの強者だ。これ以上なにが言える?」
そう彼女達を窘めると、エリックさんは女王と共に玉座を後にした。
「エミリー・アシュリー」
「大丈夫よ緑。私達がいる限り…あの人に食人なんて…」
「違うの!!彼女は最初こそ理想の女王像になるために母親の真似事をしていたんだろうけど、だんだんと殺すことに快感をおぼえるようになったの。」
そう、彼女は最初こそはいやいや食べていたのだろうけど、段々と拷問や殺人に重きが置かれてきたことは明確だ。
「それなら簡単だよ」
アシュリーはにやっと笑ってこう続けた。
「どんなことをしてもあの人と使用人を近づけない。あの人は容姿のいい人しか殺さないから」
そう言いながら彼女の剣を握る手に力が入るのが見えた。
「私も彼女をしっかりと見張りますので、緑は凶悪犯罪者を捕まえてください」
二人はそう言いながら私に笑いかけた。
~病院~
城の近くにある、テリーザが入院している病院に私はいた。
「緑、あの人捕まったんだな。本当にすごいな…」
「そんなことないよ、なんなら女王がカニバリズムをしていることは、テリーザのおかげだよ」
実際あの手紙がなければ、テリーザを助けられなかった。
「あのさ…緑。俺緑の組織にまだいてもいい?」
テリーザは捨てられた子犬のように私を見つめてきた。
「勿論よ、なんなら拠点までもらったのよ!!」
私はあの後エリックさんにメインストリートの中規模アパートを貰った。
そこに資料などを持ち込んだら、もう立派な拠点だ!!
「第一回はこの組織の名前を決めようね!!」
「おう!!でもダサかったりしたら却下!!」
「わかってるよ~」
「あと、俺にもプロファイル…教えてくれよ」
そう言ってテリーザは顔を背けた。
こうして私達2人だけの組織が結成された。
しかし、貴方達には分かっていてほしい。
シリアルキラーは貴方の町にもいる。もしかしたら貴方の隣にも...
やっと一つの事件が解決しました。
テリーザも仲間になり、パワーアップした組織をまだまだ見守ってください。




