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 どきどきしてる。

 ゆうりさんと二人っきりだ。

 

「手上げて」


「…うん」


 言われるがまま、両手を上げた。

 本当にやるんだ。

 何にも覆われていない彼女の白い肌が目の前にあって、握られたタオルがぼくの身体を優しく撫でていく。

 異常な状況だけど、どきどきしてるのはそれだけのせいじゃなくて。


「案外楽しいね、これ」


「ね、ねえ。流石に身体くらい自分で洗うよ」


「だめ。全部してあげなきゃ意味がないの」


「ん……っ。く、くすぐったい。ちょ、そこは良いよ!」


「だめだって。女同士なんだし恥ずかしがることないじゃない」


「性別とか関係なくて、普通に恥ずかしいよ。ねえ、今更だけどナンデこんな事してるの? ちゃんと訊いてなかったけど」


 ゆうりさんがシャワーを握って、ぼくの身体の泡を流していく。


「みつき君が、片倉くんの言うことなんでも聞いてたから。真似したら好きがわかるかなって思って」


「極端!」


 吹き出してしまった。たぶん、自分自身に対してだ。

 ぼくは、たしかにそうかもしれない。

 ちひろの言うことはなんでも聞いてあげたかった。

 でも、今はちひろが嫌がることをわかっていまここに居る。だからどきどきしているんだ。

 足元が急に見えなくなったような、そんな不安感があるのだ。

 

「ねえ」


 シャワーヘッドが落ちる音がした。ゆうりさんの甘い匂いがした。

 彼女の顔が目の前にあった。両手を背中に回されて、柔らかな感触を感じた。


「な、なに?」


「キスする」


 ぼくが答える前に彼女の唇が触れた。それはほんの一瞬で、ちひろとしたキスとは違って、随分あっさりしたものだった。


「…えっと」


「小学生の時にして以来だよね。あのあと、みつき君は片倉くんと付き合っちゃったんだよね」


 彼女がくすりと微笑んだ。


「あ、うん。そうだったけど……」


「うん。やっぱり」


 ゆうりさんが身体を離して、シャワーを拾い上げながら、なにかに納得したように「うんうん」と頷いている。

 彼女の濃い黒髪が濡れている。白い肌とのコントラストが鮮やかで、本当に美人なんだなあってぼんやり思った。


「どうか、した?」


「やっぱり、わたしはあなとのこと好きなんだと思う」


 「ああ」とか「うう」とかよくわからない返事をしたと思う。

 急に言われてびっくりしたのもあるし、なんて答えていいか分からなかったのだ。

 だってぼくは、ちひろのことが好きなはずだから。

 彼女がふっと笑うまでは、どぎまぎして、視線をさまよわせていた。


「先お風呂浸かってていいよ。わたしも身体洗っちゃうから」



「あ……うん」


 結局、言われるがままだ。お風呂に浸かった。

 ぼくは、どうしたいんだろう。ちひろに訊いても、もう教えてくれないのかな。

 鼻がツンとしてきてぎゅっと目を閉じた。

 どうしよう。どきどきしてる。

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